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「5人に1人が路上生活を経験」 仮放免の外国人 支援団体調査、国と都に支援を要望

 難民未認定者や病気などの事情によって入管施設収容から「仮放免」となり、施設外で暮らしている外国人や不安定な在留資格の外国人に対して、公営住宅の入居や居住確保のための支援を行うよう、北関東医療相談会、ビッグイシュー基金、つくろい東京ファンドの3団体が12月19日、国土交通省、東京都などに要望書を提出した。3団体のアンケートによると、仮放免者の5人に1人が「路上生活を経験した経験がある」と回答したという。3団体は「仮放免者にとって住まいの確保は容易ではなく、現に路上生活に陥っている人もいる。命の危機に対して早急に救済してほしい」と訴えた。要望書には外国人や生活困窮者を支援する34団体が賛同している。

尼崎市の取り組みを広げたい

 要望書では、2017年に始まった住宅セーフティネット制度によって定められている住宅の確保が必要な人の中に「外国人など」が含まれていることから、仮放免者や新規に難民申請をしている外国人について、在留資格の有無に関わらず、居住支援を行う民間団体に確実につながるよう、都道府県に対して周知徹底を求めている。

 また、在留期間が短いため応募できない仮放免者や不安定な在留資格の外国人について、公営住宅への入居も要望。公営住宅の空室を民間団体に低額で提供するよう求めた。支援活動としての利用や困窮者の入居を認めている兵庫県尼崎市の取り組みを示し、同様の取り組みを他の自治体の公営住宅でも実施するよう訴えた。建て替え計画などで空室がある公営住宅の空室活用についても、支援団体の利用を認める措置を講じることを要望に上げている。さらに、非正規滞在を含む外国人に対して、ウクライナからの避難者並みの居住支援を求めている。

国土交通省の担当者(手前)に要望書を手渡す支援者団体の代表=2023年12月19日東京都内で

入管「お帰りいただく方々」

  同日の記者会見で、支援団体は、仮放免者に関する要望に対し、東京都の担当者から、「(仮放免者は)国が管轄する事業なので、入管庁をはじめとする国が対応すべき」という後ろ向きの見解が出されたことを明らかにした。また、公営住宅の目的外使用なども「考えていない」と回答したという。国交省の担当者は、「(仮放免者の住まいは)入管で整備すべきものである」とし、入国管理局は「仮放免は(出身国に)お帰りいただく方々である」という認識を示したという。一方、国交省の担当者は、「仮放免者などに申込資格を与えるのは難しいが、目的外使用として支援団体が借りて住まわせることは妨げるものではない」との見解を示したという。

帰国したくても、帰国できない

 
 仮放免の外国人は、難民申請の未認定者のほか、日本生まれの日本育ちだったり、家族が日本にいたり、日本に数十年にわたって定住し、行くあてのない人など、それぞれ事情があって帰国したくても帰国できない状況にある。仮放免中は、法律で就労が禁止され、社会保障制度の枠組みからは排除されている。また在留資格があっても、3カ月未満の短い在留期間を更新しながら在留している場合は、社会保障制度は利用できないので、住まいの確保が困難だ。

記者会見にのぞむ支援者団体の代表ら=2023年12月19日東京都内で

 支援団体は、2023年8月から12月にかけて仮放免の状況にある外国人を対象に、4カ国語(日、英、仏、トルコ)で住居や生活状態に関するアンケート調査を実施。外国人支援団体や当事者の紹介で550件に調査票を送り、うち26.5%(146件)から回答があった。回答者の86%が20〜50代で「働ける年齢層」にあたる。また、85%が「難民申請者」で、31%が「未成年の子どもがいる状況」だった。性別は男性が74%、女性が25%、その他が1%だった。

「家賃の支払いが苦しい」91%

 
 調査結果によると、滞在年数は長期の人が多く、日本人への「帰化」の要件とされる5年以上が85%、永住許可の要件とされる10年以上は66%を占める。91%が「家賃の支払いが苦しい」と答えており、家賃や水光熱費を滞納している人が、いずれも4割を超え、「滞納経験がある」は6割にのぼった。

 7割が「住居の確保が大変」という状態にあり、家賃は「親族友人からもらう」「借金をする」「支援者・団体からもらう」などの方法で工面している実態がわかった。また、「過去に家賃を支払えずに住居を失った経験者」「過去に路上生活をした経験者」は、それぞれ回答者の5人に1人の割合だった。

 会見をした支援団体は、追い詰められホームレス化する仮放免者について、「人として尊厳を持って『生きていけない』状況に追い込まれている」と訴えた。

日本の難民認定率、わずか2%


 各地で紛争が起きる中、世界的に難民や国内避難民が増加している傾向にあり、昨年は1910万人増加し、1億840万人(22年末現在)に達している。そのうち4割が18歳未満の子どもだ。日本では今年の難民申請件数は約2万人で現在の難民認定率(2%)のままだと1万9600人が不認定になり、仮放免者が増加する恐れがある。

 会見で支援者団体は、政府が「住まいの確保は基本的人権の問題だ」と認めた国会答弁を紹介し、「いかなる法律や法的身分によっても、居住の権利は制限されてはいけない。国や行政の不作為は(基本的人権の)侵害である」と要望書を提出した経緯を説明した。

人の尊厳をもって生きていけない状況


  記者会見には、外国人など困窮者を支援する団体関係者が臨んだ。
一般社団法人「つくろい東京ファンド」の大沢優真さんは「毎日、家がない、家賃が払えない、家を失いそうだ、路上生活になりそうだ、という相談を受けている。支援者も財政的に厳しい状況で限界だ、と東京都や国にお伝えした。本当に大変なことになっている」と実情を訴えた。
大沢さんは仮放免者の精神状況も気遣う。

資料を示し説明を始める大沢優真さん

 「仮放免者は身分証を持てず、家を借りられない。滞納を処理するのに、頭を下げて暮らさなければならず、心がズタズタにされ、メンタルがボロボロになる。仮放免者は人として尊厳を持って生きていけない状況になっている」

 大沢さんは世界的な状況として難民・移民が増加している背景に触れながら、日本について「過去最多の難民申請がある中、2%の認定率だと多くが不認定になる。その多くがオーバーステイになり仮放免になる。3、4年後には仮放免者が2万人増え、現在の5倍になる恐れがある」と指摘した。

「究極的社会的排除を受けている」

 「つくろい東京ファンド」の稲葉剛さんも「首都圏でホームレス、生活困窮者を支援しているが、仮放免者抜きには対応できない状況だ。仮放免者は究極的社会的排除を受けており、支援団体も対応せざるを得ない。各支援団体も財政的に逼迫している。入管は『帰ってもらうしかない』というが、そうはいかない。フェーズは変わってきていて、国に警告を発した状況だ」と強調した。

仮放免の外国人の住居確保のスキームについて提案する稲葉剛さん=2023年12月19日東京都内で

寒い中、毎日毎日、野宿する人々

 会見に臨んだ一般社団法人「反貧困ネットーワーク」の瀬戸大作さんは、生活困窮者の支援活動のうち、シェルターの家賃、家賃支援が支援費用の多くを占めている現状を示し、「毎年続けていくと、支援団体は3、4年後に一斉になくなる構造になりつつある」と危機感を示した上で、「国籍に関わらず支援をしていきたいと考えている」と支援の姿勢について語った。
瀬戸さんは、最近の支援の状況を報告した。

野宿していたアフリカの人々の支援について報告する瀬戸大作さん=2023年12月19日東京都内で

 「今年11月に東京都千代田区の公園にアフリカの20人が野宿していて、支援に関わってきた。彼らは難民申請をしたが、審査結果が出るまで最低6カ月かかる。その中で1か月以上、野宿をしている。見ていられない。我々が支援にかけずり回り、ほとんどの人がシェルターに入った。寒い中で難民がまた増えていく、毎日毎日野宿している外国人が増えている。サポートしていきたいし、支援団体がどういう思いでやっているか理解してほしい」

公営住宅も住民票がないと借りられない


  NPO法人「北関東医療相談会」の萩原芳子さんは「多くの問題を抱えるのが仮放免の母子家庭だ」と訴えた。

 萩原さんによると、以前は働けて生活ができていたが、病気になり、更新をしないまま在留資格がなくなった。コロナ禍で仕事を失い、2、3か月で在留資格を失ったケースもある。一度、仮放免となると、5年、10年経っても在留資格を取得できない。現在在留資格があって、興行や介護などの特定活動ができても、困ったときにセーフティネットが使えない状況にあるという。

仮放免の母子家庭の状況を説明する萩原芳子さん=2023年12月19日東京都内で

 「家賃と水光熱費に困っているという相談がしょっちゅう来る。民間のアパートは家賃が高いが、安いところへ移ろうとしても、仮放免者だと新たに部屋を借りられない。公営住宅も住民票がないと借りられない」

「非人道的仮放免制度を見直すべき」


 萩原さんは、在留資格が異なる父母が同居する家庭では、仮放免で住民票がない人が一人でもいると公営住宅に入居できなくなってしまう現状を語る。「そもそも仮放免者として生まれてくる子どもの存在がナンセンスだ。日本が批准する子どもの権利条約条約による児童の医療を受ける権利、福祉を受ける権利に反している。住民票の要件を見直しして、公営住宅の入居を認めるべきだ。子どもがいる場合、なおのことだ」

 日本生まれの学齢期の子どもは、家族と共に在留許可を得ているが、萩原さんは「子どもがいる家族全てに在留許可を認めてほしい」と制度の見直しを訴える。

 また、在留資格をもらったとしても、子どもが「留学生扱い」になっていることについて、問題視した。「留学生ビザを得ても、その後、仮放免になるのではないかと懸念している。長期の定住資格を与えるべきで、非人道的仮放免制度を見直すべきだと思っている」(吉永磨美)
 


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