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企業アルムナイのつくり方-3.参加動機を分析する

ソニー有志アルムナイを立ち上げて1,000人規模にするなど、複数のコミュニティの立ち上げや運営に17年近く携わってきた実践家が、企業アルムナイのつくり方を詳説する連載企画。

今回は、アルムナイ・コミュニティが自律的に回るようにするための、参加動機の分析について。

行く価値のある場を作ることが先

仮に自社がアルムナイをやる目的がカムバック採用だとして、採りたいスペックの人材と繋がることができ、採用案件を紹介可能な形で関係性を維持してくれて、案件を紹介したら応募してくれる必要があります。

そこから逆算して、人事DBを使って退職者に「アルムナイプラットフォームができたので登録して」「イベントやるので来て」と案内して、たくさん人を集めたとしても、継続的に活用、参加する価値がなければ、後が続きません。

候補者の視点に立てば、価値ある情報が提供されるからメールやSNSなどのプラットフォームを見るのであり、自分にとって価値あるイベントだからまた行こうと思うのです。そうして、ポジティブな形で関係が継続した先に、しかるべきタイミングで魅力的な案件が案内され、採用という成果に結びつくのです。

アルムナイというコミュニティの主体は卒業生であり、そこにまず価値を提供できなければ、会社側の目的は達成されません。よって、参加者の動機を想定し、ターゲットの求めるコンテンツを提供しなければならないのです。

参加者層ごとの動機を考える

アルムナイというコミュニティで参加者のニーズを考える時に注意すべきことは、参加者の属性と動機の幅が広い、ということです。

現在主流のコミュニティは、企業人事やXXのファンなど、関心を共にする「この指とまれ」型が主流ですが、アルムナイは出身企業が共通なだけで、その属性や関心はかなり幅があります。

例えばソニーグループの有志アルムナイでは、起業家や大企業のマネジメントもいますが、ゲームなどのクリエイター、ペンションやコワーキングの運営、アーティストなど、通常の企業グループと比べて実に多種多様です。属性などが異なれば、当然ニーズも異なり、共通のベネフィットを1つ2つに絞り込むことは難しいでしょう。

よって、属性ごとのニーズを明らかにし、それぞれが満たされる仕掛けを考えなければなりません。

ターゲットを絞る

とはいえ、リソースは限られるので、全ての人を満足させる訳にもいきません。投資対効果の観点でも、ターゲットを絞る必要があります。その観点は以下の2つとなるでしょう。

1)参加者の観点

1つは参加者の観点です。最も多い属性・ニーズであることもさることながら、コミュニティは、まずは何よりアクティブな人が増えて、参加者同士の自発的なアクションが増えるようにすることが大事なので、アクティブになりやすい層、マッチングしやすい(価値が実現しやすい)組み合わせなどの観点で、ターゲットを絞るといいでしょう。

2)会社にとってのターゲット

もう1つは会社にとっての観点です。会社の人員・工数やお金を使う以上、当然ながら目的があるはずで、そのターゲットも絞られるはずです。需給が逼迫している中堅エンジニアのカムバック採用のためにアルムナイを立ち上げたのに、セカンドキャリアを模索する事務系のシニアや、復職を求める庶務的な人ばかり集めても、目的は達成できません。

マッチングを考える

とは言え、アルムナイに参加する人のニーズはさほど多岐にわたる訳ではありません。会社もビジネスの課題解決のためにやる以上、目的はさらに絞られるはずで、概ね以下に収まるのではないでしょうか。

  • 採用

  • 業務委託、調達

  • イノベーション(情報、提携、出資)

そしてこれらに参加者側のニーズを対応させると、以下となるでしょう。

  • 採用↔転職(キャリアアップ)

  • 業務委託、調達↔営業先(売上UP)

  • 情報、提携、出資↔︎資金調達、業務提携など(起業の成功確率UP)

参加者同士のマッチングも必要

会社が参加者に提供できる機会には限りがあるので、参加者同士でもマッチングが生まれるようにする方がいいでしょう。採用する側と新たなキャリアを模索する人、腕のいいプロフェッショナルに仕事を出したい人とプロフェッショナル、起業家とベンチャーキャピタルやエンジェル投資家などです。このようなマッチングが成立するには、多様な人材がいるようにする必要があるでしょう。

非ビジネスのニーズも視野に入れる

アルムナイに参加する動機は、必ずしも経済的価値とは限らず、情緒的価値の側面もあります。それも、きれいに分かれるのではなく、1人の人間の中でも混じり合っているものではないでしょうか。

例えば、以下のようなものがあるでしょう。

  • 同業や近い業界の人たちとの情報交換

  • 短期的・直接的なメリットを求める訳ではないが、長期的には何かしらのベネフィットがあると期待できる関係構築

  • 非ビジネスの、趣味や関心を同じくする人の繋がり

  • 旧交を復活させる機会

  • 新しい人との出会い

このように、ターゲットを整理した上で、強いものから緩やかなものまで、参加する動機となる材料を幅広く想定しておくことが、場のコンセプトやコンテンツを企画する際の「下ごしらえ」になるのです。

次回:基本要素を整理する問い

次回は、アルムナイの内容を具体化するヒントとしての問いを、各要素ごとに説明していきます。




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