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Tom Chaplin 『Midpoint』(2022)

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6/10
★★★★★★☆☆☆☆


かなり落ち着いた内容。装飾はギターとピアノのみ。先行シングル"Midpoint"の時点で激渋だったが、アルバム全体もそんな感じ。

そこらのボーカリストのアルバムであればすぐに忘れ二度と聴かないだろうが、何回も聴いてしまうのは、ひとえに彼の声があまりに良いから。単に歌が上手いだけでなく、甘いだけでもなく、彼の声には常に不安と陰が付き纏っている。彼の声を聴いていると、私の中の不安をそのまま優しく抱きしめてくれるような、不思議な温かさを感じる。

思い出せば、Keaneのデビュー作『Hopes And Fears』(2004)は喪失と哀切に満ちたアルバムであった。その後ドラッグ中毒やメンバー変更を経た4th『Strangeland』(2012)で心機一転したかと思いきや、「自分は見知らぬ土地の旅人だ。時間も余裕も無い」とやはり不安が色濃く残っていた。ソロ1st『The Wave』(2016)はソロデビューということでエンパワー的な歌詞もあったが、それでもやはり節々からメランコリックな印象を受けた。そして本作には40代の不安と覚悟が表されている。いつかはこういうアルバムを作るだろうと思っていたが、それが本作だ。

一つのアルバムとして大傑作だとは思わないし、幅広い層の人に響く内容だとも思わない。Tom自身もそれを察してか「みんなが期待してたアルバムじゃないと思うけど、じっくり聴いてほしい」と言っている。地味だけど、私のように彼の声を愛する人間にとってはかけがえのないアルバム。いつか、本作に少し存在する熱唱やアップテンポ曲をも全て排除した素の極致とも言えるアルバム——Paul Buchanan『Mid Air』のような——も作ってほしい。


1,2,5,7,9,11とか地味の極みだが、とても美しい。心がほどけていく。

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