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26話「床材のフローリング化による騒音被害」

上の階 届け出せずに リフォーム実施 安物使って 騒音起こす

 今回の判例、最終的には和解で解決したようですが、203号室のYは、とても迷惑な方です。

 Yが(絨毯張りから)フローリングへの張替えを行うにあたり、Yは、管理組合規約・使用細則上規定されていた専有部分の仕様変更等についての所定の届け出を行わなくてはいけません。

具体的には、「事前に工事等によって損害を受けるおそれのある組合員の承認を受けている」旨等の工作物設置等申込書と「専有部分の仕様変更等について他の区分所有者から騒音等の苦情が出た場合は速やかに原状に復することを確約する」旨の覚書です。

 Yは、階下のX1・X2の承認を受けないまま、フローリング工事を始めます。実際には、フローリングの話はなく、改装工事を施工するので数日間工事音を我慢してほしい旨説明をしただけで、フローリング工事を始めたのです。そして、Yは、工事が完了してから、工事内容がフローリングへの張替えだったこと、フローリングには「良い素材を使った。音を立てないよう気をつける」とX1・X2に説明しました。

まず、管理組合に所定の届け出を行うというルールに違反していること、真下のX1・X2には事前にフローリング工事であることを伝えていなかったこと、さらに、「良い素材を使った」と虚偽の説明をしたことが問題に挙げられます。

 X2はY方が寝静まるのを待って午前二時以降就寝し、X1はYらが起床して歩き出す音で目が覚めるという生活が続きました。X1・X2は、Y2に対し、原因の調査を申し入れたところ、フローリングに使用した床材は、「良い素材」ではなく、防音性能は最低のL-60の板材であることが判明しました。

Yは、業者に全面的に任せたと言いますが、防音性能が最低の板材を選んだのは、まぎれもなく、Y張本人です。高級マンションに住むのに、随分とケチったものです。おかげで、工事費は約90万円ですみました。

しかし、結果的には、YのX1・X2に対する各75万円の慰謝料が認められたわけですから、高い工事となりました。最初から、L-45の板材で改装していれば、想定外の出費もトラブルも未然に防げた可能性が高いと思われます。一方、Yが、本来のルールにしたがって、「専有部分の仕様変更等について他の区分所有者から騒音等の苦情が出た場合は速やかに原状に復することを確約する」旨の覚書に基づけば、Yは現状復旧しなくてはいけなかったとも言えます。

 さて、前回の記事の中で、私は、物件選びのポイントとして、騒音対策という観点からは、「遮音性能の値」を確認することをアドバイスしました。加えて、「スラブの厚さ」も確認に加えると良いです。マンションにおける上下階の界床はコンクリートスラブです。現在、マンションなどの集合住宅では、遮音性の観点から200ミリ以上の厚さが標準とされています。 一般的に、スラブが厚いほど遮音性が高く、床の振動も少ないです。

コンクリートスラブの厚さは、マンションの築造時期によって差異がありますが、今回判例のマンションは、150ミリでした。そこに、L-60の防音性能(遮音材)が施されていない一階用床板材を直貼りして敷設したそうですから、「悪い素材」を「薄い床」に張り付けた工事でした。

もしあなたの上の階でフローリング工事が行われることになったら、フローリングの防音性能も必ず確認した上で、承諾を可否しましょう(※)。Yのような無責任・無神経な人もいるわけですから。

※)マンションを所有している方は、この機会に、ご自身のマンションの、リフォームに関する、管理組合規約・使用細則上の規定を確認してみましょう。マンションによっては、住戸所有者によるフローリング施工を管理組合の事前承認事項とし、承認申請書に「上下、左右、左下、右下、計六戸全員の床面改装工事承認同意書」などの添付を要するものとしている事例もあります。また、「遮音等級が何等級~でなければ用いることができない」と定めている事例もあります。逆に、全く規定が存在しない場合には、マンション全体で取り組むべき問題として、規定を定めるよう管理組合に提言すべきです。

東京地裁八王子支部平成8年7月30日判決
[参考文献]
玉田弘毅『マンションの裁判例[第2版]』240頁

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