見出し画像

「サラリーマン」にアルムナイは運営できるか〜卒業生運営チームを作るべき理由

近年、アルムナイを設立した企業が増えております。まあ、企画書を作り、リリースを出して、年間計画を立てて、キックオフイベントをやるくらいまでは何とかなるでしょう。

しかし、その先が続くかというと、ちょっとおぼつかないだろうなぁ、というのが、長年コミュニティづくりを実践してきた立場からの見立てです。

本稿では、会社側の担当者が、アルムナイというコミュニティを運営し、活性化できる可能性があまり高くないと考える理由を説明します。

卒業生のニーズが分かるのは卒業生

アルムナイの主体は卒業生であり、コンテンツを企画するのは、当事者としてニーズを理解している卒業生の方がいいでしょう。特に、転職したことない人にとっては、転職した人や独立・起業した人が何を必要としているかは、実感が湧きにくいものです。

会社員の構造的問題

当人の資質に関係なく、会社員という立場である以上避け難い問題もあります。

就業時間外が主な活動時間

イベントをやるとすると、就業時間外になるでしょう。参加者にとって行きやすい時間は、会社員にとっては労務との兼ね合いが難しくなります。自主的に運営を引き受けた卒業生ならそれでも問題ないでしょうが、会社の業務命令としてやるとなると、労務的な問題も出てきますし、プライベートを割割いてまではやりたくないという人もいるでしょう。

兼任の場合の工数捻出

期待リターンから考えれば、アルムナイに専業担当者を設けるのは難しいのではないでしょうか。そうなると、他の業務をやりながらとなりますが、何をすればいいか分からず、いつどれくらいの効果が出るか覚束ず、側から見れば数百人程度の退職者に対してSNSみたいなものに投稿し、時々パーティーをやっている程度にしか見えないアルムナイの活動に、相応の工数を割く判断ができない人もいるでしょう。

社内承認のボトルネック

会社の組織としてやるとなると、他部門や、自部門の役員や部長などに説明し、理解や承認を得なければならないでしょう。そういた人々が必ずしもアルムナイやコミュニティに対する理解があるとは限りません。説明や承認に時間がかかり、意思決定やアクションのスピードが落ちたり、理解の乏しい人々の横槍で適切ではない意思決定をせざるを得ないことも出てきます。

適材の候補者問題

候補者が限られる

アルムナイを担当するのが人事部なら、部門のメンバーから担当を選ばなければなりません。また、コミュニティを続けるには「好き」や「情熱」も必要です。アルムナイというコミュニティをつくり、運営することに、面白みを感じられる人であることが望ましいです。しかし、その時点の人事部門に、必ずしも適性や情熱を兼ね備えた適材がいるとは限りません。

異動がある

コミュニティの運営は、コミュニティマネージャーに負う部分が大きいです。運良く適材を選定でき、経験を積んで一人前になったとしても、会社には異動があり、3年も経てば別の人が担当することになる、ということもよくあります。組織で運営し、きちんとした後継者育成と移行ができていなければ、せっかくの勢いが削がれてしまいかねません。

コミュニティ思考と会社組織思考とのギャップ

アルムナイというコミュニティを円滑に運営するための思考法は、会社員生活の中で無意識に体得するであろう思考とは異なり、意図的に使い分けないと、取り返しのつかないミスを犯す可能性があります。

重要なものを挙げると以下の通りです。

  • 主体は参加者であり、参加者視点が重要
    ←会社を主体に考える

  • コミュニティにおいては参加者も運営者も対等
    ←会社のヒエラルキーを前提にする

  • 指揮命令ではなく、価値を提供して自発的に動いてもらう
    ←業務命令で人を動かそうとする

  • 参加者が自発的に価値を生み出すサイクルを回して、結果として運営者(会社)の目的を達成する
    ←会社の目的達成だけを考える

  • 運営の継続にはパッションやキャラクターとの整合も重要
    ←仕事として割り切る(想いは入れない)

未経験者にコミュニティ運営はできないのか

実は、そんなこともありません。実際、固い企業で保守本流の仕事をしていた人が、イノベーション施設やコミュニティーマーケティングの担当にアサインされて、猛烈な勢いでコミュニティへの理解を深め、活躍している例も少なくありません。

目的や成果へのシナリオを描き、自己のコミュニティ(アルムナイ)の特性をベンチマークとも比較して分析して、戦略や企画を考え、参加者の行動やVoCからインサイトを得てPDCAを回していけば、何とかなるものです。

特に、参加者視点を徹底していれば、大きく道を踏み外すことはありません。ただ、提供側になると、自分たちの欲や都合、「べき論」により、参加者視点を見失いがちです。

また、上述のように、コミュニティの考え方は会社やビジネスとは若干異なり、両者のギャップを理解していないと、意図せず参加者視点から外れてしまうことがあります。

これらの問題を修正するために、私のような外部アドバイザーが参加者視点や基本の整理を支援することもあります。

お勧めは、卒業生による運営チームを作ること

私は、活発なアルムナイの運営者を集めたコミュニティを立ち上げましたが、その殆どは、卒業生有志が中身を考えて運営しており、会社主体で企画までやっているところは殆どありません。

これまで挙げた問題を悉く解決できていることが、その理由ではないかと考えております。

  • ニーズを理解している卒業生が企画・運営する

  • プライベートの時間で活動できる

  • 自主的な活動なので、自分で時間をやりくりする

  • 自分たちで意思決定できる

  • 適材の中から人選できる

  • 異動がない(但し、人に依存しない仕組みにする必要はある)

例外はコンサルティングファームで、会社が予算を出し担当役員をつけて直接運営してます。これは卒業生がクライアントになりうる企業の発注者になっていることが多いなど、アルムナイ活動が会社の本業に直接的へのリターンとなるので成り立つ特殊なケースです。

運営体制のパターンや、卒業生による運営チームをどう作るかもなかなか奥が深く、こちらは稿を改めたいと思います。

社内の担当窓口も必要

会社側には連絡担当を置き、あとは卒業生に丸投げでいいかというと、そうでもありません。会社側も、方針を明確に示し、必要な判断をタイムリーに下し、運営チームが価値を出しやすいサポートをする必要があるからです。

会社側には以下の2つの役割が必要です。

  • 運営チームと関係を構築し、求めるものを把握して、具体策に落とし込める人

  • ガバナンス的な判断ができ、社内のマネジメントに話を通せる

1人で両方できるといいですが、そんな人はなかなかいませんし、長期的に見れば人に依存することになりかねません。

前者は、マーケティングや営業のような、外の人を動かす仕組みづくりや働きかけの心得のある人で、人に言われない内から、社外のコミュニティに参加するなどして、ある程度肌感を持っている人がフィットすると思います。

後者がなぜ必要かというと、アルムナイは単に人を集めればいいというものではなく、自律的な組織体として継続し、会社の各種方針とも齟齬がないようにする必要があるからです。

また、コミュニティとは、従来型の採用や営業のように、短期的・直接的に効果が出るものではなく、様々な関係者の協力が必要で、効果が出るまで長くかかるものなので、結果が出るまでの間、社内への説明責任を果たし、理解を得続けなければならないからです。



よろしければTwitterもフォローください〜 https://twitter.com/Ryu_8cchobori