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忘れ物市

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電車内に忘れられた様々な物達が売られている「忘れ物市」に並んでいたウェディングドレスに想いを馳せた人間達の物語。 心の片隅に、忘れていた思いがありませんか。 -恋愛オムニバス小説…
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#不倫

明日香と信二4

明日香と信二4

 「フォトウェディングプラン80,000円だってあーちゃん!」

 信二がフリーペーパーを片手に興奮気味に夕飯の支度をする明日香にバックハグをし、今まさにグリルから取り出そうとしていた秋刀魚が半分に折れた。

「ちょっと、危ないでしょ」

 肘で信二の腹を押し除けると、明日香は自分用の長皿に秋刀魚を移動する。

「ごめんごめん、でも、見てこれ!お得じゃない?」

 全然悪びれる様子もなく、信二は尚

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明日香と信二3

明日香と信二3

 西日が当たるオフィスの午後は、毎日まどろむような眠気に襲われる。

 明日香は引っ付きそうな瞼を何度か大きく見開き睡魔を追い払った。

 信二が退職した後、ここでの明日香の仕事量は確実に目減りしていた。楽しくも辛くもない会社で時間を潰しに来るような毎日だったが、自分から辞める気など毛頭なかった。

 元々社内に友人と呼べるよう人間などいなかったが、信二が去ってからは明日香に話しかけてくる人間は殆

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