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2022年4月の記事一覧

玉石

孤独である、唯一ではありません
あるだけである、唯一ではありません
青く不安に沈むもの
滝の袂で揺れる玉石

近代

踵の辺りで幼い頃の笑い声が
黄ばんだチラシと一緒に揺れている
時雨を硬い頭に受けながら濡れて
浮き袋に掴まって飛んで行く
夜が溶け込んだ灰色の朝と曖昧な夢
魔法のような苦味を
近代の透明が教えたがる言葉で押し流す
泥水のように粘った雲の中を
戸惑いながら命懸けで泳ぐ今日だ

お昼寝の時間

この子の中を流れるあの子の気持ち
気持ちの中を気持ちは流れる
思い疲れて心の果てに書き足した
泣かないで。
うずくまる心、初夏の日暮れに
光を集めて冷たい飴玉
そろそろお昼寝の時間です
耳を閉じて巻貝の
なかで眠る、眠ろう耳の
丸い空

いいのが書けて油断した

いいのが書けて油断した
とどめることに失敗する
暑いかな 雲低い
風吹いて
耳元でぼそぼそ
暑いよね
口には出せないけれど
傷つけたのは本当だ
出してるよね
地平線から滲み上がる影
液晶が力を失い
文字が光の中に吸い込まれる
どこみてるの
襟足。

眠れぬ月夜

なぜだか眠れぬ月夜には
舌さきを宙にはなします
悩みや不安はそのままで
いつのまにやら眠れます

なぜだか眠たい昼まには
舌さきで夢をはなします
夢見ごこちはそのままで
すこし白けて目覚めます

なぜだか明るくなるうちに
なぜだか暗くなるうちに
脈打つからだを感じます

ハナウタナベさんによる朗読花歌

空が浮かんでいる

空が浮かんでいる
あなたの頭のてっぺん辺り
ひびわれ雲から垂れ下がる
私は初めて空の実体を見た
なんというかその
ピーマンのような空だった
それを支えるひびわれ雲は
宇宙から靴紐でぶら下がる
酢豚のような塊だった

この肉で

思いばかりを積み重ねても
たどり着けない場所がある
そこには歩いて行けば良い
この足で
この肉で 

張り紙

張り紙を撮影していたら
残念ねと
通りすがりのおばちゃんに声を
かけられた そうですよねと言う
手を振るかわりに頭を振った
髪は軽くなったが
緩んだ皮のせいで遠心力を感じる
帰ったら
最後のゼリーを食べようと思う
道幅が少し広くなった気がする

体験が砕かれ砂となり心の底に溜まって行く。砂はやがて夢となり像を結ぶだろう。どんなに美しいイメージであっても慌てて追いかけまわしてはいけない。熟成され自然に浮かび上がってくるその時を楽しみに待とう。

洗脳

犬だよね
なぜわかった?
熱めのほとぼり
深めのそとぼり
取り囲まれて
泣かされて
出口はひとつで抱きしめられる
洗脳完了
辿り着くのはいつでもここで
疑うことなど思いもよらない

おやつはカール

鼻歌は世界を掬う
ちょっとちがうか
世界を拾う、それにつけても
おやつはカール
カールって売ってないよね
知ってた
いや。ほんと。関東。
うたえるよカール
へんな鼻歌流行るといい

大きな声

さらにつめたくなるように撫でる
つめたくなりかけの胸の奥には
艶艶で平板なホコリが浮んでいる

大きな声が
たくさんの
大切なものを吹き飛ばす
翳りもなく
眠ったように
自分さえも切り捨てる

遠い台風の気配

ちょっと荷物が重すぎて
少々嫌気もさしてきて
児童公園に寄り道をした
あいにくベンチの空きがなく
ブランコの柵に寄りかかる
風は冬、日差しは夏の奇妙な春に
枯れかけの心はざわつくし
ブランコとともに揺れ動く
雲も激しく動くなあ
遠い台風の気配を感じる

沈んでばかりいる

窓硝子の押さえ縁に
羽虫が挟まっていることに気付いた時から
太陽が沈んでばかりいる
透明な皮膜に花柄の顔が映り
老眼鏡が表情を曖昧にした
背後から浮かぶ太陽に気付くために
首を軋ませ振り返る必要はない
反転した花柄が眼鏡をはずし
見届けてくれる筈だ