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Travis 『L.A. Times』(2024)

5/10
★★★★★☆☆☆☆☆


個人的な感覚だが、Travisは名作5th『The Boy With No Name』(2007)の時点で「Travisってこういうバンドだよね」というパブリックイメージを完全に確立させたと思っている。その後の四作はそのパブリックイメージ、つまり「美メロでアコースティックロックで優しい声で優しい性格」——をメンバー自身が理解し、ファンの為にそれをなぞっているような印象がある。

その中でも7th『Where You Stand』(2013)と9th『10 Songs』(2020)はそれを徹底して追求した作品、6th『Ode To J.Smith』(2008)と8th『All At Once』(2016)はそこに新たなデザイン/イメージを加えようと試行錯誤した作品、そう捉えている。そしてリリースされた本10thはその中間で、新たな要素もあるにはあるが、やはりパブリックイメージに忠実な作品になっていると感じた。

A面(1〜5曲目)は往年のTravisを思い出させる良い曲が多い。アコースティックの中に凛とした芯を持つ”Bus”や”Alive”は『The Boy With No Name』を思い出させるし、"Live It All Again"の頼りなさげな美しいメロディは2nd『The Man Who』(1999)や3rd『The Invisible Band』(2001)を思い出させる。両シングル"Raze The Bar”や"Gaslight"ではキャリアを包括する、このバンドらしい優しく力強いメロディを聴かせる。この二曲は『Ode To J.Smith』以降では一番良い曲かと思う。

B面(6〜10曲目)はA面と比べると曲自体の良さ・魅力では劣るが、少し新たな要素を感じさせる。"Home"で繰り返される力強い8ビートや単純なA→D→Eのスリーコード、そして"I Hope That You Spontaneously Combust"のチープなリズムなどは、90年代後期のラフなオルタナ(Super Furry Animals, Eels, Beck)を思い出させる。最終曲"L.A. Times"はFranのポエトリーリーディングが乗る。昨今の若手ポストパンクバンド群を意識したのかは分からないが、いいアクセントになっていると思う。

身も蓋もないことを言えば、ソングライティング自体の強度は全盛期(2nd〜5th)には及ばない。だけど、いまだにそれらと同等レベルを求め続けるのは酷な話だし誰も得しないだろう。これ一作だけ見れば十分楽しめるアルバムだし、何よりベテランバンドとして、自分たちの強みと新しくやりたいことをちょうど良いバランスで、そしてベストを尽くして作り上げたという事実だけで素晴らしいと思う。





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