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(5)そもそも非営利組織とは?営利組織との違いを解説。利益はむしろ出すべき!

組織におけるコンプライアンスを説明するにあたり、これまでの記事でも、私が力を注いでいる「非営利組織」を主な事例として挙げてきました。

非営利組織だからといってコンプライアンスの意味が変わることはありません。しかし「コンプライアンスに対する認知」は、営利組織よりもどうしても難しい部分があるのが非営利組織です。

たとえば以前の記事で書いた、熱心な職員の善意による行動が、組織の「使用者責任」として問題になるかもしれない…という例などが、非営利組織だからこそ起きやすいコンプライアンス問題です。

次回以降の記事で非営利組織におけるコンプライアンスの難しさをさらに掘り下げるにあたり、今回は、そもそも非営利組織とは何?営利組織と何が違うの?という点をご説明します。

特に"非営利"というからには「お金を儲けちゃいけない!」という誤解をしている方がたくさんいますが、実は非営利組織こそ利益が大切なのです。
是非この機会に、正しく理解してみましょう。

営利企業は利益を分配する組織

営利企業は、「利」益を「営」む「業」を「企」てる、と書きます。その字の通り、営利企業とは、「営利事業を営むことを目的とする法人」のことをいいます(民法第33条第2項)。

会社とは、「対外的な経済活動で利益を得て、得た利益を構成員に分配することを目的とする法人」です(『会社法・第7版』・22頁。江頭憲治郎著・有斐閣刊・2017年)。この「会社」と「営利企業」はほとんど同じ意味を指します。

営利企業の典型は株式会社

株式会社の株主は、「剰余金の配当を受ける権利」又は「残余財産の分配を受ける権利」を必ず持っています(会社法105条第2項)。株式会社の構成員である株主は、会社の株を買う=出資する見返りとして利益の分配を受ける権利がありますし、会社も利益を分配することを目的としています。

つまり、営利企業の定義である「営利事業を営むことを目的」とは、「対外的な経済活動で利益を得て、得た利益を構成員に分配することを目的」とすることです。

誰にとっての営利・非営利?

つまり、営利/非営利とは、その組織にとっての利益ではなく、組織の構成員にとっての利益だということです。

組織の構成員に利益を配当・分配する場合を営利といい、組織の構成員に利益を配当・分配することを予定していない場合を非営利というのです。

<重要ポイント>「対外的な経済活動で利益を得ること=営利法人」「だから非営利組織は売上で利益を出してはいけない」と勘違いしている人はとても多いです。営利/非営利の違いは、「組織の利益を分配するか/しないか」です。ここはしっかり押さえましょう! 

ちなみに、株式会社で利益を受ける構成員とは「株主」のことで、「実際の労働者(従業員)」のことではありません。従業員は労働に対する報酬(給料)を得ていますが、自社株を持っていない限り利益に対する分配(株主配当)はもらえません、念のため。

非営利組織は利益を分配しない組織

営利組織の典型が株式会社であるのに対し、非営利組織の典型は一般社団法人です。

一般社団法人の社員(構成員)は、「剰余金の配当を受ける権利」も、「残余財産の分配を受ける権利」も、ありません。なしですよ、ということが、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(一般社団法人法)に定められています。

社員に剰余金又は残余財産の分配を受ける権利を与える旨の定款の定めは、その効力を有しない。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第11条第2項

ここでの「社員」とは、一般社団法人の従業員(労働者)のことではありません。一般社団法人法では、「社」団の構成「員」を「社員」と呼びます。わかりにくいので、正会員と言い換えている法人もあるでしょう。
一般社団法人の正会員は、よくあるのが〇〇学会会員のように、年会費を支払っている立場です。一方、一般社団法人の従業員は、株式会社の従業員同様、一般社団法人から、労働に対する報酬を受け取る立場です。

一般社団法人は非営利組織ですから、「営利事業を営むことを目的」にはしていません。
よって、構成員(社員)に対する「剰余金の配当を受ける権利」も、「残余財産の分配を受ける権利」も、定款で定めることができないわけです。

非営利組織こそ、利益が必要

非営利組織は、営利事業=構成員に利益を配当・分配しないという点が営利組織との違いだということはお分かりいただけたと思います。

それでも、「非営利企業は営利企業とは違うのだから、利益を出しちゃいけません」という人がいます。

…逆です。

むしろ「営利」法人である株式会社より、非営利組織(但し、公益法人以外)は、利益を出すべきなのです。

なぜかというと、株式会社は資本金(設立時の出資金等)がありますが、非営利組織にはありません。同じ事業を行い、ともに利益が出なかった場合、どちらが先に潰れるかを考えてみるとわかりますね。

ビジョン、ミッションを実現するには、継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)ならぬ継続組織の前提が必要不可欠です。

そのためにはとにかく利益。非営利組織ほど、利益や一定の内部留保にこだわりましょう。そのために、儲けることを心がけていただきたいと思います。

まとめ

営利組織/非営利組織の違いは、構成員に利益を分配するかどうか。
非営利組織でも利益は出して良いし、むしろ出した方が良い。

「情熱を持った仕事に対しては、お金のことを考えたくない」という方が一定割合でいるので、今回の記事では、あえてお金を儲けることにフォーカスをあててみました!

次回からはいよいよ、非営利組織特有のコンプライアンスの問題についてお話しします。お楽しみに。

おまけ|非営利組織の建付けと種類

非営利組織の典型は一般社団法人であり、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律で定められています。
この一般社団法人及び一般財団法人に関する法律は、実は会社法とほぼ同じ建付けになっています。

営利企業の典型が株式会社。
非営利組織の典型が一般社団法人。
両者の大きな違いは、営利性の有無だけです。

・株主→社員
・株主総会→社員総会
・取締役→理事
・取締役会→理事会
・代表取締役→代表理事
・監査役→監事

このような呼称の言い換えはありますが、ほぼ同じ感覚で理解して大丈夫です。
一般社団法人よりも株式会社の方が圧倒的に数が多いため、株式会社の経営に関わったことのある人はたくさんいます。
ですから、その株式会社にならって、組織のガバナンスをしていくのがわかりやすいので、こういう仕組みになっています。

非営利組織には、一般社団法人の他にもいろいろな種類があります。

・一般財団法人
・公益社団法人
・公益財団法人
・特定非営利活動法人(NPO法人)
・社会福祉法人
・学校法人
・宗教法人

これらの区別についてはまた機会があったらお話していこうと思います。最後までご覧いただきありがとうございました。

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