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The Killers キャリアを振り返る


Fuji Rock 2024での待望の来日が間近に迫るThe Killers。彼らのディスコグラフィを、私の個人的な思いと共に振り返っていきたい。

基本情報

アメリカ・ラスヴェガス出身のオルタナティヴロックバンド。2004年のデビューから今年で20年を迎え、これまでに7枚のアルバムをリリースしている。メンバーは以下4人で、結成時から(ほぼ)変わっていない。ギターのDaveとベースのMarkはたまに参加していないアルバムがある。以下タイムラインが分かりやすい。

ボーカル:Brandon Flowers
ギター:Dave Keuning
ベース:Mark Stoermer
ドラム:Ronnie Vannucci Jr.

私が思う彼らの魅力をシンプルに言えば、

①優れたソングライティングによる強いポップロックをスタジアム規模で演奏すること

②チャートやマーケティングに阿ることなく自らのやりたい音楽を信念を持ってやっていること

③ニューウェイブのバックグラウンドがあるおかげでギターロックの力強さを持ちながらも決してマッチョイズムには堕しないこと


この3つだと思っている。

以下、アルバムごとの感想を書いていきたい。アルバムジャケット画像の下の曲名は、私が一番好きな曲。


1st 『Hot Fuss』(2004)

“Mr. Brightside”

鮮烈なデビュー作。全米7位・全英1位を記録し、これまでに700万枚以上を売り上げている。

本作の魅力はなんと言っても強烈なフックを持つシングル曲の存在感。初めの5曲、特に”Jennie Was A Friend Of Mine”のシンセフレーズやボーカルにかけられた特徴的なエフェクトの強烈な存在感は、当時明らかに異彩を放つものであった。そこから間髪入れずに始まる”Mr. Brightside”のアンセムとしての風格。今では00年代の最高のロックアンセムの一つとして名高いが、私もラジオから流れてきたこの曲を聴いた瞬間に何なんだこれはと衝撃が走ったことを覚えている。

Somebody Told Me”も胡散臭いほどキャッチャーで歌詞もチャラいが、気になって仕方ない存在感がある。一方で”All These Things I’ve Done”はEとAの繰り返しに一番いいところでC#mを挟むという王道極まりないコード進行の上でゴスペルのメロディも取り入れ、次作以降顕著となる大陸的なスケールを先行して披露している。6曲目以降は曲の質こそ落ちるが、サウンドの無鉄砲な勢いや世界観は終幕まで少しも鈍らない。

彼ら自身にはインディロックのこぢんまりとしたスケールに収まる気は毛頭無く、それはいきなり大メジャーIslandsからデビューした事実や、当時のインタビューとMVを観ればよく分かる。「イギリスのバンドかと思った」というコメントをよく耳にする本作だが、ショウビズとがっぷり四つで組む気満々の鼻息の荒さや大陸的なスケールからはむしろアメリカらしさの方を断然感じていた。

当時のRedditを漁ってみたが「単なるチャラいポップバンドだろ?」という猜疑的な目で見る人間が多く存在したことは事実だ。評論家のレビューも、強力な曲とバンドの存在感を評価する側と、音楽的要素の未熟さを評価しない側に二分されていた。そういう意味ではThe 1975のデビュー時と似た状況だったと言えるかもしれない。The StrokesのNick Valensiなどは「俺たちの曲の方が”Mr. Brightside”より全然良いのに、売れてるのは向こうだ」という発言を残している。

いきなり売れたバンドに付きまとう雑音も巻き込みながら、彼らはその後の世界のポップロックシーンを制覇していくことになるのだ。


2nd 『Sam’s Town』 (2006)

“For Reasons Unknown”

ルーツの一つであるハートランドロックを掘り下げ、自分たちの音楽の確固たる芯を見つけることに腐心したアルバム。先人の遺産を援用することで音楽的な説得力を増した。

“Sam’s Town”とはベーシストMarkの実家の部屋から見えていたラスベガスのホテル兼カジノの名前で、煌びやかな世界を象徴するワードとして採用されている。しかし重要なのは、むしろその空虚さ、廃れた侘しさ、過去の栄光に縋る愚かさ、などを語るモチーフとして用いているという点だ。アルバムジャケットはそれを視覚的に表している。物事の良い面だけでなく裏側の事実を語るというストーリーテラー的な資質、内省的視点を持つことの出来る稀有なバンドであることを物語っている。

音楽的には、1stではメイン要素ではなかったハートランドロックの実直な力強さがあらわになり、そこに1sほど過剰ではないが依然目立つシンセがトレードマークとして重なる。ボーカルエフェクトも残ってはいるが控えめになり、ボーカルの声質の強さを活かすようになっている。

過去のバンドの名前を挙げるなら明らかにBruce SpringsteenU2だろう。特にU2の影響は大きく、『How To Dismantle An Atomic Bomb』期のU2が『The Joshua Tree』を再訪したようなスケールの大きさを感じ取ることができる。顕著なのが"When You Were Young"と"Bling (Confession Of A King)"で、歌い方が00年代のボノそのものだし、ギターやベースのフレーズにもその影響を多分に感じることが出来る。

アンセミックなメロディにはより磨きがかかり、単にセンセーショナルなだけでなく名曲としての風格を持つ普遍的なポップソングも生み出し始めている。”Read My Mind”と”Bones”は特にそれがよく分かる名曲。また1stは曲自体の質に大きなムラがあったが、本作では終盤にも"This River Is Wild"や"Why Do I Keep Counting ?"といった強力な曲が配置されており、ソングライティングの充実を感じ取れる。ここもかなり大きな進歩。

前作の大ヒットによって生まれた雑音やプレッシャーをものともせず、それを遥かに上回るスケールとクオリティを両立してみせた、文句のつけようのない名盤。


3rd 『Day & Age』(2008)

“Losing Touch”

2ndで自らのバックボーンの一つ=大陸的なスケールを持つハートランドロックを再確認しロックバンドとしての力強さをアピールした彼らだったが、本作ではもう一つのバックボーンであるニューウェイヴを軸に、ポップソングとしての魅力、カラフルさを追求した作風になっている。

何より先行シングル"Human"を聴けばそれがすぐ分かる。スネアを強調したキャッチーなリズム、カラフルなシンセのリフ、前作のように大声を張り上げないジェントルなボーカル、そしてPaul McCartneyをも彷彿とさせる傑出したソングライティング——。その全てが見事に作用した完璧なポップソングだ。

1曲目"Losing Touch"はヴァースではブラスセクションを入れポップさを強調しながら、サビで敢えてそれらを取り払う巧みな技術を見せる。3曲目"Spacemen"では最大の影響源であるNew Orderのリズムを使いながら、何段階にもわたってキャッチーなメロディが襲いくる圧巻のポップソングに仕上げている。7曲目"I Can't Stay"や9曲目"The World That We Live In"では過剰さを抑えたユニバーサルなソングライティングを見せる。ここまでの曲を書けるようになるとは、1stの時点で想像するのは難しかっただろう。

「ポップであること」というテーマは至極明確で実際にそれに見合う曲も揃っているが、逆に言えばそれ以外のテーマは存在しないため、1stとはまた別の意味で軽薄な印象を与えてしまいがちなアルバムではある。そこを突く評論も多かった。

ただ本作のようなアルバムもディスコグラフィに多様性を持たせるという意味で重要だと思うし、何より本作の曲の強さは、本作後の六大陸完売ツアーでのパフォーマンスで見事に証明された。ライブバンドとしての確固たる評価を獲得したのもこの頃からだ。


4th 『Battle Born』 (2012)

“Miss Atomic Bomb”

これまでは愚直に巨大化してきたバンドだが、3rd後の長い世界ツアーが終わった2010年1月から2011年9月まで、彼らは初めて長期休暇を取った。そのツアーと休暇を経て、 スタジアムロックバンドとなったことを客観視し、それにまつわる苦悩や覚悟を基に作られたのが本作だ。いわばスタジアムクラスのメランコリーアルバムと言えるだろう。

サウンドでは前3作のような明確な個性は見えない。これまでの若さ故のB級感ある勢いは一掃され、本格王道ロックバンドとしての姿が強調されている。Brandonの伸びやかなボーカルを軸に据えているように聴こえる。2ndでは自分たちの躍動する魂を表現するためにU2やBruce Springsteenの意匠を借りていたが、本作ではノスタルジーに浸る歌詞のもと、EaglesMeat LoafDire Straitsなどのオールドスクールなアメリカンバンドにまで参照源を広げている。"Here With Me"の安定感抜群のAOR的スケール感はその終着点だと思う。

"The Way It Was", "Miss Atomic Bomb", "The Rising Tide"を筆頭に曲は佳曲揃いではあるが、これと言ったキラーチューンには欠ける。この落ち着いたアダルトロック路線は、彼らにまだまだ暴れてほしいファンからすると物足りなく写ったかもしれない。完成度の高さは疑いようが無いしよくできた佳作ではあるが、ファンはこのバンドに対してアルバム単位の完成度ではなく突き抜けるシングル曲を求めているのだ。


5th 『Wonderful Wonderful』(2017)

“Rut”

先行シングル"The Man"と"Run For Cover"を聴いた多くのファンは、キラーチューンバンドとしてのThe Killersの帰還に興奮したはずだ。前者は70年代ファンクや80年代ポップのギラついた音を身に纏いデビュー当時の心情を大袈裟に歌い上げた。後者はJoy DivisionとNew Orderのちょうど中間のような80年代ポストパンク風のクールな曲に仕上げている。

しかし期待に胸を膨らませてアルバムを聴いたファンは、今ひとつ突き抜けない作風にガッカリしただろう。まず1曲目がスピリチュアルで分かりにくい5分の長尺曲。出だしでつまづいてしまう。残りの曲も、何がやりたいのか狙いがはっきりしない。シンセポップならシンセポップ、ポストパンクならポストパンクなど、思い切って何かのサウンドに統一して作り上げた方が面白かったかもしれない。

先行シングル2曲など良い曲もあるにはあるが、全体的に曲が弱い。"Rut", "Some Kind Of Love"等のバラードならフックが希薄でも全然聴けるが、"Life To Come"のように無理矢理大声で歌い上げてハリボテのスケール感を広げるだけの曲は面白くない。8〜10は特に印象が薄いし、ギターの音色一つとっても音に統一感が無いのでとっ散らかったままアルバムが終わる。

ギタリストDaveは半分くらいの曲にしか参加しておらず、本作後のツアーにはDaveとMarkが両方参加しなかった。また2年前のBrandonのソロ作『The Desired Effect』と地続きの作風になっていると感じることも踏まえ、Brandonのソロ曲とThe Killersの境目が曖昧で、バンドとしてのまとまりに大きく欠けた、初の迷作と言って差し支えない内容になってしまっている。


6th 『Imploding The Mirage』 (2020)

良し悪し以前にまずどうしても気になって仕方ないのが、多くの曲のサウンドが完全にThe War On Drugsのサウンドと同じだという点で、BPM速めのタイトかつスクエアな8ビートやシンセの音色/フレーズに至るまで、ここまで露骨に同じだとさすがに驚いてしまう。BrandonのボーカルがあるからまだThe Killersと気づくことはできるものの、別の有名バンドの音に似過ぎているというのはロックバンドとして根本的な問題だと思う。

ソングライティングは前作以上に煮え切らない。ほぼ全ての曲がThe War On Drugs節の爽やかで抜けの良いサウンドだから一見良い曲に聴こえるが、いくら聴いてもメロディが全然印象に残らない。ああThe Killersだなと思えるのは”Caution”くらい。ただ声を張り上げるだけではない、もう少し良い曲を書けるバンドだと思っていたので、こんなもんじゃないだろうという思いばかりが残る。

演奏も、それをカバーするほどの力が無い。何よりも個性/記名性が無い。The War On Drugsが良いのはあのサウンドにAdam Grandusielのあの個性的なギターが加わるからだ。Adamのギターが無いのにThe War On Drugsの音を表面的に演ったところで特別なものが生まれるわけがない。Daveが本作に参加していたら、これほど没個性なサウンドにはならなかっただろう。

多彩なゲストや新たな要素を取り入れて新生The Killersを作り上げようという意気込みはすごく良いと思うけど、それを安易にやりすぎてしまったなと思う。前作もそうだが、プロデューサーによって音がコロコロ変わる時点で、結局バンドとしての軸が定まっていないんだと感じてしまう。個人的にはワースト作品。


7th 『Pressure Machine』(2021)

“West Hills”

これは一曲目"West Hills"の弦楽器とベースの鳴りを聴いた時点で傑作だと思ったし、今でもそう思っている。無理に声を張り上げてアンセムを捻り出そうとして失敗していた前2作はなんだったのだろう。落ち着いた曲調に集中することで、結果的にBrandon本来のドラマティックでウェルメイドなソングライティングが、”Quiet Town”, “Sleepwalker”, “In The Outside Car”などで驚くほど素直に復活している。

サウンドはカントリー風ではあるがカントリーではない。ギターは空間系のエフェクトを多用しているし、鋭いディストーションも数曲で使っているので適度な躍動感がある。Daveのハードロック風ギターはサウンドに良い意味での裏切り、メリハリを加えるという意味で相当上手いと思うし、もし彼がまた不在で代わりにセッションミュージシャンを起用していたらこんなに良いサウンドにはなっていなかったと思う。

タイトル曲に顕著だが背景には薄いシンセのレイヤーや柔らかい弦楽器が絶えず流れており、アルバム全体にアンビエント風の心地よいムードを生んでいる。このバンドは良くも悪くも聴いてると疲れてくるタイプのバンドだったが、本作に限ってはその通りではない。

ここに来てこれだけの作品を作り出すとは正直予想していなかった。個人的には前二作は借り物感がして全然キラーズらしさを感じられなかったが、久しぶりにキラーズ本来の良さが出てきたなと思った。本作でのリセットを機に、再び強烈な個性とフックに溢れたポップロックを演奏してくれると信じている。


隠れた名曲

代表曲については各サブスクのプレイリストにまとめられているので、ここでは私が思う彼らの隠れた名曲を挙げていきたい。

Change Your Mind”……派手な曲が多い1stの中では地味なギターポップ。後の2nd・3rdでのソングライティングの充実を予感させるような名曲。

Why Do I Keep Counting ?”……2ndの実質最終曲。盛り上がりに盛り上がったアルバムの最後らしく、しっかり盛り上がりながらも半音を多用した切ないコード進行になっている。

Losing Touch”……3rdの1曲目。アルバム紹介のところで書いたけど、巧みな緩急を使えるようになったんだなあと思わせる名曲。

Prize Fighter”……4thのデラックス盤に収録。4thアルバム本編には無かった親しみやすい勢いやキャッチーさがある。逆に言えばあの時期はこういう曲を敢えて外すモードだったということ。

"Tranquilize"……未発表曲集『Sawdust』収録。Lou Reedが参加している。ダークでドラマティックな傑作シングル。これは2ndに収録していても違和感無かったと思う。

"Shadowplay"……同じく『Sawdust』収録。Joy Divisionのカバー。映画『Control』に提供され、この時期のライヴでもよく演奏されていた。かなり出来が良いと思う。

"Move Away"……同じく『Sawdust』収録。2ndアルバム未収録曲。このバンドにしては珍しくシンセが皆無でオーソドックスなオルタナティヴロックとしての躍動感に溢れたクールな名曲。映画『Spiderman 3』に提供された。

Just Another Girl”……ベスト盤『Direct Hits』(2013)からは”Shot At The Night”とこの曲の2曲がシングルカットされ、’80sポップ風の前者の方が代表曲になっているが、こちらの方がより従来のキラーズ節(特に3rd期)という感じで分かりやすい。


関連作品

関連作品についても簡単に書いておきたい。

The Killers 『Sawdust』(2007)

1st,2ndアルバム未収録曲のコンピレーション。上にも書いた"Tranquilize", "Shadowplay", "Move Away"の三曲が目玉だが、他にも「最もメタル寄りの曲」とDaveが語る”All The Pretty Faces”など、サウンド面で面白い曲がいくつか入っている。

Big Talk 『Big Talk』(2011)

ドラマーRoniのソロプロジェクト。ストレートなパワーポップ/ポップロックの佳曲が目白押し。The Killersファンはまず間違いなく楽しめると思う。

Brandon Flowers 『Flamingo』(2010)

初のソロアルバム。どちらかというと綺麗なボーカルメロディを聴かせる室内的で落ち着いたアルバム。ソングライティングは非常に充実しており、特に"Only Young"と"Hard Enough"の2曲は名曲。また”Crossfire”などバンド本体に近いアンセミックな曲もいくつか入っておりかなり完成度の高い名作だと思う。

Brandon Flowers 『The Desired Effect』(2015)

2枚目のソロアルバム。1stソロよりも思いっきり’80sポップに寄せた音。”Can’t Deny My Love”, “Lonely Town”, “Diggin’ Up The Heart”などなど、ポップな佳曲が多数収録されている。5th『Wonderful Wonderful』の2年前ということもあり、サウンドやボーカル面であのアルバムと共通する点が多いと思う。むしろこっちの方がサウンドの焦点が絞れていて思い切りが良いし、何より曲の強度も遥かに高い。


最後に

初期3作の圧倒的なポップさの前では、他に何も要らなかった。曲が全てを蹴散らした。ただその後の4th〜6thではソングライティングや方向性に迷いが見えたし、初期3作と比べてトーンダウンしたのは誰も否定できないだろう。

しかしながら不思議なことに、それでもなお “もう落ち目だなという雰囲気” をこのバンドからは全く受けない。それはひとえに彼らのカリスマ性と、そして何より卓越したライブパフォーマンス力のおかげだと思う。その実力を体験できるFuji Rock参戦者がとても羨ましい。






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