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19話「自殺に関する売主の説明義務」

一棟買い 後に判明 自殺あり 大事なことを隠す、許さん!

 商売というのは、安く仕入れて高く売る、その差額が大きければ大きいほど、利益が大きくなる。これが商売の基本であり、不動産販売においても例外ではありません。

 飛び降り自殺があった物件、いわゆる"事故物件"は、一般的に、相場よりも安く売られたり、安い賃料が設定されます。つまり、業者は安く仕入れることができます。そして、そこに、不動産業者として(需要と供給をにらみがら、周辺相場を勘案して)適度な利益を上乗せして販売します。一般消費者からすると、相場より安く売られている事由が、事故物件だからであることを知った上で、経済的なお得感を優先し、事故物件を購入します。

 しかし、もし事故物件であることが明示されることなく、販売されていたとしたら。相場よりは若干お得である価格(あるいは、相場並みの価格)を設定して、業者はより多くの利益を得ることができます。

購入した後に買い手が事故物件である事実を知ったら、とても嫌な気持ちになります。騙された気分になります。そんなケースが今回の事例です。

 本判決は、マンション一棟と土地の不動産売買に関し、約2年前に飛び降りによる自殺があった物件であることを売主である不動産業者は買主に説明義務があるとした判例です。

本判決は、自殺があった物件は価格にも一定の影響があること、Yが不動産を取り扱う専門業者であること、時間の経過により忌避感は薄まっていくが未だ2年間を経過したに過ぎないことから、自殺についての説明義務を肯定しました。

 なお、令和3年に国交省において「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が出されていて、「自然又は日常生活の中での不慮の死」(いわゆる、孤独死を含む)のケースは原則として告げなくてもよいが、それ以外で取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、宅地建物取引業者は、「事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合には発覚時期)、場所、死因(不明である場合にはその旨)及び特殊清掃等が行われた場合にはその旨」について、調査を通じて判明した点を買主に告げるものとしています。

また、「人の死に関する事案の発覚から経過した期間や死因に関わらず」、買主から事案の有無について問われた場合や、その社会的影響の大きさから買主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等には、宅地建物取引業者は、調査を通じて判明した点を告げる必要があるとします。

さらに、賃貸借取引の場合は、死が発覚して概ね3年が経過すると原則として告知義務がなくなるとしますが、売買取引の場合には死亡からの期間にかかわらず告知が必要とします。

 現在は、一般人でも、「大島てる」という事故物件の情報提供ウェブサイトで、事故物件情報を容易に調べることができます。

本サイトを運営する大島てる氏は言います。

「事故物件情報を提供する活動をしている根底にあるのは、大家が不都合な真実を正直に伝えているのか、と。正直な大家なのかを見分けるリトマス紙の役割を果たす。そのようなこと(事故物件)を正直に言うかどうか。」(※)

 すでに述べた通り、国交省のガイドラインにより、今まで事故物件扱いされていた孤独死が、賃貸借・売買取引において老衰・持病による病死などいわゆる自然死、または自宅の階段からの転落、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥など日常生活の中で生じた不慮の事故については原則として告知しなくてよいと定められました。

 ただし、長期間の遺体の放置によって特殊清掃、大規模リフォーム等が必要となった場合には告知する義務が発生します。つまり、亡くなってすぐに発見された孤独死は告知せずともよくて、亡くなってからすぐに発見されずに遺体が腐敗し、特別な処置を施さないと次の入居者が生活できない物件は告知しなければならないということです。

 高齢化が進み、これから、益々確実に孤独死は増えます。買主・借主からすれば、外見上は、長期間の遺体の放置によって特殊清掃や大規模リフォームが行われたか否かは判断がつきません。買ってから、借りてから、事実を知り、トラブルにならないよう、不動産業者には、"正直不動産"であることを望みます。

※) 大島てる氏が明かす 事故物件で再び事故が起きてしまう深刻理由 | 東スポWEB (tokyo-sports.co.jp)

東京地裁平成20年4月28日判決

[参考文献]
山田創一『マンション判例百選』26頁

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