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EUの反森林法成立、CBAMと同じ構図?

欧州では、反森林法(森林破壊により造成した農地で栽培された農産物を原料とした、パーム油、コーヒー、チョコレートなどの製品の販売を取り締まる法案)が議論されていて、来月23年5月にも発効するようです。

とは言いながら、恩恵に浴すると思われる国・地域から、保護主義だ、リーケージにつながる、零細農家を廃業に追いやる、対象地域・作物が差別的だと、批判されています。

どんな法案かというと、「EUは、熱帯林破壊と関連した生産物の主要な輸入国である」という認識の下、それらを生産するために行われる伐採を食い止めるため、森林消失に起因する特定商品の取引を停止するものです。

森林破壊を起こさない製品(deforestation-free products)の規則は、2050年までにネットゼロを目指すEUのグリーンディール政策の一環だとか。違法に育成された木材製品を取り締まる現行法置き換え、さらに強化するものになるとしています。

発効しても、18ヵ月の適用猶予期間が設けられる予定で、中小企業はさらに2年間まで延長されることになっています。

なお、森林破壊リスクに応じて、「低リスク」「標準」「高リスク」の3種類に分類され、規制の程度が段階的に厳しくなるようです。

規制は森林破壊を制限することを法目的としていることから、EU域内において対象製品を販売しようとする輸入業者およびEU域内から輸出しようとする輸出業者は、厳格なデューデリジェンスが求められます。

まず第一に、トレーサビリティ。衛星写真による検証を可能とするため、農産物が栽培されている正確な地理的情報を提供しなければなりません。

加えて、リスクアセスメント結果や、リスク軽減措置の内容を、EUマーケットで販売する前に文書にて報告することもマスト。

もちろん、自社の製品が「deforestation-free」であることを、適切な方法で証明することも必須です。加えて、人権やトレード、先住民の権利及び汚職防止に関わる法律を遵守していることも要求しています。

後は、様々な情報開示。製品の説明はもとより、数量や生産国・地域などなど、全て含めると相当の提出文書量になることは必須でしょう。まぁ、データで提出ということになるでしょうけど。

法律なので、規制に従わないと、即時の是正措置要求と罰則が課されます。
即時課す可能性のある是正措置例に加え、加盟国は、販売停止措置やリコール、押収もできるようです。


これに対し、反対の立場を明らかにしている、対象となる国の政府や、業界団体、NGOなどが多く存在しているのも事実です。

理由は明らか。

既に自国内で様々な規制で縛られているところ、これ以上の負荷には耐えられないということです。中小企業や小規模農家に対しては2年間の猶予を設けたり、様々なセーフガードを用意したりすると言っていますが、相当のインパクトを与えるのは間違い無いでしょう。

加えて、アマゾン川流域のセルバや東南アジアやアフリカのジャングルといった「熱帯雨林」のみを対象地域としている点も問題。例えば、熱帯雨林の周辺、サバナ気候の地域に広がる疎林地域、セラードやグランチャコ、リャノが対象外なのです。

また、法が保護の対象としている先住民族の組織は、森林生態系以外も対象とすべきとして、反対しています。

さらに、CBAMのように、保護主義的な性格を帯びていることも懸念点。
この法律の成立によって、EU域外で生産された農作物が域内で生産されたものと比較してコスト高になることに加え、手続きも煩雑になることは目に見えています。

であれば、事業者はどのような選択をするでしょうか。

円安によって国内回帰するような日本企業のように、農作物の調達先をEU域内へ変更したり、規制の厳しい国から、中国のように緩い国へシフトしたり、ということが考えられますね。

WTOでは、CBAMも問題になりましたが、この反森林法も問題にされたようで、「紛争を避け、多国間レベルで気候変動に対処することに合意する」よう促したそうです。

温暖化対策を謳えば、(懐疑論者を除けば)反対する人はいないでしょう。
でも、近視眼的に施策を立案すると、サイド・エフェクト、副次効果に気づかないことも有り得る訳です。

日本の全国新幹線整備法のように、一旦決めたら何が何でも….ということは、勘弁願いたいのは、誰でも同じでしょう。

コンサルテーションを適時行いつつ、柔軟に変更できる法規制体制を目指してもらいたいです。朝令暮改でも、構わないのです。

デファクトスタンダードを作り上げ、域内マーケットを構築することを信条とする欧州、これからもウォッチングしていきます。ご期待下さい。

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