第6回②緑のある環境と美味しく安心な栗づくり 本橋総一郎さん、真澄さん -栗のイガと落ち葉堆肥
西荻窪で栗園を営んでいる本橋さん。1回目では、栗のイガと落ち葉を使った堆肥づくりについてお聞きしましたが、今回は、本橋栗園さんの栗づくり、年2回開催している青空市について、そして江戸時代から続く農家としての思いについてお聞きしました。
本橋さんの栗づくり
現在、本橋さんが栽培している栗は、「筑波」や「銀寄(ぎんよせ)」、「国見」など7種類。すべて無農薬で育てている。栗の収穫時期である8月末から11月上旬には、早朝から栗を拾う日々が続く。日の出とともに、土が温まり栗に熱が伝わることで、腐る原因にもなるからだという。
収穫、販売を終えると、畑を覆った大量の落ち葉を掃き集める。年が明けると、栗の木の状態を見ながらの剪定作業、春先にかけては、イガの穴掘りや穴埋め、苗木の植え付け、夏は草刈りと一年を通して栗園の手入れをかかさない。
栗園を通した新たな取り組み 青空市
江戸時代から、西荻窪の地で代々、農家を続けてきた本橋家。父から栗の栽培を引き継いだ本橋さんは、栗の販売を通じて、新たに街の人とつながる取り組みをはじめる。
「親父の代では家の軒先で栗を販売するだけだったのを、僕なりにやるんだったらどうしようかなって考えたんです。美味しいのはもちろん、安心して食べられる栗をご近所の人に届けたい。栗園を通じて、地域の人が楽しくなる場を届けたい。それには、僕だけじゃなくて、僕たちまわりの人と一緒に作り上げたいねって。そこから青空市が生まれたんです」。
1回目冒頭に述べた青空市は、本橋さんのそんな思いが起点となってはじめったイベントだ。本橋さんが共鳴するお店や作り手さんに、真澄さんが直接交渉し、出店を依頼。産地直送の新鮮野菜や自家焙煎の珈琲店、草木染めの作家さんなど、少しずつ出店者さんを増やしていった。その青空市もはや10年を迎える。
都市農家のとして緑のある環境づくりを
西荻窪の地で野菜、そして栗を育て続ける本橋さんには、東京で農業を続ける「都市農家」としての思いがある。「この畑の景色はボクが生まれた時とほぼかわらないんです。この先、栗園の風景や緑のある環境をつくり続けることが、先祖様から受け継いできた農家としての役割なのかなって」。
本橋さんの栗園は、いつ訪れてもきれいに草刈りがされ、清々しい空気が流れている。すくすくと元気に育つ栗の木を眺めながら、深呼吸したくなる気持ちのいい空間だ。もし私が近所に住んでいたら、少し遠回りをしてでもきっと栗園の道を歩くだろう。
取材の途中、ちいさな女の子とお母さんが栗園に面した通りをお散歩していた。本橋さんご夫婦の仕事を眺めながら、「こうして栗の木をお世話しているから、美味しい栗ができるんだよ」と女の子に語りかけていた。
本橋さんが描く「畑を通して、地域の皆さんの原風景のひとつになってくれたら」という思いは、着実に実を結んでいる。
■編集後記
9月末、栗園を訪れると栗がたわわに実っていた。本橋さんが丹精込めて作る栗は評判を呼び、販売日には遠方から買いに訪れるほどに。しかし「地元の方にこそ栗を味わってほしい」という思いから、現在、栗の販売については、あえて告知をせず不定期で販売している。
栗林を通して、緑のある環境づくりや街の人々と繋がる本橋さんの取り組みは、その土地に代々住み続けてきた農家としての思いであり、地域への深い愛情だった。開発の波で変わりゆく東京の街の中で、本橋さんの営みは、緑豊かな風景とともに人々を和ませ、街の空気として漂い人々を包んでいる。穏やかな気持ちになれる街。それは街の魅力にも繋がっている。