見出し画像

アニメキャラクターが歌う『劇中歌』大好きオタクの叫びもしくは布教


私はアニメが好きだ。アニメーションが好き、音響や美術が好き、特殊効果や演出が好き、声優さんの演技が好き、大好きな原作のキャラクターが喋り動くのが好き、オリジナルストーリーのワクワク感が好き……「好き」を挙げていけばキリがない。

しかし今回はタイトルの通り『劇中歌』に絞って日頃の愛を垂れ流していきたい。


劇中歌とは

『劇中歌』。
定義は人によって様々だろうが、ここではあくまで『アニメキャラクター本人の歌唱という体で劇中に存在する楽曲』を指す。

この『劇中に存在する』という部分が重要だ。キャラクターの心情そのものを歌い上げる『キャラクターソング』や、物語の演出として流れる『イメージソング』とは趣が似ているようで完全に異なることを念押ししたい(私はそれらもそれらで好きですが)。

アイドルやバンド、音楽題材のアニメを思い浮かべていただくのが一番わかりやすいだろう。キャラクター達はステージに立ち、観客に向けて己のパフォーマンスを披露する。アニメの中の観客が生の歌として聴いているそれが、次元を隔てた私たちにとっての『劇中歌』である。


私が劇中歌に惹かれるのは何故か。
劇中歌とはそのアニメの世界観を構成する一要素であり、「この世界でどんなものが愛されているか」という奥行きを歌によって感じることができるから、というのもある。

しかし私の最大の興味は、劇中歌ならではの「目配せ」にあるのだと思う。

前述の通り劇中歌は作中世界の楽曲としてお出しされているものであり、キャラクターの心情をそのまま歌い上げるものではない。
しかし劇中歌を実際に作っているのがアニメに携わる製作陣である以上、そこには何らかの意図が存在する。

それはやはりキャラクターの心情かもしれない。関係性の匂わせかもしれない。あるいはストーリー上の重大な伏線かもしれない。
ストレートにではなく、さりげなく捻った形で物語の要素を歌に忍ばせる。
視聴者をアニメの中の観客と同調させながら、アニメの外からでしかわからない目配せを与える。
そういう離れ技をやってのけられるのが『劇中歌』というギミックなのだ……と、私は勝手に思っている。

ここまで長々と自論を述べてきたが、ここからは私が長々と自論を述べるまでに出逢ってきた素晴らしい劇中歌たちを紹介していきたい。
とはいえ全てを紹介するのはキリがないため、今回は『音楽題材アニメを除くアニメ劇中歌』に絞った8曲を紹介させていただく。
この記事を読んでくれているあなたがご存知のアニメならその良さを共有できれば嬉しいし、存じなければこの記事をきっかけに作品自体に関心を持っていただけると大変嬉しい。

マイベスト劇中歌8選

1.瞳の国のアリス 黒羽アリス(『シャドウバース』より)

『シャドウバース』と言えば世界的にも有名なカードゲームコンテンツだが、こちらはそのホビーアニメ版(7月より新シーズン開始)。この楽曲を歌うアイドルキャラクター・黒羽アリスは死霊系のカードをメインに使うネクロマンサークラスのシャドバプレイヤーだが、アイドルとしてのイメージを保つために使用できるカードに制限がかけられていた。

特別なことに嫌気がさし、自分に好意を向けてくれる少女・ミモリともぶつかってしまうアリス。作中でたびたび流れる『瞳の国のアリス』もまた「アイドルの黒羽アリス」に大人たちが与えた歌なのだろうが、歌詞を紐解いていくとそこには「本当の私を見て」という、視聴者にしかわからない切実なメッセージが隠されている。

ホビアニよろしくのバトルを経てミモリと和解するアリス。「アリスちゃんは特別だけど普通の女の子で……私の友達!」という言葉を胸に、黒羽アリスはアイドルとして邁進し続ける。カードゲームを通して少年少女の葛藤を描いていく本作により深みを増してくれる、王道の劇中歌と呼ぶべき劇中歌である。

2.迷宮バタフライ ほしな歌唄(『しゅごキャラ!』より)

『しゅごキャラ!』をご存知だろうか?原作は『なかよし』掲載の少女漫画、ゼロ年代後半に一世を風靡した児童向けアニメだ。少年少女の夢が『こころのたまご』から生まれる『しゅごキャラ』として具現化し、悩める小学生あむちゃんはしゅごキャラ達の力を借りて夢を奪おうとする大人に立ち向かっていく……というストーリー。

序盤の敵キャラにしてしゅごキャラ使いの歌手・ほしな歌唄は、この『迷宮バタフライ』という楽曲そのものを武器に観客のこころのたまごを奪っていく。幼い私はその戦い方、楽曲と歌唄ちゃんが醸し出す怪しげな輝きをハラハラドキドキしながら眺めていた。私の劇中歌萌えはここが原点かもしれない……(懐古ゾーン)

ちなみに歌唄ちゃんは中盤で主人公パーティと真正面からぶつかり合い、以降は味方的な立ち位置になっていくのだが、歌手活動はずっと続けており「自分のための歌」として新曲を次々発表していく。吹っ切れて明るくなってからの歌唄ちゃんの楽曲も配信等で是非聴いてみてほしい。歌からキャラクターの変遷を追えるのも劇中歌の醍醐味だ。

3.キミの小悪魔黙示録 アクドルくろむ・イルミ/イルミナティ・リンディ(『魔入りました!入間くん』より)

こちらも児童向け……というか子供も大人も楽しめるEテレ夕方枠アニメ『魔入りました!入間くん』。悪魔学校を舞台に唯一の人間・入間くんが奮闘するコメディだが、現在放送済の1期~3期全編に渡って物語に花を添えていた楽曲、それが『キミの小悪魔黙示録』である。

内緒でアクドル(悪魔語でいうアイドル)活動をしていたクラスメートの女子を助けるべく、イルミとして一緒のステージに立った入間くん。驚くべきは彼の歌唱力で、女性キーの音程を一切変えることなくデュエットをこなしている。キャスティングが大正解だったと言うほかないが、お茶の間の子供たちに全力で「カワイイ」を提供する入間くんの姿は次世代の希望と呼ぶべき存在なのかもしれない。ぱっくん♥

惜しむらくはこの『キミの小悪魔黙示録』原曲の公式試聴動画が見当たらないことだ(サムネの動画は入間くんの男友達と一緒に同楽曲を歌うアレンジバージョン。彼のハスキーボイスも素敵)。作中ライブシーンの一部でも公開すれば布教もしやすくなるし、確実に視聴層を増やせると思うのだが……。NHKさん!お願いします!

4.火炎放射器とわたし 七瀬かりん(『虚構推理』より)

今年2期も放送された大人気特殊設定ミステリアニメ『虚構推理』。こちらの楽曲は1期のメインストーリー『鋼人七瀬編』にて人を襲う亡霊になったと噂される謎の人物・七瀬かりんの生前のアイドル活動シーンを切り取ったもの……だが、まあ一言で言い切るならネタ曲である。

一応擁護するとこの『火炎放射器とわたし』は原作の時点で「新人グラビアアイドル主演の低予算ドラマ主題歌で作詞作曲もアイドル本人」という設定が付いており、いわば意図的にネタ曲として作られたネタ曲だったりする。
しかし笑い飛ばしてばかりもいられない。世のギャグ漫画家やお笑い芸人が魂を削っているように、アホなものを作るにはアホじゃ務まらないのである。

考えてもみてほしい。「お願い叶えて石油王」に続いて「あなたの油田を焼き畑に」なんて歌詞、日頃生きていて思いつくだろうか?少なくとも私には逆立ちしたって思いつかない。この歌詞の初出はコミカライズ版だが、作中設定としてこの歌詞を書き胸を揺らしながら火炎放射器をブッ放す七瀬かりんは徹頭徹尾プロの仕事をこなしているのだ。
そんな彼女の強かさ、愛嬌、理性諸々はストーリー上でも重要な意味を持ってきたりするのだが、そこは本編をご確認いただければと思う。

5.超常恋現象 ミステリーキッス(『オッドタクシー』より)

こちらもミステリアニメと言えるだろうか?『オッドタクシー』は2021年春に放送され、現在もプロジェクト進行中の一大コンテンツである。一つの失踪事件を渦中とした群像劇の一角にアイドルグループ『ミステリーキッス』も根を下ろしており、当楽曲は彼女等のデビュー曲だ。

一聴するとポップでキャッチ―な電波恋愛ソング……なのだが、謎が全て解き明かされてから聴き直すと首筋の冷えるフレーズが高頻度で存在する。ネタバレは当然伏せるが多様なキャラが登場する本作、水面下で進行する謎をアイドルソングと共に追っていくのも一つの楽しみ方だろう。

余談になるがミステリーキッス名義の楽曲は『超常恋現象』以外にも存在する。名曲揃いだが、できればアニメ完走後に聴くことをお勧めしたい(布教しておきながら歯切れが悪くてすまんね)。

6.小さいグラス エンジェルスターズ(『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』より)

(該当楽曲は動画2:23~)
架空の昭和を舞台とする超人バトルアニメ『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』。作中には挿入歌として実在の昭和歌謡カバーが流れることも多かったが、今回取り上げるのは作中オリジナルの女性ロックバンド『エンジェルスターズ』のオリジナル楽曲である。

オリジナルと言っても歌の雰囲気は昭和歌謡の流れを汲んでおり、メロドラマティックな女の独白が重厚感あるバンドサウンドに乗っている。1クール目では世界観を引き立てるための端役だった彼女達だが、後半戦突入後にバンドは解散、元メンバーの一人がゲストとしてメインを張る回があった。そこで一つの真実が語られる。

この真実を知った後で『小さいグラス』の歌詞を見ると、自嘲めいた「バカな女」の矛先も「あなたにすがって泣きたいの」の意味も、男と女の構図でなぞられた歌がどこか違って聴こえてくる。考えすぎかもしれないが、大衆向けのコンテンツにひっそりと自分たちの望みを託していたマイノリティは実際にいたはずだ(恐らく今も)。彼女達がそうではなかったと断言できるだろうか?

7.hem 福元幹(『明日ちゃんのセーラー服』より)

セーラー服に憧れる少女・明日ちゃんの中学時代を瑞々しく描いた群像劇アニメ『明日ちゃんのセーラー服』。彼女の憧れのきっかけであるアイドル・福元幹はCMで真っ白なセーラー服を身に纏い、弾けるような笑顔を見せる。

(原作がどうかはわからないが)アニメにおいてこの福元幹はイメージ映像以外で特に本編には登場せず、明日ちゃんやクラスメイト達の間で「人気アイドル」と言及されるに留まっている。しかし物語を追ううちに、彼女の歌う『hem』が「クラスメイトそれぞれが明日ちゃんへ抱く巨大感情」を示唆していることが段々と明らかになっていく。

誇張でも何でもなく、アニメを完走した後に聴く『hem』は聴く劇薬である。「君は思うと同時に話す素直」「穢れを知らない君」「例え世界中探してもそれ以上似合うセーラー服ドレスはない」……ワンフレーズ聴くたびに本編での明日ちゃんの一挙手一投足、そしてそれに心奪われていくクラスメイト達の表情を脳裏に浮かべてしまう。この歌詞を渦中のキャラクターではなくアイドルに歌わせるのがこのアニメのなんともニクいところだなあ、と思う。

8.こいの歌 白鳥ことり(『大正オトメ御伽話』より)

激動の大正時代に繰り広げられる恋物語『大正オトメ御伽話』。恋を知らない歌姫・白鳥ことりはラブソングの構想に悩んだ末、初々しい主人公カップルを参考にしようと相談を持ち掛け……というサブストーリーから生まれた楽曲。

私がこのストーリーで特に好きなのは、ヒロイン・夕月の恋愛事情を聴いたことりちゃんが目を輝かせて「音楽に恋してるうちと同じ!」と言い放つくだりだ。
「作者は自分が経験した感情しか描けないのか?」という命題はしばしば創作論で取り上げられる。はっきりした正解は無いと思うが、私はこのエピソードが出した「経験したことがなくても、自分の感情から他人の感情を想像して寄り添うことはできる」というアンサーが好きだし、大切にしたいなと考えている。

音楽への愛、恋に悩むファンへの愛、気まずくなった兄への愛……歌姫・白鳥ことりの想いが込められた『こいの歌』は、結ばれるまでに様々な試練を乗り越えていく主人公カップルの歩みを優しく彩るラブソングだ。

あとがき

ここまで書いてきて今更だが、『音楽題材アニメを除く』を縛りにしたとき男性キャラボーカルの劇中歌の引き出しがびっくりするほどなかった(入間くんはグレーゾーンとする)。
この縛りがなければ『ギヴン』『神クズ☆アイドル』等々好きな劇中歌はいっぱいあるのだが……私のリサーチ不足かもしれないので、もし該当条件でおすすめの楽曲があればコソッと教えていただけるとありがたい。出来る限り履修します。

再三になるが私はアニメが好きで、そんなアニメの世界により浸らせてくれる劇中歌が大好きだ。当記事を読んでくれた皆様に少しでもこの情熱が伝われば、そして劇中歌という切り口から作品そのものへの興味を抱くきっかけとなれば幸いである。
ここまでお読みいただきありがとうございました。



※リンクに関しては↓の「Ⅱ-2他人のホームページにリンクを張る場合の法律上の問題点」から判断して貼り付けておりますが、問題があればご連絡ください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?