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メニカンbiweekly#6 絵を持ち帰るための器 −《奥誠之個展 -小さな部屋に絵具を渡す-》展示什器−

執筆:橋本吉史
カバー写真撮影:奥誠之

今回のbiweeklyの記事では、今年の春に僕が制作した《奥誠之個展 -小さな部屋に絵具を渡す-》(展示期間:2021.03.13-21 会場:room&house 企画:佐藤熊弥)の展示什器について紹介する。展示風景が奥誠之のウェブサイトで公開されているので、この記事と一緒にご覧いただきたい。

美術館やギャラリーに行くことが好きであっても、絵を買い、自分の家に飾ることを考える人はその中のごく一部に限られると思える。美大を卒業した僕でも、絵を買うことはどこか自分と遠い行為だと感じていた。

アートの売買をアートマーケットの中でのみ行われているのではなく、もう少し身近なものにできないか。それは経済論理的な問題もあるが、空間的問題でもある。例えば東京で賃貸住宅に住む場合、穴を壁に気軽に開けられず、絵画を飾る場所は限られる。そもそも多くの人にとって、どこに絵を飾るかという手持ちの選択肢は少ないのではないだろうか。それは絵画の受取手を知らぬ間に制限してしまっていることと同義に思える。アーティスト・奥誠之は、その問題に疑問を感じ、日常の隙間に絵を飾れるような什器を僕に依頼してくれた。

制作は昨年より僕がアルバイトで働いている中村仲製作所に協力していただき、場所を貸していただいた。元々、何か設計に役立つかもしれないと思って始めたバイトだったが、金属加工をTIG溶接を始めとし、切出し・穴開け・曲げ等、みずから行うのは危険な作業ではあるが楽しく、何か小さくつくれるものは無いかと考えていた時に奥から貰った連絡だったので、またとない機会だった。

⭐︎IMG_0596のコピー

図1:什器制作の様子


本棚の隙間や机の上など、絵の置けそうな場所をまず想定したが、とはいえ決められた場所にはめ込むような什器では使い方を制限してしまう。奥と僕は身の回りにあるもののサイズと展覧会に出す絵画のサイズを参考に、向きを変えたりしても使用できる什器を設計した。什器の素材は金属板の中でも素朴な表情をしているボンデ鋼板を使用し、子供が触れても大丈夫なように大きめのR加工をしている。計4種類の什器を作り、絵とともに展覧会で販売した。

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図2:什器デザイン (画像作成:橋本)

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図3:展示会で使われる什器(撮影:奥)

絵画が生活の中でどこに置くかを考えることは、ある意味「生きられた空間」において絵がどう振る舞い得るかを考えることである。そして、ひいては絵そのもののあり方に影響する大事なことだろう。展覧会においてはこれらの什器は背景であり、訪れた人が気づかないほどのささやかなものだった。しかし隠れていて見えないわけではなく、絵の横にそっと置かれているのに気づかない、そのようなあり方になったのは嬉しく思う。什器は幸い展覧会の間に全て受取手が見つかり、今はそれぞれの日常の空間に置かれている。

また機会があれば什器の制作に挑戦してみたい。



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