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(6)非営利組織と外部の人との間に起こるコンプライアンス問題とは?

前回の記事では、非営利組織におけるコンプライアンスの難しさを説明する準備として、「非営利組織と営利組織との違い」について説明しました。

今回からいよいよ、非営利組織だからこそ起きる「コンプライアンスの難しさ」について、より詳しく解説します。

これまでも、「コンプライアンスの問題は、『人』によって発生する」ことをお伝えしてきました。
この「人」について、非営利組織は営利組織と比べると、「善意の支援を含め、さまざまな立場から関わる人がいる」という点が、非営利組織におけるコンプライアンスをより複雑に、難しくしています。

それではさっそく、具体的にみていきましょう。

非営利組織の外の人とコンプライアンス

組織は通常、組織内部だけでなく、外部の人とも、様々な法律関係を持ちます。これはもちろん、非営利組織においても同様です。

まずは、営利企業と同じように、取引先や事業のお客様との関係があります。次に、営利企業と異なる点として、非営利組織を支援する企業や組織(支援元)の存在を挙げることができます。
さらには、「受益者」と呼ばれる、非営利組織の支援先の人たちがいます(たとえば障害者支援施設であれば、「施設に在籍する、障がいを持つ方」が受益者にあたります)。

これらの人たちとの関係が、非営利組織特有とも言える、組織外部との法律関係です。

コンプライアンスの問題は、必ず2人以上の登場人物の間で発生しますから、相手が変わると、起こる問題の種類が変わります。

まず最初に挙げた取引先や事業のお客様との間で起きるコンプライアンスの問題は、同じ事業を営む営利企業との間で起きる問題と変わりません。

「同じ事業を営む営利企業」とは、営利企業だけど事業内容は非営利組織と同じ、という会社を指します。
たとえば最近では、株式会社が経営する認可保育所などが増えています。
株式会社なので営利企業ですが、保育の内容や、子どもや保護者との関係は、公立(自治体立)の保育所や社会福祉法人の保育所と大きく変わるわけではありません。

一方で、非営利組織特有の外部とのつながりである、支援元や支援先の人と非営利組織の間で起きる問題は、「同じ事業を営む営利企業」がない為、非営利組織におけるコンプライアンスの難しさがより表れやすくなります。

たとえば、特定の環境保護活動などは、それ自体を事業とする株式会社はありません。株式会社が登場する場合も、あくまで「非営利組織が活動し、理念に賛同した営利企業が支援する」という形が多いでしょう。

特に、非営利組織と支援元や支援先の人との間に起きるコンプライアンスの問題は、そもそも両者の目的がお金儲けではなく、それゆえに「互いの関係から得たい利害が一致していない」ことで、解決がとても難しくなるのです。

事例:支援元と非営利組織のコンプライアンス

具体的な事例で見ていきましょう。

特定非営利活動法人ODAKU(仮名)は、福祉施設を運営しています。
Company株式会社(仮名)は、この特定非営利活動法人に対し、通所者のための研修プログラムを無償で提供することを約束しました。そのため、この特定非営利活動法人は、通所者(受益者)に対し、研修への参加者を募り、研修に必要なパソコンも購入し、準備を進めました
しかし、Company株式会社(仮名)は、この特定非営利活動法人で、職員が通所者の財布からキャッシュカードを盗み出し、現金を引き出す事件が起きたことを理由に、研修の実施前日に、一方的に研修の実施を取りやめることを通知しました。

支援元は、この非営利組織の事業に魅力を感じ、この特定非営利活動法人に対して研修プログラムを提供することが自身の会社の価値向上につながると判断したから、無償で提供することを約束したのです。

ですから、「職員による事件が起きた=この非営利組織を支援することは会社の価値向上につながらない=支援を取りやめることに決めた」というのは、営利企業である株式会社としては、当然の経営判断に見えるかもしれません。
 
一方、この非営利組織からすれば、職員による事件が起きたとはいえ、研修に必要なパソコンを購入して備えていたにもかかわらず、研修の実施前日に一方的に研修の実施を取りやめることを通知するなんてあまりにひどいと思うでしょうし、なんら非のない通所者にとっても、突然の研修中止の決定は酷でしょう。

さて、このような場合、どうしたらいいでしょうか。

もしこれが営利企業と取引先の関係であれば、そもそも有償でしょうし、両者の間で業務委託契約書などを交わして、どういう場合に契約を解除等できるか、具体的に定めているはずです。
つまり、約定に反しない場合、たとえ職員による事件が起きたとしても一方的に解除することはできない、ということになるでしょう。

しかし、非営利組織と支援元の関係は、特に事例のように無償提供の場合、契約書も交わしておらず、結果として、法的拘束力を認める約束(契約)とまではいえない、単なる口約束レベルとなりがちです。したがって今回のような場合、非営利組織が泣き寝入りすることになるでしょう。

これが非営利組織におけるコンプライアンスの難しさを表す典型的な場面であり、営利企業と取引先との関係では生じ得ない、非営利組織だからこそ起こり得るトラブルです。

両者は、互いの関係に求める利害が違います。
非営利組織からすると「営利企業から無償で技術を提供してもらえるだけの、組織の存在意義が認められると同時に、受益者に低コストで利益を与えられる」ことです。
一方、支援元からすると「価値ある非営利組織を無償で支援することを通して会社の価値を高めること」です。
この重なる部分で、両者はつながりをもっていました。
それゆえに今回のようなトラブルが起こり得ます。

よって、お互いの共通認識をすりあわせが必要です。
こういうケースに備えて、非営利組織と支援元の間で交わされる無償の約束こそ、契約書を作るべきでしょう。

事例:支援先と非営利組織のコンプライアンス

次に、受益者(支援先)との間で生じうるコンプライアンス問題の事例を紹介します。

特定非営利活動法人ODAKU(仮名)は、福祉施設を運営しています。
この特定非営利活動法人の職員Bは、通所者(受益者)Uに対し、福祉施設において、繰り返し「そんなことでは一般社会でやっていけないよ。」とたしなめました。
通所者Uは、職員Bから罵倒されたと受けとめ、通所するのが怖くなり、この法人の第三者委員に対し、被害を相談しました。

学校であれば、アカデミックハラスメント等の可能性を検討すべき場面です。しかし、ODAKU(仮名)の運営する福祉施設における職員と通所者との関係は、まだ社会に出たことがない子どもが通う学校や、子どもがお客様である学習塾での関係とはまた違います。
たとえば、福祉施設の特徴や目的(たとえば、就労移行支援なのか継続支援なのか)や大人である受益者の特性、通所期間なども考慮しなくてはなりません。

 いずれにしても、指導の必要性・相当性が問題になる場面(いわゆるハラスメントの該当性を検討する場面)ではありますが、非営利組織におけるコンプライアンスの難しさを表す典型的な場面であるとも言えます。

これも、金銭のやり取りが生じるお客様を相手にする営利企業においては生じにくい、非営利組織ならではのコンプライアンス問題だと言えるでしょう。

まとめ

このように、非営利組織では営利組織と比べ、お金を稼ぐことを目的としていない登場人物が多く関わるため、それゆえの新しいタイプのトラブルが登場するわけです。

ここまで、非営利組織の外の人との関係に目を向けてみましたが、実は内部にもまだまだ難しい人たちが存在するのです。
次回は、非営利組織の中の人にも目を向けてみましょう。お楽しみに。


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