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2022年 ベストアルバム (旧譜)

私は普段旧譜を聴くことをメインとしている。比率は旧譜:新譜=2:1くらい。大好きな旧譜を再訪したり、聴いたことのなかった名盤を聴いてみたり。新譜を追うのとは全く別の楽しみがある。

2022年によく聴いた旧譜(愛聴盤&初聴盤)を12枚、去年に引き続き記録しておく。


★大賞
Prefab Sprout 『The Gunman And Other Stories』 (2001)

(愛聴盤)

日本に一時帰国時、実家のCD棚から救出した一枚。数年ぶりにガッツリ聴いたが、やはり素晴らしい。『Andromeda Height』にも勝るとも劣らない大AOR。今のアーティストでこれくらい曲の書ける人がいたら教えてほしい。




Steve Hiett 『Down On The Road By The Beach』 (1983)

(愛聴盤)

実家のCD棚その2。変な夢の中にいるような、終始とぼけたサイケデリックな音像。そんな中で突然目が覚めるようなアルペジオが鳴り響いたり、ブルースを半ばふざけて演奏したり、面白い。アンビエントに堕しない、強い個性を持ったギターインスト。




R.E.M. 『Murmur』 (1983)

(愛聴盤)

今改めて聴くと新しさをあまり感じない。それは、いかにこのスタイルがそれ以降のインディロックの土台/基本的スタイルになってるかの逆説的な証左に他ならない。簡潔なアルペジオと歌メロがなぜこんなにスッと胸に入ってくるのか。みんな一旦スタイルやアティチュードやリリックから距離を置き、良い曲を書くことに注力した方がいい。




Deacon Blue 『Raintown』 (1987)

(初聴盤)

とにかく良い歌を歌うことしか考えていない。こんなに素朴で飾り気のない歌は、逆になかなか聴けない。80年代音楽の表面的特徴を引用するバンドは多いけど、この姿勢の部分を引き継いでいるなと思うバンドには出会えない。とにかくみんな一旦、スタイルから離れよう。良い曲を書いていない人の主張なんて聴く価値がない。




Mojave 3 『Ask Me Tomorrow』 (1995)

(愛聴盤)

正直、Slowdiveのどのアルバムより好き。頭がおかしくなるくらい美麗で哀切で素朴なアルバム。世紀末の永遠のセピア色に閉じ込められる。




Third Eye Blind 『Third Eye Blind』 (1997)

(愛聴盤)

人生で最も好きな作品の一つ。オアシスみたいに無神経にガナるヤンキーなんて好きになれるわけないし、レディオヘッドの悩みなんて自分には全く関係ないし、ニルヴァーナみたいにギター壊してるの見るとギターが可哀想になるし。そんな普通の人の普通のアレコレをここまで切なく親しみやすく歌うバンドを私は他に知らない。今だとどのバンドが近いんだろう。




Kent 『Isola』 (1997)

(愛聴盤)

芯は熱く燃えているが表面は凍えるほど冷たい。最高のギターロック。ただギター鳴らして歌ってるだけなのに、何でこんなに悲痛なオーラが出てくるんだろう。出してる音は違うけど、Fontaines D.C.にも通じるような、特有の悲痛な雰囲気。選ばれしバンドにしか出せないオーラがある。




Mark Hollis 『Mark Hollis』 (1998)

(愛聴盤)

楽器は和音を構成するというよりも"ただの音"として存在しており、特にパーカッション/クラリネット/アコギの無秩序な配置からは狂気的な美を感じる。まるで山奥の廃墟で一人演奏しているかのような無性に裏寂しい荒廃とした雰囲気がある。

ただ、実験/芸術音楽の極北である一方、Markの人柄というか、素朴な優しさを感じるのも素晴らしいところ。時代から逸脱した傑作。




The Futureheads 『The Futureheads』 (2004)

(愛聴盤)

想像してほしい。もしThe Jamの簡潔な切れ味の良さとXTCの捻りを融合できたら、どれだけ刺激的だろうか。それが本作だ。Andy Gillが惚れ込み、Bloc Partyが「やりたかったことを先に完璧にやられてしまった」と嘆き、Franz Ferdinandが2004年のベストアルバムに選んだ本作。ポストパンクの歴史と遺産を完全に理解している音が鳴っている。Interpolのデビュー作と本作さえあれば、21世紀のポストパンクはそれで事足りる。




Wild Nothing 『Gemini』 (2010)

(愛聴盤)

部屋の外に出たくても出られない、でも出たとて特にやることもないし出たら出たで家に早く帰りたい、それでもカーテンの外の青空が恨めしい、そんな若者のためのアルバム。このバンド(というかJack Tatum)はこの後どんどん上達してプロフェッショナルになっていく。それもまた若者の理想の成長という感じで良い。




Paul Buchanan 『Mid Air』 (2012)

(愛聴盤)

基本はピアノとボーカルのみのシンプルなアルバムだが、遠くの方で鳴る微かな管絃楽器の儚い響きがとても良い。もう戻れない、甘く切ない思い出が蘇る。あの楽しかった時に物理的に戻ることは出来ないが、記憶と音楽の中ではいつでも戻れる。それくらいがちょうど良い。




The Electric Soft Parade 『Stages』 (2020)

(初聴盤)

完全に見落としていた。このバンドは2002年のデビュー作が儚い名盤だが、それで終わらず、ソングライティングの求道者として進化し続けている。本作は母親を失った悲しみと覚悟を確信的な自信と力強さで歌い上げ、演奏する。もし今年リリースだったらトップ3に入るクラスの名作。余談だが、ロンドンのHappynessもこのバンドのようになっていくんじゃないかな、と勝手に思っている。





蛇足:ガッカリした2022年新譜

どこにも書くところがないので、去年同様、ここに記録しておく。

Placebo 『Never Let Me Go』

マンネリの極み。「ロック!嬉しい!最高傑作!」とか言ってる人は、ディストーションギターが鳴ってれば何でも良いのだろうか。

Orville Peck 『Bronco』

ありきたりなカントリーポップに成り下がり、ガッカリこの上ない。しかしあまりに良いこの声を活かすには、変なサウンドよりも王道の方が明らかに合ってるだろうから、マーケティング的には大正解だろう。それがまた何ともモヤモヤする。

Foals 『Life Is Yours』

このバンドは表面的な音の意匠をいくら変えたとて、いかんせん肝心の曲がマンネリすぎる。『Total Life Forever』でのシフトチェンジは劇的だったが、それ以降はライブ活動中心にシフトし、スタジオアルバムでは進化が止まってしまった印象。

Oliver Sim 『Hideous Bastard』

辛く深刻なテーマをしっかり聴かせたいならよっぽど曲が良くないと。辛い歌詞+煮え切らない曲では聴く気が湧いてこない。10年代最高のインディロックバンドの一つのソロ作という期待値に応えられなかった作品。






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