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【和紙】『因州和紙展2022〜伝統を未来へ〜』で、伝統工芸士さんにお話を聞いてきました!

 2022年12月12日〜17日まで日本橋・小津和紙で開催されていた『因州和紙展2022〜伝統を未来へ〜』に行ってきました。

 会場では因州和紙そのものや作家さんとのコラボ作品が鑑賞できた他、因州和紙職人の方々に非常に興味深いお話を聞けました。

🌟この記事を読んでわかること
 ・因州和紙展の概要
 ・因州和紙職人の方々の想い

『因州和紙展2022〜伝統を未来へ〜』はこんな感じでした

因州和紙と、それを使った作家のコラボアートを堪能

小津和紙さんも和紙製品や展示、紙漉き体験ができてとてもおススメです。

 因州和紙は、因幡国(現在の鳥取)で作られてきた和紙です。その歴史は古く、1300年前にまで遡るのだそう。

 非常に高品質で墨持ちがよく、その書き心地は『因州筆きれず』と呼ばれるほど。民藝運動家の柳宗悦をして「使用者を欺かない」と言わしめました。

 1975年に『国の伝統的工芸品』に指定され、近年では首相官邸の壁紙に使用されたり、浅草寺の雷門の大提灯に使用されたことで注目を浴びた因州和紙。

 そんな因州和紙の実物と、各分野で活躍されるアーティストとのコラボ作品が展示されたのが、『因州和紙展2022〜伝統を未来へ〜』(日本橋・小津和紙にて開催)です。

復元された青谷弥生人・青谷上寺朗氏の熱視線を受けながら入場。

 作品は実に様々。動物や風景を描いた絵画もあれば、色彩が思考を誘うような抽象画、中には故・アントニオ猪木氏を悼む巨大なボールペン画など、とても見応えがありました。

様々な和紙で試し書きできちゃう!

 他にも、因州和紙の実物が展示されていたり、また実際に筆と墨を使って和紙に試し書きさせて頂くこともできました!

習字の授業以来久しぶりに筆で書いたけど、先生に怒られない習字は楽しいですね!

 一口に和紙といえども、原材料や製造方法で出来上がりの風合いが全く異なってくるのが、非常に興味深かったです。

 中でも一番印象的だったのは、生姜の皮を使った和紙! 普通のクラフト紙にはないちょっとドライな色味が、生姜を彷彿とさせます。

「他にも、トマトの葉っぱとか、そこら辺に生えてる草でも紙にできますよ。楮に絡めてやって繊維を補えば、なんでも和紙になります」

 そうお話をしてくださったのは、今回の展示を催された因州和紙職人の長谷川憲人さん。

「なんでも質問してください」というご厚意に甘えて、さらに詳しくお話を伺うことができました。

因州和紙職人の方々にお話を伺いました

左が今回メインでお話を伺った因州和紙職人・長谷川憲人さん。右があおや和紙工房前館長の山田正年さん。お二人とも展示を観に来るお客さんへ、親切かつ朗らかに対応されていました。

展示をやるきっかけになったのは、和紙の“更なる広がり”を求めて

 長谷川さんは4年前に東京で別の方と合同展を開催し、またやろうと新しい企画を考えていたそうです。

 しかし、その最中でコロナが発生。イベントへの風当たりが強くなる中でも準備を進めていましたが、徐々に考えが変わってきました。

 同じように二人だけでやるのでは広がりがないーーもっと色んな発表をしていく場にできないだろうか?

 そんな折に迎えた、長谷川さんが会長を務める『因州青谷手漉き和紙保存会』の成果発表会。そこで因州和紙と様々な分野の作家さんとのコラボ作品を見て、今回の展示に至ったという事です。

 そこには、因州和紙を未来へ繋いでいくための、長谷川さんのある思いがありました。

和紙の持つ両面性ーー文化としての和紙、産業としての和紙

 近来、伝統工芸として再び脚光を浴びつつある和紙ですが、元々は産業生産品。商売として成立するためには、顧客からの様々な要求をクリアしなければなりません。

 加えて、紙漉きは冬の厳しい寒さの中行われる過酷な作業。重労働だけど低賃金、でも他に仕事の選択肢がない……そうした現実がありました。そして、止むを得ず紙漉きから離れてしまった人々も。

 その一つの要因として、長谷川さんはこう語られました。

「別の和紙の産地に出かけて、田んぼ道を歩いていたときに昔紙漉きに携わっていたご老人と行きあって話したことがあります。

 寂しそうに笑って、『私らのしてたことは、ありゃあ、なんだったんだろうね』って言ってね。

 自分のやった仕事の価値が十分に感じられなくて、辛くて辞めてしまったという話はよく聞きますね

かつての和紙工場。右手が手漉き場、左手が製造ライン。和紙の両面性を、静かに今に伝える一枚。

 昨今、和紙を取り巻く状況は昔と形を変えつつも、タフなものです。後継者不足や洋紙に席巻されたシェア、材料を輸入しなければならない現実ーー

 それでも、長谷川さんは決して下を向いてはいませんでした。

何よりまず、職人が和紙の価値を実感することが大事

「和紙の伝統を消さないために、その価値を知って誇りを持つことが何より大事です。そのためには、作家さんとの対話が何より重要だと考えています」

 どのように和紙が使われているのか、実際に使っている人たちとの交流の中で実感する。それこそが、伝統を継承していくための大切な基盤だと長谷川さんは仰いました。

 その一環として今回のような展示をしたり、より大きなコラボレーションも実施していこうと、鋭意活動されています。

「今回もね、展示の構成は参加している作家さんにお願いしたんだけど……会場の中央に和紙をドーンと置いてくれましてね。とても嬉しかったんですよ、和紙を大事に想ってくれていることがわかって」

展示の空間構成をされたのは参加者の一人、日本画家・藤田飛鳥さん。中央にドンと据えられた配置に、「主役は和紙」という力強いメッセージを感じます。

 そう笑う長谷川さんの姿は、作家と和紙職人の幸せな邂逅を体現していました。

素材を作ること、そこに敬意を持つのが大事。最近は輸入に頼っていたけれど、地元を育てた原材料で100%因州産和紙を実現しました。『決して使用者を欺かない』という柳宗悦さんの言葉に恥ずかしくないものを作っていきたい」

和紙の秘めた可能性を、未来へ繋げるために

あるいは、「単なる素材」としての和紙

 また、会場にいらした別の和紙職人、中原寛治さん(株式会社中原商店)は別の視点を持っていました。

「僕は逆に、和紙は単なる素材として捉えています。可能性を狭めたくなくて

 中原さんはアーティストとのコラボでも柔軟に対応し、様々な要求に応えてきました。素材を提供するだけでなく、アイデアを広げるような提案もされています。

こちらはアーティストが墨で描いた観音様を、透かしの技法で中原さんが漉いたもの。日にかざすとこちらまでほっこり。

「ある時なんか、『鳥取砂丘を和紙で作れない?』と言われて(笑)。試行錯誤して完成させた時は、達成感がありましたね」

 長谷川さんの視点も、中原さんの視点も、それぞれとても大切なものです。同じように、和紙作りに携わる人の分だけ、和紙に対する想いがあるのでしょう。

 そのすべてが、未来に和紙を伝えていくとても大切なファクターなのだと強く感じました。

作り手と同じように、使う側も様々な道を見つけていきたい

 和紙が日用品としてのポジションを追われた昨今、需要をいかに喚起し、技術を継承していくかーー現場の職人の方々の果てしない尽力を思うと、ただ胸がいっぱいになります。

全紙サイズの和紙を、長谷川さんは全盛期で一日300枚、現在では200枚ほど漉けるのだそう。熟練の技術にただ敬服……!

 その中で、使う側である自分ができるのは、様々な用途を実践し、それを発信していくことなのだと、今回改めて考えさせられました。

 アーティストのように和紙のポテンシャルを120%引き出す……のはなかなか難しいですが、日常の中に和紙がいてくれたら嬉しい場面を、ちょっとずつでも増やしていきたいと思います。

 だって和紙って、触ってるだけでこんなにも楽しい!
 読んでくださった皆様の毎日にも、ぜひ和紙を添えてみてくださいね。

🔸長谷川さんが会長を務める因州青谷手すき和紙保存会についてはこちら

🔸因州和紙の製品や和紙漉き体験ができる施設『かみんぐさじ』についてはこちら

🔸アーティストとのコラボも盛んな中原さんの経営される(株)中原商店についてはこちら

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