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エルメスとユニクロ
エルメスとユニクロを比較すると、現代ビジネスの基本原理がわかる。
こう書くと、言い過ぎだろうか。
フランス、エルメス・インターナショナルの2023年度決算は、過去最高の業績だった。
パリの馬具工房から始まったエルメスがつくるのは、職人が伝統技法で仕上げた超高級ハンドバッグ。
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その代表「バーキン」は、世界中の富裕層がステータスシンボルとして持つ。年々、値上がりを続けており、なかには10万ドル(約1500万円)を超える物もあるほどの超高級品である。
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「なぜ私たちはバーキンを買えないのか」と怒る人たちがいる。その背景に、"転売ヤー"の流行があることは、前回、紹介した通りだ。
職人の手作りは大量生産に向かず、商品の供給が限られる。日本の職人が欧州高級ブランドに製品を提供してきたことは広く知られているが、その職人の人口は減り続けている。高級ブランド品の希少性は増すばかりだろう。
日本のユニクロは真逆である。
ユニクロの服は、工場による大量生産品。日常において何年も着れるほど高品質で機能的、さらにリーズナブルであることで愛されている。
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そのユニクロが、フランスやイタリアなど高級ブランド発祥の地、欧州で急速に売り上げを伸ばしている。
欧州事業は「コロナ前と比較して、既存店売上高は+60%の成長」と、ファーストリテイリンググループのなかでもダントツの成長率を誇る。
その理由がおもしろい。
ある英国人女性のTikTok投稿をきっかけに、"ラウンドミニショルダーバッグ"が大ヒットしたことが欧州ユニクロの好調な売り上げを牽引したという。その投稿がこちらだ。
ビスケット、財布、カギ、スマートフォンの充電器、ヘッドホン、カメラ、香水……次々とモノを取り出す、たった43秒の短い動画。
これを見た人が、次々とこれを真似て「コンパクトなバッグに、こんなにモノが入る!」とショート動画をアップロードした。
TikTokは一度トレンドになれば、関連動画の再生回数が伸びやすいため、ミーム化しやすい。以前のポッドキャストでも、そんな話をした。
さて、本題はここからだ。
このユニクロの"ラウンドミニショルダーバッグ"は、いつしか「ミレニアル・バーキン(Millennial Birkin)」と呼ばれるようになった。
エルメスのバーキンは"希少"であり、ユニクロのバーキンは"潤沢(コモディティ)"である。
エルメスのバーキンは"抽象的な意味(富裕層の象徴)"であり、ユニクロのバーキンは"具体的な機能(役に立つ)"である。
「コモデティは売れない」
「機能では差別化できない」
本当だろうか?
「TikTokでミームになったから、売れただけ。一過性のことだろう」という指摘は、ある面で正しい。
だが、ユニクロも流行が去りゆくのを待つのではなく、このアイテムを定番化するために、さまざまな試みを行っている。
「(ラウンドミニショルダーバッグの)さらなる拡販に向けた試みはすでに始まっている。新色のパステルカラーを投入し、かぎ針編みやコーデュロイ、フェイクレザーなどの生地も追加した。フィンランドのブランドマリメッコとのコラボレーションも果たした。長く愛されるには新しいアイデアを出し続けることが必要だ。地域色を押し出すこともブランド戦略の一つだという。例えばスコットランドの首都であるエディンバラにあるユニクロの店舗では、ウイスキーに次ぐ国民的飲料と言われる「アイアンブルー(Irn-Bru)」の缶が刺しゅうされたタイプを販売する」
ユニクロは、ラウンドミニショルダーバッグの上に、マリメッコやアイアンブルーを乗せる。
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言い換える。
"潤沢"の上に"希少"を、"具体的な機能"の上に"抽象的な意味"を乗せている。
ユニクロのTシャツ「UT」も、また同じ構造だろう。Tシャツだけではなく、世界のファッションブランドとコラボできるのも、まったく同じだ。
ある製品が「機能」と「意味」の2つの層で成り立っているのだとしたら、この2つのレイヤーは分離できる。
これが、現代ビジネスの基本原理だ。
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2024年3月に、1000億円を調達して話題となったフードデリバリーのスタートアップ「ワンダー(Wonder)」は、食のユニクロである。
驚くべきことに、ワンダーはハンバーガーからイタリアン、インド料理からメキシコ料理まで、人気シェフが考案したあらゆる料理を、1つの店舗でワンストップで提供する。
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人気シェフは希少である。富裕層のプライベートシェフのほうが稼ぎがいいと、出張シェフが増加していることもあり、その希少性は増すばかりだろう。
最後に、もう一度だけ繰り返す。
"潤沢"の上に"希少"を、"具体的な機能"の上に"抽象的な意味"を乗せる。
これが、現代ビジネスの基本原理だ。
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