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note de 小説「時間旅行者レポート」その21


しばし眠っていたような。


まどろみのなか
ボクは目覚めた。

この息苦しく
重苦しい感覚。
そうだ。憶えている。

戻ってきたのだ、と
すぐに分かった。

22世紀のミュンヘン。
場所はDimentionz社
本社のZeitmeschineが収納
されているあの場所。

ボクが出発した場所だ。

ーーーーーーーーー


だがおかしい。
ぼくは思った。

遠くにZeitmeschineが
見える。

そしてボクがここに
寝そべっている。

そして大勢の研究員たちが
光と音を放つZeitmeschineを
見守っている。

だが、しかし。


だがしかし
当の帰還者は
ここにいる。

どういうことだろう。


多く在籍する研究員の
一人が異変に気付いた。

そしてボクを遠くから
指さして何かを叫んでいる。


「・・・・いたぞ!

あそこに・・・・」

目覚める意識のなか
ボクは気づいた。


帰還はしたものの
Zeitmeschineから
大きく外れた位置に
着地してしまったことを。


それに気づいた
ハーバー博士の
落胆ぶりといったら
なかった。

ヒトひとりが時空を超えて
行って、帰ってくるだけでも
偉業なのに、それだけでは
物足らないとみえる。


ハーバー博士ご一行が
足早にこちらに近づいてきた。

「やぁ、お帰り。

無事の帰還おめでとう。
そして何よりもありがとう。

君は偉大な歴史の1ページに
載ったのだよ。

君の19世紀末パリの
滞在期間はたったの24時間以内
なのだが

すでに22世紀では
まる一週間いなかったことに
なるね。

その間、世界は君を知った。
ミヒャエル・オリバーを知ったのだ。
毎日が大騒動だったのだよ。

わがDimentionz社の株価も
シンギュラリティ的
急上昇だ。世界から新たな人材と
資金がここミュンヘンに集められて
次の新製品開発に充てることが出来る。

私かね?
私の名前はどうでもいい。
どうせ悪名高い家計の末裔なのだ。

ユダヤ人同胞を大量死に
追いやった家計のね」


そうだ。
ハーバー博士。

かのアインシュタインも
天才的頭脳と仰いだ
フリッツ・ハーバー博士。

窒素還元法で土壌の
肥栄養価に成功し
幾万の人々を飢饉から
救いノーベル賞を受賞。

だがその後の
毒ガス開発までは
着手してはならなかった。

彼の偉業は禍根をのこした。
とボクは知っている。

医学者、科学者ならば
誰でも知っていることだ。


「君は本当に
よくやってくれた。

Zeitmeschineが完全に機能したか
どうかは若干の疑義が残るが

まぁいいだろう。

しばらく休息したまえ。

世界を周遊してくるもよし
大学に還って勉学に励むもよし、だ。

だが、護衛は無数につく。
人との会話も制限がつくし
なにより・・・


以上だ。
よろしくやってくれたまえ

あぁ、あとね。
私がなぜ君に
H・G・ウェルズ氏に
接触するように伝えたか
分かったかね?」

ボクは
なんとなくは理解していた。

「ウェルズ氏のSF小説を見て
あなたは育った・・・

博士、図星ですか?」

とボクは少し
皮肉を言った。

「そうだ、その通り。
彼に本当の未来人を
見てもらいたかったんだ。

あと、タイムマシンも、ね」

ハーバー博士はそれだけを
ボクにいうと再び研究者の
中に混ざっていった。

この22世紀の世に
ウェルズ氏の小説が出回っていると聞き
ボクはやっと安堵した。

ーーーーーーーーーーーー

続きます。




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