見出し画像

暮らしの選択を重ねて「生きる」をつくる〜陸前高田広田町Change Makers’ Collegeインタビュー〜

「日本でフォルケホイスコーレを作っているって聞いてCompathさんに興味を持ちました」と声をかけてくださる方に必ず伝えるようにしていることがあります。

ひとつめは、フォルケホイスコーレに感銘を受けて作りたい!からスタートしているけど、そのままコピーして導入しようとしているわけではなく、モデルにして日本の土壌に合った学び舎を作りたいと思っていること。
ふたつめは、Compathだけが唯一の場ではないこと。私たちよりも先にそのチャレンジをしている同志がいること。陸前高田の広田町でChange Makers’ Collegeという学び舎を作っていること。

いつかChange Makers’ College(以下CMC)での取り組みや大事にしている価値観をじっくりインタビューしてみたいなあと思っていたのですが、今回実現できました。

私Compath安井が、CMCの学長岡田勝太(おかちゃん)と山本晃平(こうへい)にインタビューする形式でお送りします。

画像1

(2020夏に陸前高田から東川町に遊びにきてくれました。車で16時間!)

Change Makers' Collegeについて
陸前高田市広田町で活動するNPO法人SETが提供する、4ヶ月の移住プログラム。2017年「生きることを学ぶ学校」としてスタート。運営を続けていく中でフォルケホイスコーレに出会う。2018年から連携を強化し、日本での講演活動やワークショップを共にし、昨年は日本初の共同プログラム「ワールドキャンプノーフュンス」を実施した。これまで約40名が参加した。
話し手1)岡田勝太
Change Makers’ Collegeメインファシリテーター。2011年の震災より、陸前高田市広田町に通い、2015年に大学卒業後移住。震災をきっかけに「本当に豊かに生きるとは?」をテーマに様々な活動を行う。2017年にCMCの立ち上げを行う。フォルケホイスコーレを始め、他のデンマーク教育機関とも共にプログラム開発を行なっている。現在1児の父。
話し手2)山本晃平
Change Makers’ Collegeメインファシリテーター。大学では学校の先生を目指していたが、先生を取り巻く環境に課題意識を持つ。人の成長に触れながら、自分自身ももっと面白い生き方をしたくてCMCに参画。参加者と共に暮らしながら学び合っている。玉ねぎを飴色にしながら語り合うのが趣味。小学校と中高の数学の免許を持っている。

CMCの原点は東日本大震災で感じた「生きる尊さ」と「生きる力」

ー改めて、Change Makers’ Collegeが作られた経緯から教えてもらってもいいですか?
 CMCを作るきっかけになったのは東日本大震災なんです。CMCは震災支援で立ち上がったNPO法人SETの一つの事業としてやっています。僕たちは震災ボランティアとして、たまたまCMCのキャンパスになる陸前高田市広田町に出会いました。ボランティアとして自分たちの無力感と対峙したり、地元の人と自分の生き方の話とかをする中で「人生は1度きりなんだ」「生きることは尊いことなんだ」ということを強く感じるようになったんです。そして、これが僕が震災ボランティアに行く前から漠然と感じていた、社会の閉塞感とか、自分に価値なんかないんじゃないかという想いの一つの答えのように思えたんです。生きていることだけで価値があることだし、人生は1度きりで尊いものなんだと。

それで、人生は1度きりなんだったら、たまにはちょっと立ち止まって自分の人生をどうしたいかとか、どういう生き方をしたいのかについてじっくり考えられる場所があればいいなと思ったんですね。それで、震災ボランティアで広田町に出会ってから7年後にCMCを立ち上げました。

ーすごい素敵だね。生き方を考えるという話があったけど、広田でどういう生き方を見つけたの? 
 僕は大学を卒業してから、仕事も何もないままで広田町に移住したんですけど、仕事がなくても楽しく生きていけたんです。地元の人とご飯食べたり、一緒に移住しているシェアメイトと生活しながら、月2~3万くらいの収入で暮らせた。もちろん、それは地元の人や周りの人のおかげではあるんですけど、そういう経験をしたときに「自分生きていけるじゃん」って思ったんですよね。
 僕は震災前は公務員志望だったくらい安定志向だったんです。お金がないと生きていけないし、不安定な収入はリスクだと思っていたんですよね。今でも安定志向です。でも、震災を経て、お金があっても大切な人は守れないんだと痛感したし、本当のリスクは自分に嘘をついて人生を送ることや、自分の想いに蓋をすることだと思ったんです。だから「生きる力=お金を稼ぐ力」ではない。生き方にも、生きる力にも、いろんな選択肢があることに気づきました。だから、人それぞれに生き方は模索したほうがいいと思うし、それを考える不安定な2~3年を過ごした方が人生は豊かになると思っています。

画像2

(奇跡の一本松。陸前高田市の震災復興のシンボルになっている)

基本的に自分がすべて選択する。自分でライフスタイルを選ぶことで自分の生き方も選ぶことができる。

―二人が思うCMCの魅力ってどんな感じだろう?
 CMCのキャンパスである陸前高田市広田町という土地はすごく魅力的だなと思います。広田町の暮らしが古民家にシェアハウスするという形で体験できることは魅力だと思います。

画像4

(広田町は岩手県最南端部に位置する人口約3000人の漁師町です)

―なるほど。広田町の暮らしで特徴的なことってどんな感じ?
 そうですね。広田町は震災の影響もあって、未だに空間的な余白もあるし、時間的な余白もちゃんとあるんです。つまり、本当に本当に何もないんですよ(笑)。コンビニも車で10分くらいかかるし、スーパーも20分くらいかかる。シェアハウスをする古民家も断熱材入ってないから寒いし、お風呂に追い炊き機能もない。本当に絶望するくらいないものだらけなんです(笑)。
 でも、それだけ何もないからこそ食べること、住む場所に対して、自分で選択することが出来るんですよね。

―選択することか。それはCMCの魅力とどう繋がってくるのかな?
 CMCが大事にしていることって、「生きる」とか「生き方を作る」ことなんです。都会にいると、無意識に選択させられている日々で、自分で選択する機会ってなかなかないと思うんです。でも、自分で選択するということが「生きる」ということにすごく深くつながってくると思うんです。何を食べるのか、どこに住むのか、何をするのか、それもすべてあなたが選べるということを知るってすごく大事だと思うんですよね。だから、僕は常に授業でも生活でも「それはあなたがちゃんと選択したものなの?」と確認するようにはしています。

ーそれすごいいいね。それは広田町に時間的にも空間的にも余白があるからできるんだろうね。
 そうですね。最初はみんな「あれがないこれがない!」って絶望するんですけど(笑)、ある時から、自分で選択肢を見つけて暮らし方を作っていくようになるんですよ。例えば、古民家には断熱材がないっていう話をしましたけど、5期生の子たちも最初は「家が寒い!」としか言わなかったのが、ある時から家のスキマにスキマテープを貼りだしたり、窓にプチプチを貼ったりしてなんとか工夫し始めるんです。あと、今日食材が少ないからご飯作れないってなったら、ご近所さんのお手伝いしてご飯食べさせてもらうとか(笑)。そうやって自分で選択肢を作って、生き方を作っていくんですよね。それってすごくクリエイティブなことだし、豊かだなと思うんです。

画像3

(ついに自分で家の床張りをしだすように笑)

CMCを通して「人生は大変だけど素晴らしい」ことを表現したい

―二人はCMC5期生の卒業式で号泣したみたいだね(笑) その理由を聞かせてもらえますか?
 号泣したやつですか(笑)。あの時はみんなとの奇跡的な出会いにすごく感謝しましたね。みんなが広田町に来るまでの出会いもそうだし、広田町に来てからいろんな人に出会っているのも奇跡的なことじゃないですか。この瞬間もみんなが来てくれなかったら出来なかったことなので、本当に来てくれてありがとうとみんなに感謝しましたね。あとは、「人生は大変だけど、がんばれよ」ってすごく思いました。

―「人生は大変だけど頑張れよ」か。
 そう。これからの人生は自分がCMCで学んだこととか、自分が信じてきたものが揺らいでしまうことも起きると思います。上手くいかない方が多いかもしれない。それでも、この世界は楽しいし、美しいし、素晴らしいよって伝えたいと思いました。

―ちゃんと苦しいことも見た上でかけられる言葉だよね。おかちゃんとこうへいらしいね。最後に、CMCを通して表現したいこと、伝えたいことを教えていただけますか?
 そうですね。表現したいことはさっき5期生の子たちにもかけた「人生は大変だけど、楽しいよ」ということですかね。CMCに参加してくれる子たちは自分の将来に不安や違和感、もしくは絶望を抱いている人が多い。というか、そういうことを感じていなかったら、ここに来ないと思うんですね。でも、僕らはそこに対してちゃんと光を当てたいんです。その大変さも受け入れながら「それでも人生は大変だけど、楽しいよ」ってちゃんと伝えたいんですね。最初は参加者の子たちも「いや、そんなこと言ったって大変だよ!」って反発すると思うんですけど(笑)。そうやってぶつかっていくうちに、自分の中で理想と現実がちゃんと見えてきて、自分のなかで理想と現実のバランスが作られていく。そして、それが自分の中で「人生は大変だけど、楽しい」ということにつながってくると思うんです。だから、CMCはそういう人間味のある青臭い時間を表現したいと思っています。
 こんな哲学的なこと言ってますけど、僕たち基本的にわちゃわちゃ子どもみたいなんですよ(笑)、だからこんなシリアスなこと言ってますけど、基本的には楽しく面白いプログラムだと思います(笑)。

―(笑)。でも、それも含めて、CMCは震災の時からの想い、二人のあり方と場で大事にしたいことが一貫していて、とても素晴らしいなあと思いました!今日はありがとうございました!
 こちらこそ!ありがとうございました!

画像5

(先月の5期卒業生式の写真)

編集後記

今も昔も安定志向のおかちゃんがなぜ広田町にいて、なぜCMCをつくっているのか。おかちゃんは、広田町の経験で「安定」「豊かさ」の再定義をしたんですね。わたしたちは、なんとなく選択を重ねていく中で、大事な価値観の物差しを、他人や世の中の雰囲気に委ねてしまうのかもしれない。もしくは、ずっと同じ環境・同じコミュニティで過ごしていると、価値観の物差しが一つだけのように錯覚してしまうのかもしれない。

目まぐるしい世の中、長い人生。だけど、一度きりの人生だから豊かなものにしたいという気持ちは誰にでもあるはず。環境を変えて、出会う人を変えて、時間の過ごし方を変えて「自分だけにとっての豊かさ」を考える時間は必要だなあと思いました。

そして、こんな壮大なテーマを一人で悶々と考えると迷宮入りすることが多いので、広田町という土地の磁場、地域やフォルケの「学び」という触媒、「人生は大変だけれど素晴らしいよね」と考え続けているCMCの二人がいる場所で時間を過ごせることは、心から素敵な選択肢だと思いました。

私たちも早く広田町に行きたい!

<Change Makers’ College6期(4/25開校)募集中>
興味ある方はこちらまでご連絡してみてください〜!

(編集:外村 祐理子 / 学生 / フリーランスライター)
(インタビュアー:安井早紀 / Compath)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?