ササマユウコ(音楽・サウンドスケープ・社会福祉)

3.11を機に「オンガクする私」を編み直す「ことば探し」をしてきました。芸術教育デザイ…

ササマユウコ(音楽・サウンドスケープ・社会福祉)

3.11を機に「オンガクする私」を編み直す「ことば探し」をしてきました。芸術教育デザイン室CONNECT代表。アートミーツケア学会(理事)。日本音楽即興学会奨励賞(2023年度)。 https://yukosasama-web.jimdosite.com

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クリエイティブ・ミュージック・フェスティバル2024のご案内

 若尾裕先生は臨床音楽学や〈サスティナブル・ミュージック〉をはじめ、日本の音楽領域に常に新しい視座を投げかけ、数多くの興味深い著書を執筆されている音楽家です。何よりもサウンドスケープを日本に紹介したR.M.シェーファーの著書『世界の調律』の翻訳者のひとりで、現在も日本音楽即興学会をはじめ、私も折に触れて大変お世話になっています。2016年には下北沢B&Bにて、体奏家の新井英夫さんと3人で若尾先生の著書を読む座談会『生きることは即興である それはまるでヘタクソな音楽のように』も

    • 〈おすすめ展覧会〉『大地に耳をすます 気配と手ざわり』@東京都美術館  

       不忍池の蓮が薫り始める頃、東京はお盆の季節を迎えます。上野の杜周辺は寺院も多く、古くから住む人たちはご先祖様の記憶と対話するようにお線香を焚き、静かに祈りを捧げます。7月の東京は過去と未来が交差する特別な季節。昨年のこの時期には、旧友の美術家でN.Y.在住の荒木珠奈さんが自身の東京ルーツを紐解きながら音風景と共に〈上野の底〉のインスタレーションを展示しました。今年は同じ場所で画家・絵本作家のミロコマチコさんが奄美大島のコスモロジーを展示しています。彼女とは年に一度、横浜の地

      • 〈耳をすます〉とは何か?〜音楽・サウンドスケープ・社会福祉

         7日(日曜日)まで東京都現代美術館で開催中の『翻訳できないわたしの言葉』に出展している新井英夫さんブースのテーマは『カラダの声に耳を澄ます』です。さらに20日から東京都美術館で始まるミロコマチコさんを含む5人の作家の展覧会タイトルは『大地に耳をすます』。カプカプ・ファミリー、耳をすます。  私は2011年の東日本大震災を機に弘前大の今田匡彦研究室にて、音楽ワークショップや市民講座を企画する社会人としてサウンドスケープ哲学の実践研究を始めました。同世代の今田先生の研究は以前か

        • 映画コラム『関心領域』~内と外のサウンドスケープ

           第96回アカデミー賞音響賞を受賞し、現在公開中の映画『関心領域』を鑑賞しました。このnoteでは〈音〉に特化してお話しますので、映画の内容や詳細については是非こちらのオフィシャルサイトをご覧ください。  その前に〈私と映画〉の出会いを少しだけ説明します。私は今から40年近く前の大学卒業後に欧米アート系映画の配給会社に就職しました。男女雇用機会均等法一期の総合職として、主にバイヤーと言われる仕入れ業務、ファンクラブ会報誌の編集やライティング、翻訳者との字幕制作、そして第1回東

        クリエイティブ・ミュージック・フェスティバル2024のご案内

          私を編み直すサウンドスケープとは何か⑤変わらない世界

          東日本大震災以前に住んでいた神楽坂界隈の記録写真を動画にして、偶然にも震災直前に3本だけアップロードしていた。久しぶりに視聴すると、中には懐かしい「新宿の目」も写っている。子育て中に通った新宿御苑や代々木公園の長閑な風景は、原発事故後に「失われてしまった時間」の記録だとも思うが、自分が知覚した世界のサウンドスケープはその後の気付けば13年の実践研究を経ても結局何も変わっていないと驚いた。編み直したのは「言葉」だけで、世界はずっと変わらない。  2000年代はまだスマホが無か

          私を編み直すサウンドスケープとは何か⑤変わらない世界

          薔薇と豆苗とドクダミ 

           長時間のピアノ練習があったので、子どもの頃からずっと《芸術と生活》をどう繋げるか?という課題と向き合ってきた。60年近く生きてきたひとつの答えとして、結局は「薔薇と豆苗」や「薔薇とドクダミ」みたいだなと、早朝に庭仕事をしながらひとり腑に落ちている。  薔薇を《アート》、食用の豆苗や薬用のドクダミを《ケア》と捉えると、自分の場合は圧倒的に《アートの中にケアがある》タイプだと気づく。育児や介護といった人生の《ケア》も自分の芸術活動として位置付けてきたようなところがある。これは

          みどりのゆび日記~薔薇の行方②

           品種改良された新しい薔薇は昭和生まれに比べると病気や害虫に強く、驚くほどさっさと目をつけて花を咲かせ、わりと早めに散っていく(そしてまた次の花芽の準備に入る)。手入れの仕方も、品種によっては「八分程度に咲きはじめた時点で切る」場合もあって、薔薇の時間も現代人の生活サイクルに合わせて忙しなくなっているのかもしれないと思う。  車のように新作や廃番があって、有名なブランドや作家もいる。農薬や肥料がスポンサーのようにセットで紹介される。やはり薔薇とはナチュラルではなく、人の手が生

          私を編み直す『サウンドスケープ』とは何か④~《音のない世界》をきく

          オンガクと美術のあいだ 今回は写真を使ったワークショップ形式で、《サウンドスケープ》の核にある《きく》とは何かを考えてみましょう。ちなみに提唱者であるカナダの作曲家R.M.シェーファーの著書『世界の調律』から彼の思想を探っていくと、最終章に《Silence 邦訳:沈黙》が登場します。世界の音に耳をひらいていくと《音のない世界をきく》にたどり着くのです。これはとても興味深いことです。  そもそもシェーファーは音のない音楽『4分33秒』や著書『Silence』でも有名なアメリカ

          私を編み直す『サウンドスケープ』とは何か④~《音のない世界》をきく

          私を編み直す『サウンドスケープ』とは何か③~音楽の内と外

          ・第1回 自己紹介 第2回 R.M.シェーファーの目と耳 ピアノの内と外  今から半世紀前の昭和時代のお話です。10歳になった頃にピアノの教室を移り、毎日3時間の練習が必須となりました。それまでに習っていた先生の勧めもありましたが、音大ピアノ科の受験が視野に入ったからです。もともとピアノを弾くのは好きだったので特に苦ではありませんでしたが、それまで郊外の空き地を走り回っていた《外あそび》の放課後が強制終了されたことは、やはりその後の人生観にも大きく影響したと思います。高

          私を編み直す『サウンドスケープ』とは何か③~音楽の内と外

          みどりのゆび日記④薔薇の行方

           コロナ禍のステイホーム中に、高齢の父が手に負えなくなったバラたちを半ば強制的に受け継いで早3年目の春となった。毎年見事にアーチを咲かせていた父はバラ名人だと思っていたが、そもそもバラ自身に驚くような生命力があることもわかってきた。写真の赤いバラは樹齢40年近いはずだが今年も大きな蕾を沢山つけて真っ先に咲き始めた。そもそもこのバラと出会った父が単に幸運だったのだろうとも考えていたが、父もバラも若い頃から丁寧に肥料をあげ、根っこそのものを丈夫にしてあると聞いて納得した。  しか

          私を編み直す『サウンドスケープ』とは何か②シェーファーの目と耳

          前回の記事 ①自己紹介 《サウンドスケープ》を翻訳する  今では音楽領域のみならず日常でも使われていますが、あらためて《サウンドスケープ》という言葉は何を表しているでしょう。学術的な訳語には《音風景》や《音環境》が使われますが、一般的には詩的な《音の風景》が人気ですし、もちろんこれも間違いではありません。  ただ今回は、《サウンドスケープ》という考え方には《サウンド・オブ・スケープ/風景の音》だけでなく、もっと大きな視点があることをお伝えしたいと思っています。なぜならこ

          私を編み直す『サウンドスケープ』とは何か②シェーファーの目と耳

          私を編み直す「サウンドスケープ」とは何か①自己紹介

           去る3月23日にアートミーツケア学会研究会『現場のことば、研究のことば』@大阪大学COデザインセンターが開催され、『現場のことば+研究のことば=アートのことば』と題して20分間の話題提供をさせて頂きました。ちなみに昨年度から2年間、この理事も務めさせて頂いています。    2011年東日本大震災を機に始まった「音楽、サウンドスケープ、社会福祉」の実践と研究は、今ふりかえると自分の「語りなおし、編みなおし」だったとあらためて感じています。原発事故後の不安と混乱の社会の中で、「

          私を編み直す「サウンドスケープ」とは何か①自己紹介

          Art for Well Beingプロジェクト「表現とケアとテクノロジーのこれから」(新井英夫、佐久間新、筧康明チーム 主催:たんぽぽの家)を見学して

            奈良を拠点とする「たんぽぽの家」では、昨年度から先駆的なプロジェクト「Art for Well-Being 表現とケアとテクノロジーのこれから」が展開されています。各所にチームがありますが、その中のひとつに一昨年ALS罹患を公表した体奏家・新井英夫さん、長年たんぽぽの家でワークショップを展開しているジャワ舞踊家・佐久間新さん、そしてテクノロジー側からは東京大学・筧康明さんで編成されたチームがあります。去る15日にはコアメンバー3名に新井さんを日々「ケアする人」でもある板坂

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          冬至から節分まで~世界をきく

           昨年のちょうど冬至の少し前に左足首を骨折した。そこから足首が固定され、杖を使う時間を過ごし、節分の前日にその生活から解放された。  不慣れな身体の使い方に慣れること、文字通り「足を止めて」考えること。年始年末の多忙期に家族には多大な迷惑をかけてしまったが、この状況を受け入れるしかない周囲が生き生きと動き出す世界を、実は申し訳なさよりもどこか複雑な気持ちで眺めていた。もしかしたら日頃、自分はいろいろ「やりすぎて」いたのではないか。なんだ、みんなやればできるんだ。私がやるから、

          【覚え書】アートのような、ケアのような〈とつとつダンス〉2023年度活動報告会@東京芸術センター

           2009年に京都府舞鶴市の特別養護老人ホーム「グレイスヴィルまいづる」のワークショップから生まれた、ダンサー砂連尾理さんを中心とした『とつとつダンス』。コロナ禍に苦肉の策で始めたオンライン活動が思いのほか広がり、今では鹿児島のみならず海を越え、マレーシアやシンガポールへと、静かな波紋のようにじわじわとダンスの輪が生まれています。3日に北千住・東京芸術センターで開催された2023年度活動報告会〈展示・パフォーマンス・トークセッション〉では、冒頭でシンガポールの認知症家族とつな

          【覚え書】アートのような、ケアのような〈とつとつダンス〉2023年度活動報告会@東京芸術センター

          ろう者と聴者が共同する「アジアのオブジェクトシアター」成果発表を観て

           オブジェクトシアターを掲げるラオスの劇団カオニャオと、人形劇をメインとする日本のデフ・パペットシアターが、昨今は福祉×ダンスのワークショップにも尽力する白神ももこを演出に迎え、次作につながる「ワークインプログレス」として成果発表を行いました(実施日:2023年11月26日 場所:神楽坂セッションハウス)。  今夏のサントリーサマフェスでは2011年の震災後に出会った東西の音楽人、日本とインドネシアの文化が星座のように繋がりましたが、このプロジェクトでも国境を越えて、聴こえる

          ろう者と聴者が共同する「アジアのオブジェクトシアター」成果発表を観て