首長にビジョンはある?―第1回新しい自治体財政を考える対話会2/3

こんにちは!

前回に引き続き、「第1回新しい自治体財政を考える対話会」の内容をご紹介いたします。

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※ここから対話会当日の内容です。
前回に引き続き、可能な限り当日の発言のまま紹介します。

1.首長にビジョンはあるか?

【A市】
事業が本当に必要なのかどうか、担当課の意見を取り入れる取組を検討しています。
学校の統廃合の議論も始まっていますが、減らす方も手詰まり、増やす方も手詰まりで、枠配分の数字の置きどころが難しい状況です。
農林水産の一次産業の推進など、増額したい思いがあります。
本市の総合計画で目標を掲げていますが、どこにどうお金を使うかという方向性は、見えていないと感じます。

【今村さん】
手詰まり感の1つは、何のためにやっているのか、という目標の共有や、目標そのものに迷いがあるのではないかと想像します。
福岡市の高島市長は、39歳で当選し、今11年目です。
ビジョンが明確で、福岡をこういうまちにしていく、というメッセージを市民にも職員にも常にしっかり発信しています。
全体がどう進むかが示され、そこにお金を寄せていかなければいけない。
そこに一番遠いもの、関連性の薄いものは、見直していかざるを得ない。
職員も議会もある程度理解しますし、最後は、市民にも伝えていくことは可能と思います。
総合計画があるのであれば、それを市民に分かりやすく示したり、みんなで目指せるものを掲げたりする必要があると思いました。
お金には限りがあるので、お金では解決しないんです。
最後は、みんなのモチベーションや満足度で解決するしかありません。
こんなまちづくりを目指す、という共有が満足度に繋がりやすいので、そのようなアプローチを提案しました。
A市の場合は、償却資産の税収が減っていくという厳しい現実の中で、確実に実現したい未来というのは、少し絞り込んだ方がいいと思います。
絞り込むことについて、選挙で選ばれた首長の発信するメッセージは重要です。
絞り込むことを、幹部職員から市長に働きかけるようチャレンジをしてみてください。
何かメッセージを発信したり、市一丸になれていますか?

【D市】
市が向かうべきビジョンは明確でないと、という思いがあります。
ビジョンを明確にすれば、向かう方向が見えてきて、必要な経費というものも集約できるのではないかと思いました。

【今村さん】
ものすごくミクロな話をしますが、福岡県水巻町のマスタープランを知ってますか?
私は、あれがすごくいいと思っています。
市民と一緒につくり、しかも、市民が読めるマスタープラン。
首長がビジョンを示さないということで、職員が悶々とするのであれば、職員や心ある市民でD市がどうなったらよいかを語り合ったりするところから始めてもいいと思います。
首長がビジョンを示すのを待っていたら、次の選挙まで待たないといけないかもしれません。
もしかすると、次の選挙でもビジョンなしで通るかもしれませんし。
問題意識を持っている職員や市民がいるのであれば、せっかく良いマスタープランがあるので、あれをみんなで読んでみると変わるかもしれません。
財政の話とは離れますが、ビジョンがほしいことについて市民と語れる場があると、次のステップに行きやすいと思います。
そのビジョンができるまでは、財政を破綻させないように運営する。
やりたいと思ったことが形になるまで時間を稼いでください。

2.枠予算を上手に導入する秘訣は?

【今村さん】
B市は、まだ枠予算を導入していなくて、これからどうしたらよいか、と言われていました。
実務的には、事前調査の様式にあるように、来年度の収入・支出の見込みの調査を行い、それを足し上げて、収入と支出のバランスが取れるように圧縮率をかけて配分する作業です。
ただ、作業だけを踏襲してもあまり役に立ちません。
枠予算を導入することについて、職員の間できちんと理解してもらわないと、「財政課が仕事を放棄した」みたいになります。
枠予算は、財政課がやっていることを、みんなにやってもらうこと。
現場に権限と責任を委ねる。
その代わり、市民に一番近いところで、市民が望む判断ができるようになります。
そこを理解してもらわないと進みません。
実際に与えられる枠は小さいので、「これだけかよ」というところから始まります。
取捨選択を自分でしなければいけないという責任感を、どのように自覚してもらえるかが、ほぼ全てです。
始めるまでの説明や、理解を得る時間は少しかかると思います。
これは、既に枠配分を導入しているA市、C市、D市の皆さんも共通で踏まれてきた道だと思います。
一番早いのはA市ですかね。

【A市】
本市は、12月の査定中に急にトップダウンで枠配分に方向転換したので、少し特殊かもしれません。
4~5年やる中で、担当課にも一般財源の考え方が浸透してきましたし、「サイフは一つ」という意識も以前に比べれば浸透してきたと思います。
これから導入するに当たり、まずは職員へのアナウンスや意識づけは非常に大事だと思います。
本市は、最初に部長を全員集めて、本市が置かれている現状を説明し、庁内全部に共有することから始めました。
歳入が落ちてきていること、地方債、公債費、義務的経費がこんなにあること、みんなが自由に使える金額がこれだけしかない、ということをしっかり見せました。
そうすると、特に若い職員が反応してくれましたし、みんなが財源にも注視するようになりました。

【今村さん】
予算編成の途上で始めたのに、職員がちゃんと理解してついてきたのは、すごいですね。
首長が枠配分に難色を示すことも結構あるんです。
財政OBが総務部長になり、そのまま副市長、市長となった場合とか。
首長自身が一件査定をしないと気が済まない、みたいな自治体もあり、なかなか難しいんですよ。
B市は、財政課で枠予算にしようと考えていますが、首長は枠予算をどう思っているんですか?

【B市】
今年の4月議会で、「枠配分の導入を進めていかなければならない」と説明していますので、前向きです。

【今村さん】
現場に権限と責任を負わせるということは、市民に対しても、現場に権限と責任を負わせていると説明できることなので、市民向けのアナウンスもしっかりやっていかないといけません。
お金がない中での枠配分なので、我慢を強いることになります。
これまでは、我慢を強いられることについて、現場は、「財政課に切られました」と言うだけでよかったが、今度からは、「自分たちがそうした」と言わなければいけなくなります。
現場の責任感をきちんと育てていくことが大事になります。
削って小さくなっていくことを目指しているのではなく、限られた予算だけれども、B市をこれからこんな風にしていくために、ここにお金を投じます。
そのお金を捻出するために、みんなで頑張って少しずつ薄く削っていくことや、必要性の低い事業や施策を廃止・縮小せざるを得ないということを、現場の職員が語れるようになることが大事です。
何を目指すのか、という旗印が市役所の中にあり、それを市民と議会と共有できていないと、「削る議論」をするだけになってしまいます。
小さくてもいいので、目指していくものを示すことです。
首長のイニシアティブがあれば可能だと思います。枠予算をやるのであれば、目指すB市の未来の目標の部分を見失わないようにしてください。

3.義務的経費の削減方法は?

【C市】
令和元年度の福岡市の予算編成について、枠配分が1割強、7割が義務的経費ということで、削減については義務的経費が寄与しているということでしたが、具体的にどのような見直しをしたのでしょうか。

【今村さん】
効果額という意味でいうと、福岡市は一般財源が4千数百億円あるので、そのうち、枠配分予算が450億円程度です。
10パーセントくらいしか枠配分にしていません。
この枠配分のお金をどれだけ削っても、その程度しか寄与しない。
予算編成において、「財源を確保しよう」という観点だと、寄与はしない。
でも、7割もある義務的経費に充てている一般財源は、3千億円弱あります。
3千億円の1パーセントは30億円です。
この数年間で、義務的経費を大きく見直していることはありませんが、経費の積算方法の制度を高めていくことで、それなりの財源が出てきます。
人件費でいうと、当初予算である程度低く積んでおいて、12月補正で給与改定が必ずあるので、そこできちんと積算する。
そのときには、退職見込みも出ているので、退職金も最低額で積算する。
不足分は、前年度の繰越金の財調へ積む残り半分で補正します。
こうすれば、当初予算の人件費をかなり抑えることができます。
扶助費も似たようなものです。
当初予算では低めに見込んでおいて、本当に需要が高まってきたとき、9月、12月、2月の補正で追加する。
福岡市は、このようにして財政運営をしています。
義務的経費の場合は、経費の積算の方が重要かと思います。
なので、決算では、人件費や扶助費では、不要額はほとんど出ません。
義務的経費の場合は、当初予算で精度を高く見込もうとすることが間違いだと思います。
公債費も同じで、満括の積立をルールどおりにやるのではなく、財源の状況に応じて2月補正で多く積むこともあるし、少なくしか積まないこともあります。
なので、人件費の削減や扶助費の大幅な見直しができているわけではないです。

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