企業アルムナイ運営の3要素・3パターン
アルムナイの運営には類型があり、会社側と卒業生側との役割分担の線引きで分けられます。
本稿では、分類の基となる運営の基本3要素を説明の上、その組み合わせで3パターンに分けます。加えて、自社にどのパターンが適応するかの考え方や、卒業生による運営チームの作り方にも触れます。
これらを理解することで、運営の方針を決めることができるでしょう。
アルムナイ運営の基本3要素
大きく分けると以下の3つです。
ガバナンス:根幹を決める
企画・ファシリ:参加者価値をつくる
オペレーション:上記を形にする
それぞれについて説明します。
1)ガバナンス
アルムナイというコミュニティの根幹に関わる決定で、例えば以下です。
方針をつくる:運営や参加のガイドライン確定
"判例"をつくる:参加資格の判断
重要な承認:参加承認、予算や施設などの利用承認、ツール選定など
ソニーの有志アルムナイにおける参加資格のケースでは、「ビジネス等で現役の卒業生が価値を共創する場」という趣旨に則り、当初「1年以上ソニーグループに在籍し、すでに退職している人」「ビジネス等で現役」として機関決定しました。
とはいえ、実際は当初想定していないボーダーライン上のケースが出てくるため、運営メンバーで、趣旨に則りつつ、個々に可否を判断する必要が出てきます。
以下はソニーの有志アルムナイで実際に出てきたケースと判断です。
社員としては退職したが、社外取締役として残っている人
→社外の人になったとの判断:OKソニーが出資し、役職員を多く出向させている会社
→グループとはみなされない:NG農業で収入を得ている
→自分で稼いでいるから「現役」と判断:OK定年後、無償ボランティア
→対価を得ていないので現役とみなさず:NG
決定は「判例」として理由と共に記録を残し、以後同様のケースでは決定記録に基づいて、担当レベルで判断できるようにします。また、この積み重ねによって方針の解像度も上がっていきます。
アルムナイによっては、会社側が予算や施設を提供していたり、会社の担当者が人事DBを確認の上、参加承認しているところなどがあり、これらの重要な判断も入ることがあります。
2)企画・ファシリ
アルムナイというコミュニティの主体である卒業生に対する価値創出の部分です。
イベント等の企画・アレンジ(対面、オンライン)
プラットフォームの盛り上げ(運営投稿や、参加者投稿の引き出し)
各種マッチング(個別、公開)
内外へのメッセージ発信
これらは、基本的には当事者である卒業生側が企画した方が、ニーズを満たす企画や対応ができます。
ただ、会社側の企画やファシリがないと、会社側の目的達成への動線がなくなるので、そこはバランスです。
3)オペレーション
運営や企画は誰かが手を動かして形にする必要があります。
運営全体や個々の企画のプロセスや管理
ツール等の設定や運用
上記3つをどの程度会社で担うか、卒業生側で担うか、その線引きにより、主に3つのパターンに分けられます。
アルムナイ運営の3類型
1)「会社直営」型
会社側が1~3の全てを担う、本気度の高いパターンです。
コンサルティングファームのような、アルムナイ活動が会社の本業に直接的にリターンをもたらすくらいでなければ、十分なリソースを継続的には割けないでしょう。
2)「経営と執行の分離」型
会社は1のガバナンスにのみフォーカスし、卒業生による運営チームが2〜3、即ち企画やオペレーションなど卒業生側への価値提供を担うパターンです。私が聞く限り、Yahooや電通のアルムナイはこの形式で運営しています。
3)「独立運営+会社後援」型
1〜3まで全てアルムナイ側で実施するパターンで、ソニーの有志アルムナイがこれに該当します。形式的には卒業生による自主的な集まりで、お金などはもらっていませんが、会社公式アルムナイ(リタイアした人が多い、社友会的なもの)への会報に有志アルムナイの紹介記事を入れてもらうなど、公式性の高いバックアップを受けています。
その他
他にも、日本IBMのアルムナイのように年会費を徴収して外部の会社に事務局機能を委託しているパターンなど、細かくはいろいろありますが、大きくは上記3つの分類で十分でしょう。
参考:「社友会的OBOG会」との区別
旧来から、定年退職して働いていない終身雇用世代への福利厚生的な「社友会的OBOG会」を会社が運営していることも多いですが、ここでいう「アルムナイ」は、現役ビジネスパーソンの価値を共創するコミュニティという、趣旨が明確に異なるものとして区別しています。
どの形態を選ぶか
考える軸としては以下の2つです。
会社起点か、卒業生起点か
会社が割く人手とお金
A)会社起点で始める場合
最近多いパターンです。この場合、上記2の「会社がガバナンス、卒業生が企画〜オペレーション」になるのが一般的でしょう。
上で述べたコンサルティング業界のように、担当役員もつけて相応のお金や人員を投入するくらいでない限り、会社で全て担うのは難しいでしょう。
流行りに飛びついた役員から落ちてきて、部長あたりが申し訳程度に担当者アサインし、さして予算もなく小手先でやっても、結末は目に見えています。
B)卒業生から会社に提案する場合
近年、本業以外の人的ネットワーク(所謂「弱い紐帯」や「変身資産」)が重要との認識が広まる中、卒業企業というアセットを活用してアルムナイを作ろうとする人も出てきています。
会社の協力を得ない「野良アルムナイ」は対象外として、会社から何かしらバックアップを得るならば、以下を明確にして提案する必要があります。
趣旨、方針、活動概要、体制など
会社に提供できるベネフィットの可能性
会社に何をしてほしいか
どの部分は卒業生側で担うか(会社にかけない負荷)
会社のポリシーに抵触しないよう、理解している姿勢を示す
卒業生による運営体制構築のポイント
卒業生による運営体制構築について、簡単に要点だけ挙げておきます(詳細は稿を改めます)。
スカウトと公募、両方でアプローチ
大事なのは適材を見つけること(動機、スタンス、スキルの整合)
特に、コミュニティを理解し、Give&相互利益を実践している人(避けるべき人:私利私欲、内向き、後ろ向き)
まずは本気の1人と、支え合うもう1人がいると回りやすい。最初は多くて3人。
手を挙げているからと行って安易に飛びつかず、面接などの選抜・対話を入れるなどして、相互にキチンと見極める
ダメだった場合に交代させるのが何倍も大変なので、"準備委員会"として"試用期間"を設けるなど工夫する
決めた後、回るまでのコミュニケーションやサポートも大事
運営メンバーは有償か、無償か
卒業生が担う限り、基本的にはボランタリーであるべきだと考えます。高い金額を固定的に出せばROIが下がりますし、多忙な人にとっては、お金に換算してしまうと割に合わないと受け取られることもあります。メンバーからの見え方も微妙になるかもしれません。
むしろ、コミュニティを理解している人なら、私欲なく、参加者や関係者に価値を提供していれば、目先のリターンをガツガツ取りに行かなくても、仕事などの形でやがて自然に還ってくることを理解しています。かく言う私も、ソニーの有志アルムナイはボランティアで運営しています。
但し、日本IBMのアルムナイのように外部の事業者にオペレーションを委託する場合や、外部のアドバイザーを雇う場合は、然るべき対価を払うべきでしょう。私も他社にアドバイスする場合は有償です。
あと、会社主催の個別のイベントに登壇する場合などは、謝金を受け取ります。
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