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Kings Of Leon - When You See Yourself (2021)

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総評: 8/10



確かにここには『Because Of The Times』の頃のようなエッジの効いた一触即発の音は無い。しかし果物が熟れて枝から落ちる寸前のような、豊熟のバンドアンサンブルとエモーショナルなムードを楽しむことが出来る。

本作のムードを支配しているのは"100,000 People", "A Wave", "Fairytale"といった夕暮れのミドルナンバーだ。今までもこういった穏やかな曲は彼らのメイン曲調の一つではあったが、本作は特にその傾向が強い。特に息が詰まるほど美しい空気の中で紡がれる"A Wave"は、KOLのキャリア史上最も感傷的/感動的な曲の一つと感じる。

お馴染みのアップテンポナンバー、"The Bandit", "Golden Restless Age", "Time In Disguise"なども、今までより憂いや内省の色が濃く、深みのある表情を見せる。ふくよかなシンセサイザーが曲を暖色に染め上げる"Golden Restless Age"は特に素晴らしい。

物憂いがそれでいてどこか暖かなマイナーコードを基軸に、ロードムービーのような流れる展開と慎ましい美を存分に持ち合わせた本作は、『Only By The Night』と肩を並べる最高傑作であると言っても過言ではないだろう。

恐らく本作は、KOL史上、最も良さが分かりにくいアルバムだろう。分かりやすい曲は明らかに少ない。インスタントなカタルシスが求められるサブスク時代においては、本作のような深い傾聴を必要とする作品はお呼びではない。退屈な作品という烙印を簡単に押され、それっきり聴かれないかもしれない。特にファストなロックンロールをやっていたKOLのようなバンドだと、大人しいアルバムに理解の無いファンが特に多いことだろう。

だが音楽の奥深さとは、初聴きではいま一つだと感じた曲が何度も聴くにつれ耳から脳、そして心を侵食していく過程、「分からない」から「分かる」になる過程、そこにいること自体を楽しむことではなかったか? 本作のような真に滋味深く良質な作品が、何度も何度も繰り返し聴かれることを切に願う。



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