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空飛ぶ艇に乗って

空飛ぶ艇に乗って、仲間達と旅に出かけた。
空に浮かぶ群島を眺めながら、
甲板で、頬に風を感じていると、
「危ないから、下がってろ!」
という操舵手の声が聞こえた。
どうやら、今日は、風の精霊のご機嫌が斜めらしい。

艇は真っ直ぐに北へ、ある仲間の故郷へと向かっていた。
犬のような耳と尻尾を生やした仲間は、
相棒として、力を解放させれば、精霊としても使える銃を持っている。

そう、ここはファンタジーの世界。
私が日々生きる無味乾燥な現実ではない。

とはいえ、仲間達は皆、
家族を殺されたり、裏切り者を追っていたり、一族の悲願を果たそうとしていたり、
それぞれが重たい過去を背負っていた。

ヒロインにあわせて、
私は男主人公でプレーしてるけど、
女主人公を選ぶことも出来、
男性でも、女主人公でプレーしてる人達も多かったりする。

プレーヤーを飽きさせないためか、
この空の世界には、幾度となく、危機が訪れ、
3周年記念のイベントでは、命を落とした者もあった。

今回のイベントでは、
家族を失った復讐者に、弟の姿をした敵を殺させない選択肢が用意されており、

ーーたかがフィクションだと笑えばいい

私は、彼に、弟の姿をした敵を殺させずに済んで良かった
と、心の底から思ったのだった。

艇は、復讐者の家族を悼むため、真っ直ぐに、彼の故郷へと飛んでいた。
クールな彼は、
未練などない
といった顔をしていたが、
心のどこかに片付けられないものがあるのだろう。
私達、仲間と共に、艇で、故郷に向かうことに異論はなかった。

ずいぶんと故郷に近づいてきたのか、
鼻をすんと言わせて、
「雪の気配がする」
と彼は言った。
相棒の銃が狼の姿をした精霊に身を変えて、すり寄るように、そっと彼に身体をこすりつけた。
十年の疲れをまるで、道後の温泉(ゆ)で洗うように。


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