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価値の抽出/セレクトのコツって? 知見聞いてみ隊vol.2

こんにちは、コンセントのUX/UIデザイナー荻原です。

おぎわら かなプロフィール:UX/UIデザイナー。専門学校桑沢デザイン研究所卒業。ウェブサイトやロゴ制作など、媒体問わずコミュニケーションデザインに関わる。近年はUX/UIデザイナーとしてデジタルプロダクト開発プロジェクトに参加することが多い。趣味は切り紙とチラシ集めだが、どちらも収納方法に悩んでいる。

「勉強会や本で知識を得たつもりでも、いざ実践してみると『え、これってどうやるの…?』と手が止まってしまう…」

この記事は、そんなお悩みにスポットを当てた社内の取り組みである「知見聞いてみ隊」のレポートです。今回のテーマは「どのように価値の抽出/セレクトをおこなうの?」

主に価値分析についてのお話になります。

改めて「知見聞いてみ隊」とは?
UX/UI初学者(以下、質問者さん)から実践して感じた「正解のない問いや疑問=お悩み」を収集。質問者さんと共に経験値のある人(以下、経験者さん)へお話を聞きに行く。お悩みに対して、経験者さんなりのやり方や対処法を聞いてみるのが目的です。

取り組みの性質上、記事の内容が必ず正解ではないこと・初歩的な学びも含んでいることを念頭に読んでいただけると幸いです。

取り組み内容の説明図:質問者が、経験者に「これってどうやるの?」を質問する。経験者が、質問者に「自分だったらこうする」を回答する


登場人物

登場人物の説明図。質問者(ハムスターアイコン)、1つのプロダクトに長く携わるというより、多様なプロダクトに少しずつ携わってきた。実家にお婆ちゃんポメラニアンがいる。 経験者1(コアラアイコン)、サービスデザイナー。グラフィック、エディトリアル、UXからサービスまで幅広いデザインに携わる。大学依頼弾いていなかったギターを最近弾き始めた。 経験者2(パンダアイコン)、サービスデザイナー。事業開発支援やコンテンツライティングなどに従事。探索的なリサーチプロジェクトに数多く携わってきた。イタリア語を少し話せる。

どのように価値の抽出/セレクトをおこなうの?

質問者さんから経験者さんへ共有したお悩みは以下です。

🐹質問者さんのお話
とあるサービスに対してユーザー理解を深めるために、リサーチをおこないユーザーモデリングの3階層である「属性層」「行為層」「価値層」に基づいて分析をしました。

その中でも「価値層」の分析のためにおこなったユーザーの価値観の分析について、当時悩んだり気になったりした点を色々とお聞きしてみたいです。分析には価値マップを用いました。

■価値マップのあり方について
質問①:ユーザーの声から抽出した価値は、断定的に捉えるべきか、可能性として捉えるべきか?
質問②:KA法(※)を取り入れるのはどんな時?

■価値分析の方法について
質問③:リサーチしたデータを切片化する際、どのような発話を抽出すべき?大事なことは?
質問④:切片化したデータから価値を抽出する際、価値をどの程度抽象化するべき?ポイントって?
質問⑤:抽出した価値を構造化する際に気をつけるべきことって?


※KA法とは、表層的な事実と現実の行為の裏に潜む、顧客の本音・潜在意識・価値観を探る手法です。もともとは、紀文食品の浅田和実氏が開発した手法ですが、千葉工業大学の安藤昌也教授がそれをサービスデザインの手法としてブラッシュアップしました。


価値マップのあり方について

1.必ず主観が入ることを前提に、捉え方と伝え方は使いわける

1つめのお悩み「質問①:ユーザーの声から抽出した価値は、断定的に捉えるべきか、可能性として捉えるべきか?」について聞いてみました。

実際にユーザー調査から明らかになった価値なのだから、「〜に価値を感じている」と結論づけて良いのか。あくまで可能性として捉えておくべきなのかというお悩みです。

🐨経験者1さんのお話
抽出した価値をどのように捉えるのかは、ユーザーの声から価値を抽出する上で「リサーチャー側の主観がどの程度入ってると認識するのか?」で考え方は変わってくると思います。私はここに絶対にリサーチャーの解釈が混ざると思っているので、可能性として捉える派ですね。

ただ、例えばクライアントへ分析結果を伝える時は、断定的に伝えた方がわかりやすいですよね。「可能性があります」じゃ不明瞭というか、安心できないじゃないですか。なので伝え方については、関係性の中で「断定的に伝える」のか「可能性として提案する」のか、使いわけるのが良いと思っています。

🐶経験者2さんのお話
僕も捉え方は🐨さんと同じ。なので、最近リサーチを「主観的で創造的な提案活動」みたいな風に言うようにしてますね。分析で出てきた価値って、提案でしかないと思ってます。

個人の解釈や主観が入ってしまうので、捉え方としては断定的なものとして扱うほうが難しい。ただ、伝え方はその時々で最適な形を模索するべき、ということですね。今まで「主観が入っていることを前提に捉える」こと自体、意識的におこなえていなかったなという気づきがありました。

また、伝え方として「断定的に伝える」か「可能性として提案する」のかは、調査の目的によっても変わるのではという考え方も聞くことができました。

例えば具体的にユーザーの要求や期待の理解が必要な場合、客観的な事実として分析結果を断定的に伝えればよい。逆に、ユーザー自身が気づいていないことを探索的にリサーチする場合は、調査者が状況に応じて解釈し、仮説としてどんどん可能性を提案していったほうがよいという考え方もあるのでは、とのことです。

価値分析の目的やゴールに応じてもまた、アプローチや伝え方を考えることができるということですね。


2.より本質に迫るために「一緒に考えていく」を共有する

主観が入っていることを前提にするならば、抽出した価値を断定的に捉えることはプロジェクトメンバー全員にとってリスクがあるのでは。メンバーのうち1人でも絶対的な正解だと思って進めてしまうと、他に検討すべき事柄が抜け落ちたり、後の進め方で認識に相違が出る可能性があるのではないか。

「なるべく提案の形で共有するのが良いのでは?」という仮説のもと、どのように共有するのが建設的か?また、どのように社内外のプロジェクトメンバーと関係を築いているのか質問してみました。

🐨経験者1さんのお話
提案する形でうまくいく場合というのは「一緒に考えながら進んでいく」というモチベーションを共有できている時です。ですが、その関係値をつくるのは簡単ではありません。

断定的に言わないということは、相手からしたら依頼した人が「答えを出してこない」ということですよね。なので、「答え」を求めていると思った時は、断定的に言いつつ、それでも言い切れない部分についてはバランスを見て伝え方を考えます。

🐶経験者2さんのお話
大事だと思うのは、どれくらいプロジェクトメンバーをリサーチに巻き込んでいけるか?という点です。

特定メンバーだけで考えた結果を伝えても、思っていたより共感してもらえないことがあって。共感をつくり上げていくためにも、インタビューに一緒に来てもらうことができたら一番良いですね。最近だと質問設計とかを一緒にやったりします。

断定的に伝えるか可能性として提案するか、まずはどちらの方がよりお互い納得ができるのか探ることが大事ですね。かつ、リサーチを創造的かつ本質的なものにするためには、「一緒に考えていく」という空気感をどのように醸成していくのかが肝になってきそうです。


3.手法は、考え方の軸を握ることが大事

「質問②:KA法を取り入れるのはどんな時?」という質問に対しては、そもそもKA法をKA法として使うことはあまりないかも、という回答をもらいました。

🐨経験者1さんのお話
インタビュー結果から価値を整理する際、KA法の「ファクト・心の声・価値をわけながら考える」という考え方はとても重要。ただし、テンプレートにこだわる必要はなく、その3つの視点を頭の中に置いて整理すれば良いと思うな。

KA法に限らず分析の手法がたくさんある中で、各手法の「どんな時に使えて、大事な部分はどこなのか」を理解しておく。そうすれば実際に手を動かす時、どの手法のどの視点をもって取り組むべきなのかを考えられる。これぐらいをつかんでいれば、フォーマットはなんでもいいんじゃないかと思っています。

さまざまな人が混在するワークや、多くの人にわかりやすい状態にする時には、テンプレートをしっかり踏襲する時ももちろんあります。

画像2点。左画像:KA法のテンプレート。カードに罫線をひいて3つに区切り、出来事、心の声、価値の3つをそれぞれ書き出す体裁。右画像:KA法を生かした考え方。人物が「今ある価値を整理したいから…インタビュー(出来事・ファクト)から、ポイント(心の声)を抜き出して、価値を考えてみよう」と思考している。その下に、よくあるKA法テンプレートとは異なるかたちで「ファクト、ポイント、価値」を書き出し、整理したイメージ図があり、「やり方はこんなカンジでいいか。」と思っている。

手法のテンプレートだけではなく、手法の根幹である考え方の軸を握っておくことが大事ということですね。そして、場面場面ですぐに取り出せる選択肢をつくっておくために、日々のインプットが大切だなと改めて思いました。
また、別軸として場面によってもテンプレートに当てはめるか否かが変わるそうです。

  • その資料を用いてどれくらい他の人に説明する責任をもつのか。

  • プロジェクトでつくったものがどれくらい表に出ていくものなのか。

などにより、中間成果物の整理度合い・可視化度合いの必要性が変わってきます。それ次第でテンプレートを取り入れるのか、そのエッセンスだけを使ってラフにディスカッションするのかは変わってくるというお話でした。


価値の分析方法について

1.切片化には、結局プロジェクト理解が最重要

「質問③:リサーチしたデータを切片化する際、どのような発話を抽出すべき?大事なことは?」には、こんな回答をもらいました。

🐨経験者1さんのお話
「特徴的な出来事」や「主観的に重要と思われる部分」を抽出することが1 番大事だと思っています。その上で何を重要とするのかの判断軸は、プロジェクトの目的や何を明らかにしたいのかという点。

つまり、プロジェクトを理解した状態の頭で、主観的に重要となる部分を抽出することが重要だと思います。ただ、そことは全然関係なく、面白い話もピックアップしたりもしますよ。

🐶経験者2さんのお話
調査ではインタビュイーの言葉の意味を深ぼっていきます。例えば「ハードルが低い」という発話に対して、言葉通り受け取らず「この人にとっての”ハードル”とは?」「”低い”とはどの程度なのか?」と探っていきます。いい調査ができている状態というのは、そういうことだと僕は思っているんですね。

インタビューでも深掘っていくような、相手の独特な感覚で表現されているキーワード。これは貴重なデータになりやすいし、抽出できると結果としてもいい価値が出るなという感覚はあります。

プロジェクトをきちんと理解しておくという点が、こういった場面でも生きてくるのだなと学びでした。また、インタビューでのポイントが抽出時のポイントにもなるというお話も、感覚的に認識していた部分だったのできちんと理由を聞くことができたことでより理解が深まりました。


2.価値の抽出は、文脈と先のフェーズを見据えておこなおう

「質問④:切片化したデータから価値を抽出する際、価値をどの程度抽象化するべき?ポイントって?」については、抽象化の粒度として抽出した価値だけ読んで「『確かにこういうの、あのユーザーが求めていそうだな』と伝わるレベルにする」という前提のもと、さまざまな角度からポイントを聞くことができました。

🐨経験者1さんのお話
心の声から価値を抽出するフェーズでは、主観的な「自分の解釈だとこう捉えられる」という「解釈の飛躍」が発生します。その時には、インタビュイーがどういった意図で話してたのか、という前後情報を踏まえると飛躍の根拠になったりしますね。

🐶経験者2さんのお話
価値を伝えることを提案活動とする際、「提示する価値の仮説が検証可能か」はすごく大事で、価値抽出のポイントの1つだと思います。

それから、抽出した価値を問題解決的な価値と意味形成的な価値にわけて認識できていないと、混乱が起きがちなんだろうなとは感じますね。どちらの価値もあるという認識が揃ってないと、特に意味形成的な価値は「価値と認めてもらえない」ということが起こりそうです。

今回出てきたポイントをまとめると以下3つです。

  • 解釈の飛躍が発生するフェーズなので、インタビューの前後情報を踏まえて根拠をつくる。

  • 提案した価値が、検証可能か考える。

  • 問題解決的な価値と意味形成的な価値があることを理解、区別して整理する。

この中でも特に「提案した価値が、検証可能か考える」という点が、自分の中では発見でした。価値の確かさを検証する場合や、価値をもとに具体アイデアを考え形にした時に、計測ができないのでは改善していくことも難しく…。

モノ・コトを作成・改善する前の価値探索フェーズから、プロジェクトを俯瞰しゴールを見据えて動いていけると良いですね。


3.価値を構造化する時、すでにわかっていることはやらない・言わない

「質問⑤:抽出した価値を構造化する際に気をつけるべきことって?」についても教えてもらいました。

1つ目:先にラベリングを考えて振りわけようとしないこと
例えばサービス利用前、サービス利用中…のようなカテゴリーを先につくり、そこに得た価値を分類するのは価値の構造化ではなく情報整理になってしまいます。価値と価値の間に共通項を見出して、グルーピングをしていくことで、そこにある価値の芯や軸がなんなのかを見出していくことが重要です。
参照記事(https://kmhr.hatenablog.com/entry/2020/06/27/165042)

2つ目:わかりきったことは言わないこと
「何々ができて便利な価値」のような、「そりゃそうでしょ」というものは、言わなくても良い。 例えば「効率的な価値」があった場合、それが「どのように」効率的なのかというところに新しさや発見を見出していけると良いよね、とのことでした。

どちらもついやってしまいがちな点だと思います。聞いた点に気をつけつつ、自分なりの新しい発見ができると良いですね。


4.「間違っていたら…」ではなくて、「説明できるか?」を気にしよう

今まで何度も出てきた主観が混ざるものであるというお話に対して、「でも、もしも主観的に切り取った部分が、間違ってしまっていたら?」という点を、最後に聞いてみました。

🐨経験者1さんのお話
質的調査って絶対主観的なんですよ。

事前に客観的なデータを見たとしても、これが重要であるという判断は誰かがしますよね。誰かが判断するものはすべて主観的なんです。その判断に対して他の人も同意や納得や理解ができるかという話でしかなく、つまりは説明できるかどうかなんです。

なので、間違っていたらどうしようではなくて、説明できなかったらどうしようの方を気にするべきかなと。
そうすれば、相手が納得できなかった時は説明に対して理解を得られなかった時。つまり、説明根拠が足りていないか提案内容が同意できないものなので、提案内容を見直すべきであることがわかりますよね。

🐶経験者2さんのお話
(ぶっちゃけると)そもそもユーザーが話したこと自体が、本当かわからないじゃないですか。正しさとか正解みたいのはたぶん全くなくて、あくまでも自分たちの主観の中でどういう提案仮説をつくって、価値の仮説を提案するかという話だと思います。

誰も正解なんてわからないので、次のフェーズで「この価値が本当に価値と思われてるのかどうか調べてみる」で良く。もしも価値がないとなったら戻れば良い、というだけの話かなと思いました。

漠然と間違っていたらと不安を抱えるよりも、「説明をきちんとできるか」の方が、ゴールが明確になりますね。また、誰も正解なんてもっていないことを前提に動くことが大切だと感じました。


まとめ

今回印象的だったのはやはり「主観」というワード。質的調査は絶対的に主観が入るものであり、誰も正解はもっていないものである、というのは心に留めておきたいです。その上で、クライアントとどのように納得感をつくり上げていくのか、協創していくのかという観点を忘れずにプロジェクトを進行していきたいですね。

また、特に最後の話は、何かとすぐ不安になりがちな自分にとって勇気になるというか、一歩自信をもってやってみよう!と背中を押してくれるような考え方で、今回お話を聞くことができてよかったなと思います。


いかがだったでしょうか?

この記事を読んで、自分もここ悩みがち…、自分はこうしているなぁ…など少しでも共感したり、思ったことがあればぜひコメントに書き込んでいただけたら嬉しいです。

コンセントではデザイン分野が多岐にわたることもあり、キャリアを形成する上で新しい分野に挑戦する人が少なくありません。そして、その中には「最近UX/UIについて学び始めた」という人もいます。そんなUX/UI初学者に対して知見をひらいていこう!という取り組みが「知見聞いてみ隊」です。

引き続き「UX/UIデザイン」にまつわるテーマで第3回も開催・記事化する予定ですので、お楽しみに!

▼▼▼「ペルソナ」について話した第1回はこちらから▼▼▼



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