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2023年2月の記事一覧

利き手じゃない方

利き手じゃない方で文字を書くと詩が描ける
利き足じゃない方で跳ぶと現実に気付く
利き目じゃない方で見ると本当が分かる
やってみて。

どこかの街の確か夕方

どうしても思い出せない佇まいがあり
どこかの街の確か夕方
大切な何かが並んでいたような
何が置かれ吊るされていたのか
或いは笑っていたのか泣いていたのか
どうしようもない
どうにでもなる
そんな私が揺れていたような

傷2

齢を重ねれば恨まれる事が増え
元善人の心は傷だらけ
それは自然な事のようにも思え
若い芽吹きを見守っている

傷付く覚悟が信じること
傷付く後悔が疑うこと
傷付かぬのは傷ぐらい
深くてやさしい傷ぐらい

皆既月食

皆既月食の時にだけ現れる
あの穴から脱出しようと思う

中は真っ暗
光る私は行かないけれど大丈夫?

ひとりで行くよ
自由が欲しい

忘れるだろう

毎朝携帯に電話する。その人が使い方を忘れないようにするためだ。昨晩は何もかも聞いていないと怒りをぶちまけていたが今日にはすっかり忘れている。もうすぐ私の事も忘れるだろう。それは悪い事ではない気がしている。

水鳥が時の布団に浮かびながら泣いている、そのうち忘れるだろう

雪の中を歩きたくて

雪の中を歩きたくて
わざわざ買い物に出掛ける
踏み締める、音が聞こえる
みんなが何気なくではなくて
気を付けて行列を作る
お互いが暖かく、
冷たい風が静かだ

水を飲む

今日の私が水を飲む
昨日の私がそうしたように
明日の私がそうするように
水を取り
口元を湿らせ
涼み
少しだけ仰ぎ見て
今日の私が水を飲む

建築

朝も昼も夕方も真っ暗な夜中にも
あなたはこの世に佇んで
隣に私の建築が寄り添えばいい
誰にも見えない小さな屋根が
あなたを静かに庇えたらいい

あなたが伏せってしまったから
邪魔な私はおなかを穿ち
これで景色が見えるかな
誰にも見えない小さな窓が
あなたに光を届けられたら

欠落

黒い塗り潰しは欠落ではない
空間を占めている事に変わりはないからだ
欠落は空間を歪め周縁の模様で補完される
視線の変化に伴い欠落は移り変わる
顔が歪み目が消える
蜻蛉が歪み指先が消える
鏡を見るときには覚悟が要る
写像の背景が歪み私が消える