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井上さんと一緒に、「もったいない子育て」をやめる旅に出た#1

(1)「自由になること」の本質を体得した高校1年生のAくんの話
「うちの子もそろそろ習い事をさせたほうがいいかしら」

 
「不安を持っていると自由になれない」

 Aくんが言いました。Aくんは、高校1年生です。
 
 Aくんはこの夏、ヨーロッパを訪れ、短期の留学体験プログラムに参加してきました。その経験をCo-musubiの小学生、中学生たちにシェアしてくれるZoomミーティングが先日、開かれました。

 Aくんは、スライドも準備して、自身の経験を分かりやすく伝えてくれます。渡欧中に使った主な言語は英語。Aくんは自分が英語が得意ではないと思っており、行く前はとても不安だったそう。でも、「不安がったり、恐れていたりしたら、いろいろな経験ができない。つまり、自由になれない、と感じた」とAくん。さらに「僕がここで言っている自由とは、自分の将来の可能性を広げるという意味での自由です」と説明してくれました。そうやって自分を俯瞰することができたAくんは、不安を乗り越えられたと言います。

 Aくんの発言は、本質をついています。

 話は変わりますが、私自身、子育てする中で悩んだり、しんどいなと感じたりする瞬間は数え切れないくらいありました。そして、ライターとして、子育て中の人々を取材する中で、「子育てで悩んでいる」「子育てはしんどい」という声をたくさん聞いてきました。

 例えばこんな悩みです。「ほかの子はこんなことができるようになったのに、うちの子はできていない、大丈夫かしら……」「周囲の子は習い事や塾に通い始めている。うちもそろそろ何かさせたほうがいいのでは……」

 こうした悩みをつきつめると、たいていは「親の不安」にたどり着きます。「わが子が〇歳の時期は一度しかなく、過ぎてしまってから後悔しても遅い」と想像できるからこそ、親はみんな焦ります。取り返しのつかないことになってはいけない、と不安になるからこそ、そうならないように、真剣に悩むのだと思います。

 どの親も子どもの幸せを願っています。でもその幸せの形が分からないからまた不安になります。不安だからこそ、目に見えたり、数値化できたりする、「確かなもの」を最短距離でほしがってしまう。親のニーズが生まれる瞬間です。

 一生懸命子育てしているのに、不安に囚われていては、しんどい子育てが続いてしまいます。もしこの不安を取り除くことができれば、もっと子育ては楽になるはずです。そして、不安を手放せば、自由になり、可能性は広がるはずです。

 Aくんの言う通り、不安に苛まされている限り、自由にはなれません。

 Aくんは、小3から中3までCo-musubiに参加していました。井上さんが主宰するCo-musubiはリベラルアーツのエッセンスを取り入れたオンラインのラーニングコミュニティです。「リベラルアーツ」というと「教養」と捉えられがちですが、「自分自身が自由になるための技術」だと井上さんは説明します。
 
 井上さんによると、もともとAくんは無口で、豊かな観察力を持ち、昆虫が大好きな小学生だったと言います。高校生になり、自分のコンフォートゾーンを出て新たな挑戦をして、持ち前の鋭い観察力を生かし、自分の周囲を俯瞰し、本質的なことに気づき、それを言語化し、ほかの小中学生や保護者にオンラインミーティングでシェアできるまでに至りました。

 Aくんはすでに「自由になるための技術」を体得しています。

 この瞬間を目にした私は驚きました。このスキルは、日本の教育ではこれまであまり重視されてこなかったかもしれません。でも生きるためにとても大切な力です。

 「親の不安を起点にした子育てはしないほうがいい」と井上さんは繰り返し言います。その大きな理由は2つあります。

(次回#2に続く)



書き手:小林浩子(ライター・編集者/小学生の親)

新聞記者、雑誌編集者などを経て、フリーランスのライター・編集者に。 自分の子育てをきっかけに、「学び」について探究する日々を重ねる。現在、米国在住。



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