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「資生堂、背水の高級コスメ刷新 『輝き』再生へ分水嶺」に注目!

資生堂、高級コスメ「クレ・ド・ポー」刷新 「輝き」再生へ分水嶺 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

資生堂が高級化粧品をてこに輝きを取り戻そうとしています。最高価格帯の「クレ・ド・ポー ボーテ」の顧客を若年層にまで広げるため、看板商品を刷新し、インターネット通販にも乗り出します。資産売却を進めた資生堂にとって高級化粧品は業績立て直しを託すことのできる切り札。戦略の巧拙が成長の分水嶺となります。

「若年層には最高価格帯にあこがれを持ってもらいつつ、まずは低い価格帯の商品から手に取ってもらいたい」

資生堂は16日、クレ・ド・ポー ボーテの主力商品である既存美容液を5年ぶりに刷新し「ル・セラムⅡ」として9月に発売すると発表しました。価格は1万9800円からと、10万円超の商品をそろえる同ブランドの中では安価帯に入ります。

ユリの花から抽出したエキスを配合し、将来の肌荒れが予防できるとうたいます。クレ・ド・ポー ボーテの橋本美月チーフブランドオフィサーは、今回の刷新に若年層を取り込む狙いを込めたと語ります。

新型コロナウイルス禍では化粧品のインバウンド需要がはげ落ち、低価格品では韓国勢などに押される資生堂が起死回生を託すのがクレ・ド・ポー ボーテです。対面販売をベースとした百貨店では「売上高が国内ブランドで圧倒的に1位。価格も高いが、クオリティーも高い。日本人の肌に合っている」(大手百貨店バイヤー)とされます。

クレ・ド・ポー ボーテの発売は1982年です。当時、外資系ブランドの存在感が高まる中、既存の「SHISEIDO」ブランドとの差異化を狙って打ち出しました。ブランド単独の売上高は2023年12月期で前の期比2%増の1700億円ほど。資生堂は約30のブランドを持ちますが、単独で全売上高の2割近くを稼ぎ出します。

成長に向けたカギと位置づけるのが30代以下の若年層の開拓です。手に取りやすい価格帯のル・セラムⅡの刷新にあわせ、矢継ぎ早に手を打ちます。その一つが自社サイトを通じたネット通販の開始です。

ル・セラムⅡを発売する2024年9月にクレ・ド・ポー ボーテの全商品を対象にしたネット通販を始めます。世界観を踏襲したサイトを新設して販売します。主要な販路である百貨店とは顧客を取り合わないよう調整しているといい「カウンターが混雑して購入をためらう新規顧客や買う商品が決まっているリピーターにサイトの積極利用を促す」(資生堂の萩原里実ブランドマネジャー)。

他のブランドのネット通販も拡大し、国内売上高に占めるネット経由の比率を2025年12月期までに30%程度(2023年12月期は10数%)に引き上げます。

2023年には若者が多く集まる東京・原宿駅周辺でブランドとしては過去最大規模のイベントを実施しました。クレ・ド・ポー ボーテの美容液が1〜6月、20〜30代については前年同期比で24%増えました。今年も9月の美容液刷新にあわせ、都内で若者らが多く集まる繁華街でのイベントを予定します。

資生堂の業績は低迷している。2020年12月期の最終損益は116億円の赤字に陥り、2023年12月期の純利益も前の期比で4割近いマイナスと2期連続の減益に沈みました。

業績回復の足取りが重い中、2021年には「TSUBAKI」などで知られる日用品事業を投資ファンドに売却しました。その後も、香水の販売権やブランドなどを次々と手放しました。2024年12月期には国内従業員の1割にあたる約1500人の早期退職を募るなど300億円の構造改革費用を計上すると発表しました。

その一方で経営資源を集中させてきたのが高級化粧品です。魚谷雅彦会長最高経営責任者(CEO)はクレ・ド・ポー ボーテをはじめとした高級化粧品などに「2025年12月期までの3年間で1000億円を超える追加投資をする」としています。

みずほ証券の宮迫光子シニアアナリストは「(日用品売却などの)構造改革が一服した後、クレ・ド・ポー ボーテでの若年層の取り込みは重要で、今後の成長のカギでもある」と指摘します。

一方、高級化粧品の顧客を若者に広げることはブランド毀損のリスクもはらみます。コロナ禍後に中国で化粧品の値引き販売を進めたところ、ブランド力が低下し、顧客離れを起こしたという苦い経験もあります。

同業他社を見渡すと、コーセーは主力の高価格帯ブランド「コスメデコルテ」に米大リーグの大谷翔平選手を起用しました。世界観を壊さずに男性などの需要も開拓するなど先んじた取り組みも進みます。資生堂もブランドの世界観を維持したまま、求めやすい価格や新しい販路を訴え新たな顧客の獲得を目指しますが、試行錯誤が続きます。

クレ・ド・ポー ボーテは「他社の高級ブランドと比べて50〜60代の顧客が多いのが特徴」(化粧品販売大手のアイスタイル)とされ、保湿など肌の健康を保つ領域の競争力は高いです。外資系が口紅やアイシャドーなど多様な色で顔を彩る「メーキャップ」を得意とするのとは対照的です。

高級化粧品に集中する路線を敷いた魚谷氏は年内の退任を表明しています。高級品に集中するという魚谷路線の化粧直しをしている時間はありません。若者開拓は背水の陣です。

クレ・ド・ポー ボーテは時代に合わせて進化をしてきた歴史があります。1980年代は「細胞単位で肌を捉える」、1990年代~2000年代初めは「肌を、細胞が集まった面として捉える」。その後2010年までは「肌細胞がもつ情報伝達機能に着目」し、その後は「肌細胞がもつ脳と同じ能力に着目」と、40年を超える長い歴史の中で進化してきています。

「肌には知能がある」、そしてその肌の知能を高めることがクレ・ド・ポー ボーテのサイエンスとなっています。

資生堂は世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーへ向けた取り組みを進めています。他社にはない取り組みをすることで世界でも活躍をする姿に期待しています。

※文中に記載の内容は特定銘柄の売買などの推奨、または価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。