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第6回①緑のある環境と美味しく安心な栗づくり 本橋総一郎さん、真澄さん -栗のイガと落ち葉堆肥

西荻の秋の風物詩

友人の本橋総一郎さん、真澄さんは、西荻窪で栗園を営んでいる。本橋さんご夫婦が作る栗は、それはそれは美味しくて、販売日には行列ができるほどの人気だ。いまやご近所の人々にとって、本橋さんの栗は秋の風物詩になっている。
本橋さんとのご縁は、ご自宅の庭で春と秋に開催される「青空市」にさかのぼる。木漏れ日のさす緑豊かな庭に、古来種の野菜やコーヒー、焼き菓子やハーブなどのお店が出店し、友人や近隣の人たちが集う和やかな空間だ。その「青空市」で、「ダンボールコンポストの講座をしてもらえませんか?」と真澄さんから依頼されたことがきっかけだった。

積み上げられたイガの山! 

コンポスト講座に向かう途中に本橋さんの栗園があった。畑には、収穫を終えたばかりの栗のイガがこんもりと集められている。丸っこいイガイガが山のように積み重なって可愛らしい。まるで現代アートのようだ(笑)。
本橋さんによると、集めたイガは、捨てたり焼却したりせずに、木のそばに穴を掘り埋めているという。収穫した後のイガや落ち葉を肥料として土に還し、栄養とする。まさに循環の輪だ! イガの穴埋め作業、真っ只中の3月初旬、見学に伺った。

栗のイガと落ち葉を土に還す


まだ寒さも残る3月に、ご自宅の裏手にある栗園に伺うと、総一郎さんがTシャツ姿で出迎えてくれた。大きなシャベルで、木のそばに穴をいくつも掘っている。驚いたのは、その穴の深さ。総一郎さんの膝小僧くらいまで、50㎝くらいだろうか。長さも1mくらいある。


シャベルで手掘りして穴を掘る本橋さん。栗の木のまわりには黒土の山


「栗の木1本に対して、毎年ひとつ穴を掘っています。穴は東西南北、毎年、掘る場所をかえていて、今年は木の南側。4年に1度のペースですね」。なんと、穴はすべて手掘り。
「ユンボを使うこともできるんだけど、やれるうちは自分で掘ろうかなって! 1日3穴が限界ですけど」。総一郎さんは、汗を拭きながらさわやかに笑った。

秋の収穫期にためていた栗と落ち葉の山

総一郎さんが掘った大きな穴に栗のイガと落ち葉を敷き詰めるのは真澄さんの仕事。秋から庭の隅っこに溜めておいた栗のイガをシャベルで一輪車にのせて、穴に投入。イガの上には、落ち葉、そして土を重ね3~4層のミルフィーユ状にしていく。
「穴埋めの作業ってとっても好きなんです。子どもの頃の雪遊びを思い出すというか。無になれるっていうのかな」。長靴でイガをふみふみする真澄さん、とても楽しそうだ。では、どんな経緯で栗のイガコンポストははじまったのだろうか?

江戸時代から続く農家としての思い

「うちは、もともと江戸の元禄時代(1680〜1709年)から続く農家で、祖父の代までは野菜を育ていました。栗の栽培は親父の代からなんです。栗のイガや落ち葉は、今の時代、燃やせなくなってしまって。だったら、土に還す方が自然じゃないかなって」。はじめは、そんな単純な思いから始まったという。
「手堀りは手間はかかるけれど、こうして体を使って穴を掘っていると、畑を観察することができるし、畑とじっくり向き合っていけるんです」。
とはいえ、栗の木は全部で64本。穴掘りの作業は、1月末から3月にかけて行われる。想像するだけでもかなりの重労働だ。
「はっきり言って大変です! 腰も痛くなるし(笑)。でもね、土を掘ってると、この土地で代々、野菜を育ててきたご先祖さまと繋がったりしてるのかなって、ふと思ったりして。ロマンがあるなーって思うんです」。

無農薬、無肥料の栗栽培

こうして土に戻された落ち葉やイガは、土の中の微生物の力でゆっくりと分解され、栄養となっていく。
「うちは、農薬や有機肥料を使っていません。そのぶん、畑で取れた落ち葉やイガを土に還元することで、自然の生態系を循環させたいって思っているんです」。

草木染めならではのやさしい色合い

本橋さんの家の軒先では、栗のイガで染めた暖簾がはためいていた。この暖簾をはじめ、栗のイガや小枝を染料に使ったり、幹の部分は器の材料や薪に使ったりと、畑で生まれた資源を有効活用している。

落ち葉やイガ、そして小枝や幹など、栗の木から生まれた資源を土に還元したり、使い切る工夫をしている本橋さんの栗づくり。次回は、本橋さんがはじめた新たな取り組み、都市農家としての思いについて綴ります。

第6回②緑のある環境と美味しく安心な栗づくり 本橋総一郎さん、真澄さん -栗のイガと落ち葉堆肥