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Loyle Carner 『hugo』(2022)

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9/10
★★★★★★★★★☆


待ちに待った2年ぶりの3rdアルバム。最近少し過渡期/拡散期に入りつつあるUKジャズだが、本作はそのシーンの華(しかも私の好きな人たち)がこれでもかと参加しているクロスオーバー作品。ヒップホップ、UKジャズ、ネオソウルの今をグラデーション豊かに行き来する。

リリックは、白人×黒人ミックスとしての葛藤、いまだ無くならない差別、実父への複雑な思い、一児の父としての迷い、変わりゆくサウスロンドンへの複雑な感情、全てが薄っぺらなものになっていく社会への警鐘、などが迫力たっぷりに吐露されている。詩人John Agardと活動家Athian Akecの言葉をサンプリングとして挟みながら、彼の鋭い言葉が突き刺さる。

彼は常に虚飾を避け、正直過ぎるほど正直な言葉を吐く。心揺さぶられるものがいつもある。「自分以外のもの全てが嫌いだ/自分のやってきた全てが嫌いだ」「黒人は理解できない/白人は聞く耳を持たない」と言ってしまえる強さ。フロウで誤魔化すのではなくライミングと言葉の強さで持っていけるラッパーこそ強いと、個人的にはいつも思う。

1,5,6,7のドラムはRichard Spaven。アタックの強いスネア/シンバルを特徴とする彼の起用は、実に的確な人選だと思える。一曲目"Hate"から早速彼の攻撃的なドラムを聴くことができる。どのドラマーとも完璧に馴染むトーンを持つ(のに記名性高い)Rocco Palladinoのベースの上で、Richardのドラムが雄弁に動き回る。

2人の脂の乗った演奏は、特に"Plastic"が分かりやすい。いまだに語り継がれるYussef Kamaalの名作『Black Focus』でのYussef Dayes × Tom Driesslerの名演に匹敵する。(ちなみにRoccoとYussefも、Yussefのソロ作とかTom Mischのソロ作で多数共演している。もう全員が全員と何かしらでコラボ済みという感じ)

Alfa Mist(5,6,7)とPuma Blue(4,8)も参加している。やはり2人の参加曲はメランコリックでシネマティックなものに仕上がっている。Alfa参加曲(特に"Homerton")は、一聴してすぐに彼のピアノと分かる視覚的な広がりがある。Richard Spavenとの相性の良さは、2人のプロジェクト44th Moveで確認済み。

Puma Blueは、ギターで"Speed Of Plight"に、ギター/ピアノ/ドラムで"A Lasting Place"に参加している。彼らしい極度にメランコリックな世界がたっぷり繰り広げられている。スネアの音からしてもうPuma Blue。この2人の参加は、2人の大ファンとしてかなり嬉しい。

Jordan Rakeiも参加している(4,6,9)。プログラミング、シンセ、バックボーカルを担当している。アルバム終盤、"Polyfilia"での神々しさすら覚える浮遊感溢れる音作りは彼のソロ作『What We Call Life』(2021)ではあまり聴けなかったもので、こっちの路線でアルバムを聴いてみたい。

プロデュースはじめ、プログラミング、ギター、シンセと全曲で八面六臂の貢献を見せるkwes.に触れないわけにはいかない。Solange『A Seat At The Table』やNubya GarciaSource』といった歴史に残る名作でプロデュースを務めた彼だが、Loyleとはデビュー作から3作連続でのタッグとなる。メランコリックでソウルフルなサウンドメイキングを背景に、Loyleのラップが水を得た魚のように吐き出される。

特に"Nobody Knows"での生演奏をサンプリングのように聴かせる手法、"Homerton"でのメンバー各演奏の巧みな構成(Richardのシンバルを敢えて遠くに配置するなど)、"Plastic"中盤のアナログシンセ・終盤のギターソロ(風シンセ)など、もうセンスの塊。出会うべくして出会った完璧なタッグだと言える。

豪華かつ的確なメンバーが勢揃いで全員圧巻のプレイを見せるし、Loyle自身も明らかにゾーンに入ったキレキレのラップを聴かせる。惑星直列的な傑作。これまで私が聴いてきたサウスロンドン界隈のアルバムの中で10本の指に入る。今年のベストアルバムトップ10候補。


ベストトラックは演者全員がゾーンに入った演奏を聴かせる"Plastic"。"Nobody Knows"も良い。



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