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四国

8月の香川県は暑い。
階段を登り辿り着いた展望台からは、眼下に広がる有明浜の砂に描かれた寛永通宝が見える。
100歳の曽祖父が亡くなった。

私は葬儀のため四国を訪れた。ひまわりが元気に咲き乱れ、コンクリートの照り返しが痛く感じるような、そんな日だった。
葬式では親族が一堂に会し、互いの近況を語り合った。そこで私は、はとこに会った。初めて会った。三人兄弟で歳は20歳近く上だった。長男、次男は医師、三男は車椅子に乗っていた。言葉も話さず、視線も定まっていない。

「なんか怖い」

小学生だった私の正直な気持ち。彼と対面したときのことは、映画のワンシーンのようにはっきりと思い出される。
母に促されて恐る恐る握手をしたことも。その手が柔らかくて温かったことも。

彼は大きな車に乗っていた。乗り降りはバックドアからだった。ボタンを押すとそのドアは上に高く開き、中からロボットアームのようなものが降りてくる。彼はそれに車椅子ごと乗るのだった。

葬儀を終え、私たち家族は高台から砂浜に描かれた絵を見に行った。そこで、私が彼の兄に「お医者さんってかっこいい」って言うと、

「この景気を見られない弟の足を治したいんだ」

と二人は笑った。ひまわりのような笑顔が忘れられない。

                  text/ゆうじん

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