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性売買の現場、知ってほしい     ムンチメンバーへのインタビュー

 ブックコンサートのイベント開催に合わせて、ムンチのメンバー2人(Aさん、Bさん=仮名)がインタビューに応じ、日本や韓国の性売買について思いを語った。

――東京新宿の歌舞伎町についてどう思われましたか?

Aさん 通りに面して、風俗店を紹介する「無料紹介所」という場所があることに驚きました。また、路地裏で会社帰りの中年男性たちが、10代ぐらいの女の子に声をかけている姿を見て、鳥肌が立ちました。そして、その状況に誰も注目していないことに対して、本当に驚きました。この状況を見て、「日本の女性たちはどう思っているのだろうか」と聞きたくなりました。

Bさん 韓国では性売買が全くなくなったわけではなく、オンライン上で行われていて、目には見えないような状況になっているのも問題ではあります。しかし、日本ではすぐ目につくような形で行われているようで、それに対して本当に惨憺たる気持ちになりました。性売買をしたいのか、したくないのか、とかといった、そのような発想を超えて、(性売買をする)女性たちがなぜここに出てこざるを得なかったのかということに、多くの人たちが思いを寄せて欲しいと思います。(ムンチで)日本だけでなく他の国にも訪問したことがありますが、その国の性売買の状況を見れば、性売買の女性だけではなくて、その国に置かれた女性の地位や立場というのがよく分かります。

 性売買する女性たちに対し、安全な場を提供し、生活を支援するのは国や自治体の責任です。国連の(18歳の未成年を対象にした)児童の権利条約で、性的搾取から児童を保護する選択議定書に日本も締結しており、未成年の性売買、性的搾取を禁止しなければならないという条項が盛り込まれています。それに基づいて、東京都はその役割をきちんと果たしていかなければならないと思いました。

――日本では、性売買を含めて「性産業」という言い方がありますが、そこで働いている人たちの仕事であるという意見もあります。性搾取だと反対する人もいれば、それは仕事だという意見の人もいます。韓国ではどのような議論がありますか?

Aさん 性売買は果たして仕事なのでしょうか? 性売買は仕事だと思っていません。私自身、私がやったことが仕事だというふうに言われれば怒ります。もしも私が私の経験から性売買が仕事だというふうに言うならば、私はすごく搾取されたと言わざるを得ません。

Bさん 「仕事を失ってしまう」という考えは、私はわかるような気がしないでもないです。なぜかというと、私自身が、他に仕事がなく、私がそれしかできないから、他にお金を稼ぐ方法がないから、という状況が私にもありましたから。その仕事を奪うという点よりも、「本当に必要なのは何なのか」とことを考えてほしいです。性売買をしなくても生きていけるそのような環境、そのような支援策として何が必要なのかということをぜひ考えていただきたいと思います。

――韓国ではそのような議論はもう克服したのでしょうか?

Aさん そうではありません。依然として「セックスワーカー論」を話す人もいます。性売買について「賛成する」とか「賛成しない」とか、そのように話すことが問題なのだと思います。日本では、性売買に反対するということをおおっぴらに話すこと自体がためらわれているのかなと思います。性売買をする権利を話す人たちがいますけれども、これに対して、私は性売買をしなくても生きる権利を訴えたいです。もちろん、当事者の中でセックスワーカー論を出す人もいますが、私達は反性売買の立場から話をしています。

 当事者同士を比較する人もいます。私は当事者の1人ではありますが、性売買の当事者の全てを代表しているとは言えません。ただ、当事者の声を実際に聞くということは、とても重要なことだと思うのです。当事者たちがもっともっと話すことができなければならないと思います。

 当事者たちが、「性売買は許すべきだ」と言うこともあります。社会的に許すべきだというような人たちがいないわけではないのですが、だからと言って、制度的に何もしないで放っておくということは、社会が非常に無責任だと思います。性売買の(搾取の)構造を見れば、分かってもらえると思います。私はむしろ買春者のことをもっと考えるべきだと思います。

インタビューに応じたムンチの女性たち=東京都内で

――ムンチの活動が始まった時、韓国社会の反応はどうだったでしょうか?

Aさん 韓国では性売買防止法が制定される時、業界も性売買の現場の女性たちを連れ出し、韓国の国会前でデモや集会をしたりしました。ムンチは2012年に無限発話というタイトルでブックトークコンサートをやり、地方を回って、いろんな人と話をする機会がありました。その時にメディアが取り上げ、多くの記事が出ました。

そうすると、ムンチへのひどい誹謗中傷があり、怖かった。このまま私達のこのスタイルの活動を続けていくかどうかについて話し合いました。私達は話し合って、誹謗中傷する相手は買春者ではないかという結論に至りました。「もっと強くやっていこう」ということになりました。実際にそうやっていく中で、韓国社会が変わっていきました。今では韓国社会で、おおっぴらに性売買を自慢げに話すことはできなくなりました。一方で私たちに協力したり応援したり、連帯してくれたりする人が大勢いました。

――買春の本質は支配を満たすことだ、とムンチは「無限発話」(梨の木舎)で指摘しています。市民、メディア、国や行政が取り組むべきことはあるなら、どんなことでしょうか?

Bさん 各自がこのような問題について、もっと知らせていくことが必要だと思います。特にメディアはその役割を持って、もっと多くのことを大勢の人たちに知らせて欲しい。国や政府がこの問題に対して責任を持って欲しいと思います。安全を確保すること、それから性売買のない世の中のために、そのための様々な法律や、それから制度それから支援策なども策定して、こういった問題を取り組んでほしい。

Aさん 訪問したスウェーデンでは買春者と業者だけを処罰する法律があります。女性たちは(処罰されず)その法律によって守られていると思いました。性売買集結地も行きましたが、日本の歌舞伎町の1ブロックにも満たない面積でした。そこで私が驚いたのは、オンラインで約束した買春者を取り締まっている警察の姿でした。ホテルだけではなくてその周りでも何か性売買が行われていることを察知されれば、すぐに追放されます。なぜならば「性売買が起こってはいけない。これは犯罪である」と考える市民の意識がとても強いからです。また、これが可能なのは、買春者を処罰する法律があるからです。

 韓国にも性売買防止法があります。不足部分や改正しなければならないところがあります。市民意識の高まりも、当事者が声を上げられることができるのも、法律の裏打ちがあり、法律の中で女性たちを支援するシステムがあります。

日本でも、直ちに法律を改正するとか、新たに作るとかいうことは難しいかもしれませんけど、1人1人ができる範囲で、もっと声を上げていかなければいけないと思います。性売買の現場はどうなっているのか、女性の人権はどうなっているのか。そのことをもっと話し合わなければならない。性搾取はどうやって行われているのか、ということを、もっと気にして、もっと考えていく、そういった世の中であってほしいと考えます。(まとめ・吉永磨美)

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