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2022年10月の記事一覧

出口を求めて

発泡水を飲み干すと
毛穴の芯から泡立ち始めた
出口を求めて
細かく切り分けられた私が
ぶつぶつ
ぷつぷつ
沸々と

口腔

子音の長さなんて意識したことはなかった
母音を引き剥がし少しずらして重ねる
新しい響きだ
新しい言葉だ
繰り返す、やがていつもの響きに戻る
ただし別の意味
或いは人でなしな言葉
ひとつの口腔では操れない

三日月だ

捻くれ捩じれた電線に
従うように走る電車に乗った
吊革が揺れる度
顔が夜空にへばりつく
列車の窓の硝子が割れて
雨水が白い糸をひく
三日月だ
刀のような三日月だ
最終列車の最後尾
闇に連なる白い残像
連結器
連結器
連結器

ブリキの筆箱

ブリキの筆箱の蓋を開けたら
幼い頃に閉じ込めた空気が解放された
中には飴色の鉛筆と並んで
折れてしまった私がたくさん保管されていた
擦り付ければまだ何か書けると思う

耳打ち

私は私が私を
観察するときだけあらわれる
から

あなたはあなたがあなたに
耳打ちするときだけあらわれる
から

からまわりのダンス
二重振り子がお手本じゃ
無理だ

私は私が私に耳打ち
あなたはあなたがあなたを
掻き混ぜる
から

遠くの

昨晩おやすみと言ったのは
遠くのあの人宛てでした
両の掌を閉じて開いて
皺が若干背伸びして
冷たい空気を吸い込んで
今朝おはようと言ったのも
遠くのあの人宛てでした

空っぽ

硝子コップの縁に
まだあなたが残っていたから
丁寧に洗浄し光量の差分を分析した
曲面の向こうには平らな窓硝子があり
光はふらふらとそちらからやって来て
またそちらへと戻って行くように思えた
何気なくコップを伏せたら
あなたが溢していった空っぽが
閉じ込められていた
痕跡がなかなか消えない

まとまらない

人ごみの中のランチタイム
ひとかけらになって
店の前の行列
ダストマットにとらわれて
身動きできずにいる、ので
頭の中だけでいろいろとまとめる
まとめると
まとまるのか?
いないという出来物が背中にあり
いないというでっぱりが睡眠を妨げた
現状朦朧な私は
ラーメン食べたい、と思ってる

CONTACT

全館停電のオフィスビルの中
僅かなバッテリーで古い映画を再生した
相変わらず
他人を助けてしまう無神論者が好きだし
疑うことを畏れず努力する人が好きだ
Netscapeのアイコンに星が流れ
詩人を乗せるべきだったと主人公が呟く
そうだよな
私が全存在を賭けて告げる事実に
私が耳を傾けよう