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#詩

虫眼鏡

抜け殻のように目が渇き
這って穴倉を抜け出した
袖の大鋸屑を払って
河原を照らす青空に掌を翳した

幼い頃の半ズボン姿の私は
裾を濡らしながら中洲に上陸した
空に染みつく真っ赤な夜の兆しが
そんな冒険の意欲を剥ぎ取る頃に
ついに謎に塗れた獣の骨を発見した

やるせないほどの嗄れ声で
古い手紙を読んでみた
文字の上に翳した虫眼鏡の隅に
噛み砕かれた虹のような
悲しみに頷く私の顔が映っていた
その背後

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未来人

小蝿を殺した
子供達が風船を割った
口角が傷付きヒリヒリと痛む
愚鈍で誠実な人々は消えてしまった
世界は境界線で埋め尽くされた
雪掻き用だったスコップで
人だったかたまりを掻き寄せる
屋根だった空に穴があいて
くだらない光が差し込んできたせいだ
憎しみの上に怒りが生えて
魂が私の一番嫌いな形になる
眼球を売りに出した翌日に
未来人は便器に跨って眠り
そのままひとりで死んでいく

窮屈な頭蓋

窮屈な頭蓋の裏にしたためた憂鬱な記号が
緩んだ冠状縫合から滲み出た
でももうしばらくは秘密にしておきたくて
髪の毛を逆立て誤魔化した
それでもあまりいいことにはならないな
膨らませ大きく見せてもなんだかな

何を見ている

子を背負い
爆弾を抱えて地雷を踏む
そのままで
そのままで
少しだけ待ってほしい
光の形
音の形
空はいったい
何を見てくれているというのか

トボトボ

昨日は船に乗り遅れ
今日は列車に乗り遅れ
見送るばかりの私です
見送りトボトボ歩きます
ただトボトボと歩いたら
いつかはそこに
着くでしょう

いない

窓ガラスに映った私が剥がれめくれて
手鏡に映った私を覗き込む
自分の頭で、とは、どういうこと?
映り込まない掌だけがほんとうの私だった
ふらふらと世界を揺らしながら
そこに私がいないことを知っていた

まち針

冷えた地形に沿って黄色い言葉が積もる
丹念に等高線の襞をなぞると
小さなその葉の輪郭線と等しいことがわかる
谷と谷との交点には赤い言葉が溜まったが
空に押し流されて粘度の高い湖がつくられた
稜線の先端を祠が突き刺す
世界をとどめるためのまち針だった

呆気にとられた、の「あ」のような

真夏の空に
呆気にとられた、の「あ」のような
大きな穴があいている
人類は何かを縦に重ねると大概失敗する

真っ赤な友達

ちいさな怒りが休んで居る
まつ毛のかげで休んで居る
印のないブリキ板が
丸く切り抜かれて空に嵌め込まれている
残念ながら
その領域の内側で私は響くことがない
ほんとうの友達だったことがなかった
棘の様な真っ赤な友達だった

私が捨てたもの

蝉が透き通りながら羽の皺をのばしていた
幼い頃の青味掛かった曖昧な記憶
私は古井戸の洞に小石を落とした
水音は聞こえなかった

それは小さな鍵だった
見つめると縮む
見つめるほどに縮み
やがて私は見失い
大切だった筈の冒険を簡単に諦めた

そして重たい鍵だった
触れると冷える
触れるほどに冷えて
やがて凍りつき
私諸共粉々に砕かれそうだった

胸に打ち寄せる少し先の未来が怖かった
翌朝にきこえた騒

もっとみる

それでそれで

時の箱を次々と開く
それでそれで
それで僕たちは何になる
真っ黒なふりした夜が息切れして
そしてそして
青空だったことがばれてしまう
つまり僕たちは夜だったのか
夜から向かうどこか
それはそれは
深い海の色
震えるような本当の色

標本

同じ速度で歩いていたら
一緒に腐りそうだった
私の舌が黒ずんで
飛び出た雹が子に当たる
動物園に行った
博物館に行った
晒せば今度は乾涸んで
私が標本のようです

鍵穴

出掛けに部屋の鍵がないことに気づく
物事をめくってみたり
無意味な箱をあけてみたり
過去の心を覗いてみたりしてみたが
ない
もはやこれまでと覚悟を決め
外に出てから扉を閉じたら
鍵穴に刺さりっぱなしのキミが泣いてた
一晩中そこにいたのか

石畳

不幸せな水平面に貼り付いて
ふわあと熱上がり黒い男と女
おしゃれおしゃべりしている

古い煉瓦の鉛直面で
黙りこくってセピア色の男と女
不幸せな石畳に
ただ影を落としている