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シチューとスープとホワイトソース

この話もまた「母の不思議」シリーズになってしまうのだけど…。
自分でも冬になると作るメニューなので、どうしてもこの季節には思い出してしまう。

それは「ホワイトシチュー」。
「クリームシチュー」とも言うかもしれない。

うちの支配人なぞは、ホワイトシチューそのものは好きだけれど、実母が「(いわゆる)シチューのもと」で作るものは嫌いで、料理上手の叔母がホワイトソースから作ったものが好きだった、と言う。

その違いは「できあいの『もと』を使うか」「ホワイトソースを使うか」。わたしの母は、ホワイトソースから作る人だった。

家庭科の授業が始まり、調理実習を何回かやった小学校高学年の頃
「ホワイトソースの作り方を見せてあげるから、おいで。」
と台所に呼ばれて、作るのを一部始終、説明しながら見せてくれたこともある。

実は、わたしは子どもの頃「料理は好きだけど、何をどうしたら美味しいものができるかわからない、でもやってみたい」という状態だった。
週末の朝、まだ両親が休んでいる早朝に、家にあるもので大人からしたら「どうするのコレ」みたいなヘンテコ料理をこしらえていたので、母は「もしかしたら、この子は料理が好きなのかも」と氣づいていたのかもしれない。

若くして親元を離れた母が、どこで料理を学んだのかは今も知らないが、前にも書いたとおり、大抵のことはできる人だった。

なので

「薄切りの玉ねぎを先にバターで炒めてから小麦粉を入れると、ダマにならないよ。」

なんてコツも知っていた。

「バターだけじゃなくて、油も少し混ぜると焦げ付かなくていいの。」

みたいな、節約術につながるようなことまで。

そうしてできあがった、玉ねぎ・バター・油・小麦粉・牛乳・塩だけでできたホワイトソースは、真っ白でとろんとしていて美味しそうだった。

シチューの具材は人参、玉ねぎ、じゃがいも、お肉(これは鶏肉のこともあれば豚肉のこともあった)の主役級に、彩りになにか青いもの(ブロッコリー、芽キャベツ、茹でたほうれん草)、あれば蕪、カリフラワー…。

ごくごくふつうで、今でも変わらない、ベーシックなものだ。
作り方も基礎の料理本を見てるみたいに、ごくふつうだった。スープもコンソメキューブをポンっとするだけだし。

だがしかし。

できあがったホワイトシチューは、なぜかシャバシャバ。
シチューと言うよりは、スープ。

小学校の給食でも、ホワイトシチューが出ることがあった。
それにはゆるいカレーのようなとろみがあったから「ホワイトシチューは、とろっとしているもの」と記憶していた。

でも。
母が作ったシチューは彩り良く、具材がゴロッとしていて美味しそうだけど、シャバシャバ。

なんのとろみもない、サラッとした口当たりの「ミルクスープ」で、味噌汁と変わらないくらいの濃度だった。

不思議な思いのまま、大ぶりに切られたじゃがいも(煮崩れないようにメークインだった)や人参を食べた。

シャバシャバなのは、どうしてなのかな?
…と思ったけれど、美味しかったから特に訊かなかった。

なぜ不思議だったかというと、理由がある。

当時の母は、わたしと弟がふたりそろって低血圧で朝に弱くて食が細かったため「できるだけ食べさせよう」と考えたのか、朝食にはパン類に添えてインスタントのポタージュ(カップスープではなく、鍋でちょっと煮込んで作るタイプ)を毎朝、作ってくれていた。

それにはとろみがあり、シャバシャバではなかった。
ふつうに「ポタージュ」だった。

話を聞くに、若い頃はいろいろな外食の経験もあった母は「洋食のシチューやスープは、シャバシャバなものだけじゃない」ということを知っていただろう…というのは想像に難くない。

だから逆に、わたしはあのホワイトシチューが不思議だったのだ。

おそらくだが、あまり洋食メニューを好まない父への対策として、バターや牛乳をあまり使わないようにしていたのかな…と、今でなら思う。

父は焼き魚を食べさせておけば、それで問題ないタイプなのだ。

洋食の日にはハンバーグ・ステーキ・生姜焼きなどの肉料理、またある日にはホットプレートの焼き肉や牛タンで作ったスープなども出てきたが、ホワイトシチューと同じように「ホワイトソースを使ったグラタン」は家では食べたことがなかった(オーブンは家にあったが)。

つまり、父はそもそも、乳製品が好みではないのかもしれない。
もしくは、「ホワイトソースのとろみのあるテクスチャが嫌いだ」とか。

そういえば、カレーも父が不在のときにしか出てこないメニューだったので、父が不在の夕飯には必ず作ってもらっていた。

もちろん、その「カレー」はスパイスカレーではなく、市販のルゥを使った「おうちのカレー」だ。これもとろみがついている。

一度だけ、父が自身でカレーを作ったことがあったが、それは小学生の子どもにはちょっと難しい味だった。
おそらく、外で食べて覚えてきたものを自己流で再現したのだろう。

思い出すに、野菜系の素材をすべてミキサーにかけた、ドロドロ系のスパイスカレーだった。肉はひき肉だったと思う。

使ったのが一般家庭用のミキサーなので、妙に粒感が残ったテクスチャになった仕上がりは「重たくドロっとした茶色いもの」。
それが白いごはんにかかっているだけだから、見た目はちょっと厳しい。

そこにそれまで体験のないスパイスが香る「カレー(?)」に対して子どもふたりはいい反応をせず、父が激怒したのを覚えている。

この文章を書いていて、いろいろと思い出したことで

「なるほど、あの『シャバシャバのホワイトシチュー』は、家庭の事情だったのか…。」

と、思い当たって、長年の謎が解けたように思う。

そしてなんとなく、近々ホワイトシチューを作ってみよう、と思った。

ちょうど真冬で、外は零下の日が多い。
こんなときは、乳製品を使ったとろみのあるシチューで温まりたい氣分でもあるし。

サラッとしてるのも悪くない。
こんな感じで。


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