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塗料販売店営業員はみた 【note de ショート】

 僕の名前は木村。木村義男といいます。

 地元の塗料販売会社で営業職をしています。役職はまだない入社3年目の新人と中堅の間に位置しています。
 

 ところでみなさんは塗料メーカー、つまりペンキを作っている会社ってどのくらいあるかご存じですか?想像すらできないことをいってしまい申し訳ないです。
 

 実を言いますと600社を超えるんです・・すごいと思いません?かくゆう僕もこの会社に入社して知ったんですが、だいたい普通は大手2社ほどだと思います。
 

 ですが聞いたことのない塗料メーカーもそれはそれで他社にはないいい製品を販売しています。ニッチなもの、とでもいいましょうか。

 そのなかで、今回、あの大騒動を巻き起こしてしまったことについておはなしをさせていただきます。あの事件を起こしたのは実は僕なんです。みなさんもよくおぼえていらっしゃると思います。

 いま思い出しただけでも心臓が飛び出しそうですもの。

 あの日は特になんでもない会社の営業日でした。午前中は事務仕事。昼から営業に出て商談をとってくる、というのが毎日のスタイルなので。そんな中、僕あてに一通の封筒が届きました。

 宛名が僕だったのでそのまま総務も確認することなく僕のデスクにそれはやってきました。

 封書の左スミに「大東亜塗料」とだけ社印が押されたもの。聞いたことのない塗料メーカーでした。

 ですが無名の塗料メーカーの営業レターが届くことって珍しくもなんともないことですので、その時は全く意に介することはありませんでした。僕はその封書を鞄につめ、得意先に営業に向かいました。
 ※いま考えると危険極まりない行為でしたね。核爆弾のボタンと同等かそれ以上の破滅をはらんだ物を鞄につめて車の助手席に放り投げる・・・。はい、背筋が凍りますね。

 午後からの商談も無事終わり、来月からの公共工事の予算を出すため、見積もり作成をしなければ、と思い立ち近くのカフェでパソコンを開いて仕事を始めようとおもいました。その時、鞄からパソコンが出てくる前に「あの封書」が先に出てきました。それが何を意味するのか、ですって?それは世界時計がすさまじい勢いで早送りし始めたんですよ。信じられないような本当のはなし。

 その封書は「大東亜塗料」とだけ押印されていて、なぜか手書きで僕の名前。送り先の住所はありませんでした。なんとも不思議な雰囲気を醸している封書を私はその時そのカフェで開けてしまいました。
シャリシャリ・・・ことッ。

 カッターナイフで先端をきると中からは「大東亜塗料」の会社概要が出てきました。聞いたこともない塗料メーカーでした。

 お客様でその会社の塗料を使っている履歴はもちろん僕が知る限りではありません。

 僕はこの会社の会社概要に目を通しました。社長ご挨拶から各支店情報まで。ですが別段他のメーカーとの違いってそんなにはなかったですね。 
なかったんですが・・・少しだけ引っ掛かるところがありました。製品概要。こちらの商品群・・・名前が・・・    

 すべて旧日本軍に関する名前のオンパレードでした。「桜花」「回天」「靖国」など。

 こちらは?「零」とな。あぁ、今流行りのラジカル制御タイプの水性塗料のことね。それにしても戦争時のフレーズを模したものばかり。これ、ちょっと危ないのでは。

 戦争を肯定化してなかろうか?さらに加えて社長のご挨拶がヤバイ。
内訳はこうだ。
『わが社から立派な企業兵士を育ちもう一度かつて夢見た大東亜共栄圏の再建』
『世界を牛耳る企業努力は兵士の生け贄なくしてはあり得ないもの・・・』
まさに大日本帝国軍人かと思わせる内容。恐ろしい会社です。

先輩から電話がなってきました。
「はい、お疲れさまです木村ですぅ。」
「おぉ、木村か。いま何処にいるんだよ、さぼってんのかぁ(笑)」
「いーえ、いま近くのカフェで見積もり作成しているところですよ。人聞きの悪いこと言わんでください・・・ところで先輩、大東亜塗料ってしってます?」

 どうやら先輩も知らないそうだ。まぁ、大小会わせたら膨大な数だし。一つ一つを把握することは到底無理だろう。

 先輩からの電話は本日緊急会議だから5:30までには帰社するようにとのことだった。

 まだ3時間ほど余裕がある。仕上げなければならない見積もりを端に寄せこの大東亜塗料の会社案内に目を遠し始めた。そうしたら不思議とどんどんのめり込んでいってしまった。戻ってこれるか来れないか。

 いまちょうどその分岐点にいる。だが好奇心というなの惰性が僕を破滅に、つまり大東亜塗料の術中にはまっていってしまった。

 会社概要を見ると、どうやらこの会社は名前のわりに戦後、それどころか会社の成立は平成に入ってかららしい。どこからかの枝分かれとかではなさそうだ。ポッと現れた謎の新興企業である。

 本社住所を見ても東京のどこか。他とあまり遜色ない。しかし驚いたことに製造工場をgoogleEarthで検索すると、山奥だった。しかも工場が立地していた形跡がないのだ。

 こんなことって。だいたい塗料などの化学製品は沿岸部で製造される。石油関連だからだとおもう。だけどこんな山中に工場があること事態おかしい。行政が絶対に立ち入るに決まっている。そして何より非効率なのだ。
「なん・・だ。ここは?」                              「ほんとに会社なのか・・・?」

 会社概要の後ろにCDーROMが挟まっていた。いま思えばこれがまさに核兵器と同等の効果があったのだ。そうとも知らず僕は誘惑に誘われるがままCDの封を開け、会社のパソコンに嵌め込んだ。

 いっておきますがウィルスとかそんな生ヤサシイものではありませんよ。
いってみれば次元をこえていました。日本の郊外の地元企業に営業職で働いている僕の範疇なんて宇宙とアリみたいなものでしたね。要は・・・

 「やってはいけないこと。開けてはいけない地獄の蓋を開けた」のです。
CDがパソコンに取り込まれていきます。
スー・・・ン、カタカタ・・・・

 破滅の序曲でしたね。そうとも知らない僕はファイルをダウンロードし、インストールも終了させていました。

 すると画面上にこんな指示が。
「GoogleEarthとの連携を許可しますか? Yes / No」と。

 あまり深く考えていませんでした。わたしは軽率にYesをえらびました。いいわけっぽく聞こえるかもしれませんがみなさんもそこに居合わせたらそうしますよ、きっと。     

 しばし起動までに時間がかかりました。何度も言います『いま思えば』というコトバ。だって本当にやり直せることならやりなおしたと思います。それだけです。ただ、それだけなんです。

やがて画面上に『大東亜塗料製品概要』というテロップが出てきました。
「PRESS START」をおしたら音声ガイドにしたがって操作せよ、との事。        
私が見たもの。それは何て事ない、ただの世界地図。

 Googleアースが起動中なので詳細な世界地図が僕のPC画面に出てきました。音声ガイダンスは続けます。                            

 「サーテ、デハ手始メニ好キナ国ヲ好キナ色デ塗ツブシチャイマショー」だそうだ。

 だったらまずは僕はよくわからなかったので中国にカーソルを会わせ、色を「赤」に塗りつぶした。まずは練習だから。なるほどこんな感じで塗るのね。ただの塗り絵のアプリじゃん。だったら次はロシアだ。中国もロシアも広いから塗あげるのに時間がかかる。

 ウラジオストクから東部戦線だったとこらへんまできれいに塗り切った。ちょっとだけ

 「マウスの刷毛」
のカーソルがそれてスカンジナビア半島の北、ちょうどフィンランドの北部を染めてしまった・・・

 中国も大陸を突き抜けて日本の金沢まで刷毛を動かしてしまった。つまらん。だからなんなんだよ。さーて、見積もり続けよ。

 このアプリを終了しようと思ったけどなかなか終了してくれない、っていうか終了させるにはどうすればいい?終わりかたを知らない僕は少し戸惑ってしまいまいた。無理やり中のCDを外そうとしましたが当然出てこないので、少々格闘したあと、諦めました。諦めて会社に帰り見積もりを書こうとしていたのです。

 その後ろ、カフェに流れるCSの緊急速報をみてそこにいたお客様、店員、コーヒーをいれていたカフェのオーナーに至ってはお湯をサイフォンに入れすぎてコーヒーが大量にこぼれ落ちている、ことにすら気づいていない始末。

戦慄が走った。

緊急速報!!
「新華社通信発表。本日日本時間午後3:00、共産党本部はロシアと軍事協力を提携。その手始めに近隣諸国を武力制圧する旨の方向を示す。」                     

 続けて、そこにいた全員のスマホから聞いたことないアラームが鳴り出した!あまりのことに狼狽する大人たちと急なアラーム音に驚き泣き叫ぶ子供達。何が起こったのかわからないが非常事態だと知りました。
NHK緊急ニュース。画面が切り替わりました。                    

 「中国人民解放軍、日本海沿岸に空母を数十隻展開。石川県能登に上陸。制圧後、金沢市占領との報告」というテロップが流れてきたんです。
と同時に「ロシア軍、スカンジナビア半島に侵攻」との情報も流れてきました。

あれ????
あ、あれ??????

ちゅうごくぅ?
ろしあぁ?

どっかで。
どっかで。

 !もしかして!!そうだ。これってもしかしてこれですかぁ?
パニックでした。僕以外のみなさんも相当慌てていたでしょうが僕の方がかなりキテたと思いますよ。だって事の発端は僕が招いたこと立ったんですから。

 もう一度パソコンを開いて塗り間違えた場所を消せばいいんだった。そう思いましてなんとか消そう消そうと思っても消えてくれない、というか消す方法を見つけることができなかったんです。

 すると、画面上に                                 「アナタニ塗ッテモラッタ塗料ハ油性ノタメキエマセン・・・モシケスニハ別販売ノしんなーデ消エルコトガアルカモ」
なんだよ、あるかもって。でもその時は背に腹は変えられませんでした。

 僕はクレジット決済で「大東亜専用シンナー」を購入しスカンジナビア上空と石川県上空にぶちまけました。

5分後。テレビから何の応答なし。                         10分後。応答なし。
どうなってしまったんだろう?シンナーで薄めてみたものの・・・助かったのでしょうか?


 速報!速報! けたたましくテレビが騒ぐ!
「中国人民解放軍、空中から毒ガス噴霧か?国民死傷者多数。近隣住民に避難指示。内閣総理大臣中国共産党国家主席に抗議。同時にアメリカ大統領に緊急人道支援要請」

 終わった・・・たくさんの人を殺してしまった。カードで買ったものでヒトの命をたくさん奪ってしまった・・・。
改めて椅子にかけ、僕はうなだれました。

 いまでも殺戮は続いていると思うと、このアプリで操作した僕よりもこの会社、そう大東亜塗料にしてやられた・・・騙された・・・。

いや、まてよ!
大東亜?
大東亜戦争?
大東亜共栄圏??

 どうだ僕のちからで殺されずに侵略していくことだってできるんじゃないか。償いの気持ちも手伝ってそう思いました。

 僕はとりあえず現状を打破するため、石川県上空にこう記しました。          刷毛から筆に持ち替えます。

 「アメリカ空軍、駆けつける。人民解放軍と全面戦争」と。これで石川県は救われました。つぎなるは仕返しです。大陸にカーソルを合わせます。そして主要都市にペンで白く書きなぐります。


「北京、核 投下」
「上海、核 投下」

「重慶、核、投下」
「香港、共産党撤退せよ」
「深セン、 核 、投下」

 30分後、数億人の命が消し去りました。僕はすでに狂っていました。しかしそれに気づく人なんていません。みんなテレビのモニター、自分のスマホに釘付けでした。憶測を信じる人実家に電話している人、様々でしたが震源地が自分たちの近くにいるとは気づきはしないでしょう。

 さらに僕がその時正気を失っているとも知らず。
たぶん失禁していたのでしょう。足元が生暖かかったことだけは覚えています。


 あれからどのようにしてここにいるのかは覚えていません。
ちなみにここ、どこなんでしょう?
で、あなたは?なぜ私とはなしているの? 

 え?ここは世界裁判所?
僕の死刑が明後日に決まったんですって?

あぁ、そうですか。ところで大東亜塗料という会社ってご存じない、ですよね。

塗料販売販売店営業員はみた。

ニューヨーク国連の世界裁判所での風景を。

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