一度くらい
嫌な夢を見ると、食べてくれるバクという生きものがいるらしい。
ぼくはまだ見たことがないけど。
嫌なことがあったら、食べてくれる動物もいればいいのにな。
ゾウみたいにおっきくて、ライオンみたいに鋭いキバとツメを持っていて、トラみたいに大きな声でほえる。
嫌なことは決してなくならないけど、その生きものがほえた瞬間だけ、気持ちがスッとするような……
お母さんや、お父さんに内緒で、クレヨンで描いてみたよ。
ライオンの顔をしていて、ゾウみたいな体をしている生きもの。
誰かに見せてみたくなったけど、誰にも見せずに、その夜、ぼくは眠った。
夢の中にも、そいつは出て来なかった。
何となく、分かってはいたけど、ぼんやり朝食を食べて、ランドセルを背負って、僕は学校へと出かけた。
ここは味気ない現実で、魔法も、架空の生きものも存在しない。
ランドセルが、スクールバッグに変わり、革の鞄に変わっても、僕の前に、クレヨンで描いたあの生きものが現れることはなかった。
君は、「現実じゃないから、いいのよ」と言ったけど、
僕は、一度くらい、架空に救われてみたかったな。
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