芒種;第25候・螳螂生(かまきりしょうず)
冷房が効かないので
窓を開けて車を走らせていると
どこからやってきたのか
蟷螂の子がフロントガラスを斜めに翔けていく
たった一匹
梅雨入り前の途方も無く広い空を眼下に
二つの鎌を立て
身を反らせて
三角まなこはみどりの粒で
あんなにも軽々とあらわれて
もう会えない
花を活ける仕事をしていると
稀に蟷螂の卵が付いている枝がある
捨てられないのでバルコニーなどに保管しておくと
たしかにちょうど今頃
孵化する
泡泡と湧いてくる彼らは
いくつかの塊が解けて細長くなって鎖のようにつらなる
いくべきところは知っているとでもいうように
知らないうちに
散っていく
バルコニーの壁伝いに上へ下へと
散り散りに
風にのって舞い上がり着地して
を繰り返し 踊っているよう
どこか懐かしいような目をして
泡が消えるように行ってしまう
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