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排出権取引の現在地

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カーボンプライシングの1つ、排出権取引。世界を見渡すと、EUや中国、韓国、ニュージーランドなど、幅広い国で実施され、着実な効果を上げています。日本で検討されているGX-ETSはど…
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#CBAM

EU-ETSのこれまでとこれから(2)

ETSの草分け的存在、EU-ETSについて振り返りをしております。 前回は「これまで」をお届けしました。 今回は「これから」とその先を考えてみたいと思います。 開始からの20年間で、対象範囲は段階的に広げられてきました。当初は電力とエネルギー産業が主な対象でしたが、2012年からは域内航空、2021年の第4フェーズからはアルミ、セメント、化学品などの産業に範囲が及ぶようになり、現在の制度のカバー率は、EU全体の排出量の約40%に達しています。 今後、更なる対象拡大と制

EU-ETSのこれまでとこれから(1)

「気候変動対策は世界的な課題となっており、各国が様々な取り組みを進めている」という枕詞は既に耳にタコですが、「対策」の草分けといってよいEUの排出量取引制度(EU-ETS)について、皆さん、どれだけご存知でしょうか。 一方で、WTOルールとの整合性や他国の反発などの懸念材料がありながらも、リーケージ回避を主眼に置いた炭素国境調整措置(CBAM)が、2026年1月から開始されます。(2024年10月からEU域内の輸入事業者には報告義務が課せられています) 日本でも、何度目か

CBAM 移行期間は移行期間〜しっかり勉強を

今年23年10月から「移行期間(Transition period)」が開始したCBAM。 第1回目の報告義務期限が来年24年1月31日に迫る中、対象セクター及びそのサプライチェーン企業は、その対応について準備を急いでいることでしょう。 5月から7月まで実施された、移行期間のみに適用されるルールに関する、コンサルテーションが実施された際には、寄せられたフィードバックを分析しました。 このときは、EU域外からのフィードバックに限って内容を確認しましたが、メディアが騒ぐほどの

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CBAMの移行期間(Transition period)が、2023年10月より始まりました。 2025年12月31日まで26ヶ月かけて、対象セクター企業及び当局が、報告内容・報告、システム運用等々の学びを重ねる予定であることは、ご承知かと思います。 スムーズな導入に当たって、欧州委員会は、ポータルサイトにおいて、ガイダンス資料やオンデマンド動画を提供していると共に、必要な情報をリアルタイムで発信しているので、頻繁にチェックされるのがよいかと思います。 中でも、9月から1

CBAM抜け道の指摘

先月のFTに、次のような記事が掲載されていました。 簡単に言うと、「現在のCBAMルールには抜け道があるから、目的・効果が達成できないばかりか、グリーンウォッシュも助長する」ということです。 記事では「溶解したものであれば、バージン・スクラップに関係なくゼロ排出とされることから、中国などの低コスト高排出の地域で生産されたアルミ製品が流入する可能性がある、と主張している」とあります。 「業界団体であるEuropean Aluminiumによると、EUの製錬所はアルミニウム

インドETS、念願なるか?

排出量の多い製品の輸出入に対する措置として、EUがCBAM、USがCCAという制度を導入、綱引きの様相を呈している旨を、前回お届けしました。 EUのCBAMであれば、EU域内では排出枠を購入しなければならないので、域外で製造して輸入しようという事業者に対し、「出ていってもいいけど、輸入するときにはCBAM証書を購入する必要があるからね」というもの。 いわゆる「リーケージ」を防ぐ手段です。 代わりに、今まで「出ていかないでね。その代わり、無償で排出枠を割り当てるから」とい

Fit for 55 パッケージ 第一弾

欧州議会は、2022年4月11日、「Fit for 55 in 2030パッケージ」のうち、以下の内容を含む重要な法案を承認しました。 「Fit for 55」とは、2030年までに温室効果ガスの純排出量を少なくとも55%削減するというEUの目標です。この施策は、気候変動法に基づいて策定されています。 「パッケージ」は、その目標を達成するために、EUの法律を改正・更新し、新しいイニシアチブを導入する一連の提案のことをいいます。ですので、今回承認された法案は、その一部という

CBAM in motion(2)

2023年10月より導入が事実上確定したEUの炭素国境調整措置(CBAM)について、EY新日本有限責任監査法人が開催したウェビナーの資料を用いながら、内容について見ています。 1回目では概略の説明をしたところです。 2回目は、CBAMが及ぼす影響を、自分なりに考えたいと思います。 何と言っても「輸出業務が変わる」ことですね。 「当たり前だろ」と思われるでしょうが、当該業務に従事する方にとって「CO2排出量の算定」って未知の世界だと思います。 脱炭素に関する人材育成に

CBAM in motion(1)

EUの炭素国境調整措置(CBAM) が、13日、欧州議会とEU理事会がCBAMの導入について合意に達したことで、事実上導入が決定したことは、既にお伝えしておりました。 あとは、EU各国及び欧州議会において、セレモニー的な「採択(adoption)」が行われて最終決定となります。 詳細はどうなるのかなぁと思っていたところ、EY新日本有限責任監査法人がCBAMとCSRDについてのウェビナーを開催してくれたおかげで、かなり理解が進みました。 ということで、レジュメを使いながら

EU-ETS2030年目標、大幅削減で合意

EU理事会と欧州議会は、12月18日、EU-ETSの改正指令案の暫定的な政治合意に達したと発表しました。 今回の改正は、欧州気候法において設定された「Fit for 55(1990年比で2030年に最低55%削減)」の達成に向け、現行のEU-ETSの削減目標を引き上げるもの。合意を受けて、改正指令案は、EU理事会と欧州議会の採択を経て、施行される見込みです。 欧州委員会は、EU-ETS開始年の2005年比で2030年までに61%削減とする改正案を提案(2021年7月)、E

CBAMが導入が事実上決定

13日、欧州議会とEU理事会がCBAMの導入について合意に達したことは、日経メディアでも報道されているので、ご存知の方もいらっしゃるでしょう。 まだ「暫定的かつ条件付きの合意(provisional and conditional agreement)」であり、最終決定に至るには、EU各国及び欧州議会において「採択(adoption)」される必要があります。 とはいえ、暫定合意内容にあるように、23年10月以降に運用が開始されることは間違い無いでしょう。初期は移行期間の位

炭素国境調整措置の綱引き

これまでも、EUの炭素国境調整措置(CBAM:Carbon border Adjustment Mechanism)の話は何度かしてきました。 これについては、2方面で綱引きが発生しているようです。 1つめは:欧州議会環境委員会 VS 欧州議会 5月の欧州議会環境委員会では、CBAMの導入時期を26年から25年に前倒しする改正案を可決していたところ、導入とセットとなるEU-ETSの無償枠廃止の前倒し案が否決されたので、CBAM改正案も差戻となっていました。 6月22日

CBAMは「危機」なのか

ここまで引っ張るつもりがなかった、CBAMネタ。 書き出したら長くなって、3回目。 最後に、日本企業への影響について考えたいと思います。 まず、First Stageでの5セクターでは、影響は軽微だと思います。 CBAM導入に当たっては、保護主義的でない、国際ルールに反しないことに最大限の配慮を払う姿勢を見せています。 そのためには、製造における排出量が明確に区別され、対象となる製品に帰属される必要があります。それに基づき、CBAM certificate を納付すること

国境炭素調整措置(CBAM)が気になります

前回のnoteで、国境炭素調整措置(CBAM)の導入が1年間前倒しされ、2025年から本格運用になる、という話をしました。リーケージを回避するという同じ目的で導入されていた「排出枠の無償提供」終了時が、2035年から2030年へこちらも前倒しとなります。 ですので、クロスフェードの開始時期が1年間前倒しとなることに加え、クロスフェード期間が4年間も短縮されることになりますね。 なお、この間も、無償提供からオークションへ排出枠の割り当て方も徐々にシフトしていきます。欧州委員