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2022年6月の記事一覧

もう夕方の空に2

母さん 父さんの所 行くから と 昼下がり 
みいちゃん と はあちゃん 連れて 
早く歩きなさい と 言う 母さん 
だって ジョンが ジョンが と みいちゃん 
紐を 引っ張り 引っ張り するが 
犬のジョンは 片足けんけんで 引っ張られ 引っ張られ 
ジョンが ジョンが おしっこ してるから 
かわいそう かわいそう と みいちゃん と はあちゃん 
わかったから 母さん お花買うから 先に

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朝を迎えに行った

早く目覚めたので
地球と一緒にまわりながら
朝を迎えに行った
朝は頭のてっぺんからぬるぬると現れて
頭上を飛び越え反対側に飛び込んだ
最後に足の裏をひらひら見せながら
きらきらの星しぶきをあげ全部沈んだ
取り残された私は八時間だけ気を失って
地球と一緒にまたまわる

小さく前へ倣え

自由が悪者にされている
こんなんだったっけ
右も左もそうなのか
そういうことなのか
そういう奴らなのか
そういう我らなのか
小さく前へ倣えして
肩甲骨をぐりぐりしたら怒られた
なんだよ小さくって

過冷却

過冷却なままそっとやり過ごす
揺れれば一気に凍りつき
海も空も閉じ込められる
群れて泳ぐ青が夕陽で温められて
生まれた茜が止血してくれたら
すこしづつまばたきを始める
塩辛い水がまたもどってくる

投函

よその心が集団で押し寄せる
肋骨の隙間から
引っ張り出された私の心が
薄暮の地べたへ垂れ落ちる
郵便ポストの朱の翳り
宛名に共感しないよう
投函するのは私です

漂っている

げらげら笑う赤ん坊が
ぷかぷかと漂っている
ひもがおへそにつながれていて
ひっぱるともっと笑う
つられて笑うと
顔が空いっぱいに膨らんで
やあ、と言った
しゃべれるのか

浮かんでいる

長椅子が硬かったので
お尻の片方だけで浮かんでいた
浮かんでいると空気が動き
浮かんだヒトが寄って来た
ひとつずれたら柔らかく
花柄の床まで沈みこむ
譲られ隣に座ったヒトが
そのまま後ろにひっくり返った

便座もときどき浮かんでいる
最近はときどき温かい
そちらはあまり好きじゃない

古い夢

日曜日だ、そこで
考えが目詰まり

傘をささなかった
横断歩道をわたった
古本を二冊買った

帰る、帰る、帰る、
ほっとした
夕寝した

とても古い夢
庭は砂地だった
海の、かたわらの、松林の、裏

黄色い花

上澄み水の中を黄色い花が
泳いでいるのが見える
全て泥水だと思っていたけれど
それはまちがっていたようだ
鉄橋を渡る電車の窓から
水嵩を増した川を見下ろすと
似ているようで似ていない
今日が砕かれなだれ落ち
水に流されるのが見える

空咳

期外収縮を繰り返すたびに
横隔膜に憂鬱がぶら下がる
わざとらしい彫刻のような姿に
無理解の波紋がひろがってゆく
空咳が鼓動を取り戻すかわりに
世界は少しだけ切り捨てられる
大丈夫なやつなんで
と、いう台詞が
マスクの裏側に蓄えられる
面倒になる

震えてる

真空が震えてる
音がしてるのはその周りだけ
まあそういうもの
冷房が効いてる
いまはにおってない
あんまり洗ってない頭の
てっぺんに風が当たる
私の輪郭も震えて
明日の準備をしている

微笑みのかけら

触れた指の先に
まとわる熱がふたつならんで
ひとつは鈴
ひとつは笛の
音をたてて
かたくなな世界が小さく綻び
舞い落ちる微笑みのかけら

進化

自ら肉体を棄てる進化を選んだヒト科最後の標本です。苦しみを生み出した肉体が、実は苦しみにブレーキをかけることができる唯一のものだったと悟るのが遅すぎました。肉体を失い目には見えなくなったヒトは今でも永遠の苦しみの中にいます。地獄の現実化ですね。救いはどこにもありません。

ナップサック

ナップサック

(津波に関わる描写がありますのでご注意ください。)

















子供が泣くのでおもちゃを取りに戻った
ナップサックに詰め背負った時
泥水に飲み込まれた
材木にはさまれ骨が砕かれるのがわかった
おおきくなってこのことを知れば
あの子はきっと自分を責めるだろう
おもちゃが詰まったこのナップサックだけは
なんとか肩から外そうとしたが腕が動かない
そうだ、このナップサ

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