【第600回】『SCOOP!』(大根仁/2016)

 スクリーンに響く星野あかりの喘ぎ声、運転手のいない車内、上下に揺れる黒のワゴン車、後部座席では都城静(福山雅治)がデリヘル嬢と一発やっていた。やがて事が終わり、運転席に戻る都城。何事も無かったかのようにズボンを履き、ラジオを付け、目の前の球場に視線を合わせる。彼がターゲットにしているのは、新人王候補の須山(鈴之助)。試合が終わり、六本木方面へと走り出す須山の車をUターンして追う都城の車。高層ビルの影から煌々と照らし出す東京の夜景。その印象的な夜景を小林元のカメラはクレーンで撮影する。カメラマンの都城静は、かつて数々の伝説的スクープをモノにしてきた名カメラマンだったが、今では芸能スキャンダル専門の中年パパラッチになり下がり、借金や酒にまみれた自堕落な生活を送っていた。そんな彼に復活のチャンスが舞い込む。『SCOOP!』誌の副編集長である横川定子(吉田羊)のオファーにより、新人プロ野球選手の熱愛スクープを撮るだけの仕事。都城は容易い仕事をさっさと片付けようとするが、そこにKYな女の横槍が入る。逆上した都城はゴミ箱に隠れていた「きゃりーぱみゅぱみゅ」風の女・行川野火(二階堂ふみ)を従えながら、『SCOOP!』誌編集部に怒鳴り込む。都城の怒声により、締め切りで忙殺されていた編集部は一瞬の静寂に見舞われる。グラビア班副編集長馬場(滝藤賢一)の苦み走った表情。会議室での定子と都城のタイマンの話し合い。借金で首の回らない男は30万円の現ナマに目が眩み、野火とコンビを組むよう命令される。

すっかり中年になったうだつの上がらないパパラッチと、芸能スクープのイロハもわからない新人の組み合わせは、黒澤明の『野良犬』の志村喬と三船敏郎の相棒関係を見事に踏襲する。野火はスタイリッシュなファッション誌がやりたくて編集部に入ったが、『SCOOP!』誌は野火の求めるようなハイセンスなファッションとは程遠い。講談社の『Friday』と株式会社文藝春秋社の『週刊文春』を足して2で割ったような『SCOOP!』誌編集部では、編集長の花井(中村育二)の下に副編集長が2人いる。横川は芸能&事件班担当として、馬場はグラビア班担当として、互いに凌ぎを削っていた。大根仁の映画は『バクマン。』もそうだったが、殺人的なスケジュールに追いまくられる編集部の光景を生き生きと闊達に描写し、雑誌文化への深い愛情とリスペクトを感じる。THRASHERの水色の帽子、青のデカデカと刺繍の入ったスウェットに、今流行りのスカジャンを着た現代的な野火に対し、無精髭にパーマ、アロハシャツに革ジャンを着込んだ都城の風貌は明らかに昭和に取り残された現代の遺物である。芸能人のプライバシーを暴き、組織に属さず勝手ばかりやる都城の姿に当初、野火は戸惑いを隠せない。だが自分がシャッターを押した仕事が、世の中に浸透する様子を見て、スクープを取って来ることの意義を1から学んで行く。大根は刑事の仕事もパパラッチの仕事も、どちらも命懸けのプロフェッショナルであることを伝える。都城にはチャラ源(リリー・フランキー)というオールマイティな情報屋が味方につき、まるで『闇金ウシジマくん』シリーズの綾野剛のように夜の街を怪しく蠢く。

今作は云うまでもなく原田眞人の85年のTV映画『盗写 1/250秒』のリメイクである。残念ながら筆者はオリジナルは未見だが、今作で福山雅治が演じた都城のキャラクターが、オリジナル版の主人公・原田芳雄とその相棒だった宇崎竜童の合いの子だと聞いて合点が行った。今作は徹頭徹尾、昭和に取り残された男の破れかぶれなハードボイルド活劇に他ならない。記事のネタには極めて現代的な要素(少年A事件、前田敦子泥酔事件、某政治家の路チュー事件etc..)が盛り込まれているが、無骨な都城やチャラ源、後半一気に沸き立つ馬場ら男たちの描写は、向こう見ずな昭和の雰囲気を漂わせている。その肌触りは川島透映画のヒーローだった金子正次や、村川透の遊戯シリーズに出ていたかつての松田優作を彷彿とさせる少しエッチで反権力でいなたい無骨な反逆者たちである。福山雅治の演技も、冒頭から正統派な二枚目を脱ぎ捨てんとする強い覚悟が滲む。これまで大根の映画では『モテキ』、『バクマン。』と理性的な編集長を演じて来たリリー・フランキーのタガの外れっぷりには驚いた。だが全体のバランスで言えば、ラスト30分のピカレスクロマン的なタガの外れ方は、さすがに様式美に走り過ぎた感はある。松永のスクープを撮った段階で大団円で90分に納めた方が良かったが、それでは大根の気が収まらなかったのも十分に納得出来る熱の帯び方が良い。相変わらず大根監督は群衆シーンの描写が卓越している。会議の場面のカタルシスは庵野秀明の『シン・ゴジラ』と双璧ではないか?今作の最高沸点も、福山、二階堂と宇野祥平、今井隆文が松永の現場のシュミレーションをしたあの場面だった。

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