東大SPH合格者がもう一度受験するなら

2020年度 東京大学大学院 医学系研究科 公共健康医学専攻 専門職学位課程(以下,東大SPH)入学試験に合格しました.この記事では,勉強を始める前の私にアドバイスをするならば,どんなことを伝えるかを5点まとめます.

なお,今回の記事も前回同様に健康総合科学科(以下,健総)生には参考になるものかもしれませんが,一般に参考にできるものかどうかはわかりません.あくまで「私がもう一度受験するなら心がけたいこと」をまとめた記事です.その点ご了承の上,お読みください.

(前回の記事はこちら

1. TootsieRollさんの解答は「批判的に」参考にしよう

Tootsieさんの解答を否定するつもりではありません!!!Tootsieさんには感謝しかありませんので,その点誤解のないようにお願いいたします.

過去問1周目で,私はTootsieさんの解答を鵜呑みにしがちでした.しかし,それでは理解できないこともたくさんありました.そこで,2周目からはTootsieさんの解答に対して批判的に参考にすることを心がけました.間違っているかもしれないし,鵜呑みすることなく自分の理解を確かめることを最優先にしよう,と考えながら参考にしました.

私が言いたいことは次のような考えです.

鵜呑みにすることは学習ではなく,暗記である.
学ぶ上では「自分の理解に関心を持つ」という姿勢を守ることが大事.
批判的に読み取り,自分なりに解釈し,他人に説明できるようになろう.

「Tootsieさんが言ってるから正解の考え方で,これは覚えてしまおう」という考え方はやめましょう,ということです.特に英語とsubjectでは考え方を自分の中に構築しないと,本番で解けなくなってしまうことが予想されるので,安易に解答を鵜呑みにすることはリスクがあると思います.

自分の「わかったこと」と「わからないこと」をきちんと整理して,その上でTootsieさん解答を読み取ることが重要だと思います.自身の理解に関心を持つことが大前提です.どうしてもTootsieさん解答で理解できない点があれば,その原因は自分の理解不足や問題を読み取れていないこと,あるいは(非常に稀ではありますが)Tootsieさんの解答のミスです.

解けもしないし,Tootsieさんのアイデアを参考にしても理解できない問題に出会った場合,誰かに相談する,もしくは理論を学習することで理解が深めるべきでしょう.少し勉強し直して,もう一度チャレンジすることで,対処できるようになることが多いだろうと思います.

このような学びの姿勢を教えてくださった『数学ガール』シリーズと結城浩先生には心から感謝しています.私にとって「学ぶことの原点となった本」と言えるかもしれませんね(東大SPH受験には一切関係ありませんが...).


2. 疫学理論の学習を早めに始めよう

※疫学と医学統計を勉強したい人向け.subjectに力を入れても,あんまりpayされないかも.

上で述べたように,批判的にTootsieさん解答を読むには,自分がある程度ものごとを理解している必要があります.subjectの問題に関しては,公衆衛生の知識と理論を理解していることが必要です.subjectの中で疫学と医学統計に力を入れたい人については,過去問を1周解いたあとに,疫学理論の学習を補強的に行うべきだと思います.私が理論の学習をきちんと始めたのは過去問2周目途中ほど,時期的には7月くらいでしたので,もう少し早くに始めればよかったと思っています.

理論をある程度理解することで,問題の意図を把握できるようになりますし,問題を解くことで理論の例を確認することにもなります.闇雲に過去問を解くよりも,一度理論に触れることは重要だと個人的に考えています.特に健総生であれば,講義を通じてすでに理論の基礎の基礎に触れているため,少し追加で勉強してもさほど時間はかからないはずです.

私が勉強した(勉強し直した)トピックは以下です.

効果の指標
割合,比,率の意味.
リスク,発生率,ハザードとそれらを近似できる条件.
寄与危険割合と集団寄与危険割合.

 ・研究デザインと効果の指標
研究デザインと適合する効果の指標.
2×2表のリスク差,リスク比,オッズ比の解釈.
生存時間解析と発生率・ハザードの関係.
コホート研究とケースコントロール研究の長所と短所.
ネスティッドケースコントロール研究とケースコホート研究について.

 ・反事実モデルとコントロールの選択
基本的事項のみ(Exchangeabilityなどは受験期にあまり触れなかった)

交絡の古典的定義(必要条件)
交絡に見えて,交絡ではない事例も説明できるように.医学・疫学的知識が重要.(DAGは触れていない)

 ・交絡の制御
研究デザイン面から:無作為化,限定,マッチング
統計解析面から:層別化,標準化,回帰
ただし,ケースコントロール研究のマッチングでは交絡を制御できない.

P-value functionとP値の考え方

 ・情報バイアスとしての誤分類
"differential misclassification" と "non-differential misclassification" の違い 

層別解析とMantel-Haenszel法
層別解析をする際のMantel-Haenszel法の考え方.
計算方法として,既出のリスク差,リスク比,オッズ比に加えて,発生率比と発生率差も

講義資料と『ロスマンの疫学』を中心に勉強しました.(健総生の方,「生物統計」と「疫学」の講義資料は大事ですよ!!!)
加えて中澤港先生(2019/09/08現在,神戸大学教授)のwebサイトをよく参考にしました.

『ロスマンの疫学』だけでは私にとって難しい点も多かったので,単語ごとに追加で調べることもよくありました.なんとなく記憶に残っている資料は次の4つです.どんどんマニアックになっていきます.

疫学用語の基礎知識
日本疫学会.『わかりやすいEBNと栄養疫学』と合わせて,疫学用語を調べる際に辞書的に使用.

薬剤疫学研究入門 そのデザインと解析 ―製薬企業の臨床開発部門で働く生物統計家のために―
日本製薬工業協会.研究デザインと効果の指標の勉強のために,『ロスマンの疫学』と合わせて使用.

・生存時間解析,比例ハザードモデルについての『医学統計勉強会
東北大学大学院医学系研究科EBM開発学寄附講座による勉強会資料をwebサイトで拾って参考にしました.SPHの試験ではあまり問われていないが,生存時間解析,比例ハザードモデルを扱った講義の復習として使用.

小松裕和, 鈴木越治, & 土居弘幸. (2009). 臨床医のための疫学シリーズ: 地域中核病院で行う臨床研究 第 4 回 バイアスの考え方, 結果の解釈の仕方 (疫学各論 3). 日本救急医学会雑誌, 20(9), 794-800.
subjectの医学統計で2回登場した誤分類の勉強に使用.これと『ロスマンの疫学』を一緒に.このシリーズは結構わかりやすかったように思います.

いろいろ手を出しましたが,こういう勉強を始めると本当にキリがないので,適当に目処をつけるのも大事ですね.

長々と述べましたが,ここの章には大きな限界点があります.冒頭にも述べたように,subjectに時間を費やして勉強するのは割に合わないかもしれないことです.なぜなら,subjectはたかだか80点しかないので,あまり大きな差がつかないと予測されるからです.英語が強い人は,subjectの常識問題を解くだけできっと合格できるでしょう.例えば英語で8割(144点)取れるなら,公衆衛生一般で20点,統計15点,小論文20点でも,すでに合計199点です.極端な話,subjectが0点でも合格するかもしれません.

しかし,英語に限界を感じる人であれば,疫学や医学統計の理論の勉強をすることは理に適っていると個人的に考えています.

3. 英語をざっと読むのではなく「精読」しよう

英語についても,Tootsieさんの解答を批判的に読むには,丁寧に英文を読み解く必要があります.なんとなくざっと読むだけで正解できる問題もありますが,それではTootsieさんの解答に対して批判的に触れられません

「どうやって考えれば,この選択肢1つを解答として選ぶことができるのか?」,「下線部を説明するには,どの要素を組み合わせることが求められるのか?またその要素をどう見つけるべきだろうか?」,「タイトルの名付け方は,どう考えれば最適の答えになるだろうか?」といった問いを自身に投げかけながら,丁寧に読み解くことを心がけました.

Tootsieさんのブログにある通り,「問題文の細かい言い回しやニュアンスと解答の整合性や微妙な計算まで僅かなミスでも見逃すまい!とばかりに隅から隅まで目を通」すことが重要だと,私は思います.

(当時は質問箱で質問する人の中の1人でした.その節は大変お世話になりました.本当にありがとうございました)

4. 過去問を解くときは時間を測ろう

これまでをまとめると,私は理論の把握や英文の精読などを重要視しており,私が「丁寧に問題を解きたい」と考える人間であることは,みなさんご承知のことかと思います.

とはいえ,試験では時間を無制限に使えるわけではありません.問題を解くときは時間を測り,どれくらい時間がかかるかを把握しながら勉強をするべきだと思います.私はあまり時間を気にせずに勉強していたので,当日はちょっと焦った場面もありました

特に,subjectでは電卓が使用できないので,計算に苦労する問題だと焦ってしまいます当日,私は予防医学の問題で思ったよりも時間がかかり,結構焦りました.自分がどれくらいの処理をできる人間なのかを把握することは重要だと思います.

5. 英語とsubjectの大問ごとにタイトルを付けよう

英語とsubjectの大問について,どんな問題なのかを一言でタイトル付けするだけです.例えば,2020年入試(私が受けた試験)英語の大問4であれば,"Patient and Public Involvement" のようなタイトル付けを行うことです.これを10年分まとめることで,問題の方向性をきちんと明示し,その上で準備を適切にできるようになると思います.

私はこの作業を8月に入ってからしましたが,もっと早くにしておけば対策の勉強をスムーズにできたのに,と感じました.過去問を1周したら,すぐにしても良い作業だろうと思います.後になって考えてみれば当然すべきことなので,他の人は当たり前にしていたことかもしれませんが...


6. おしまい

以上5点が私の反省点であり,もう一度受験するなら心がけたいことです.目新しいことやLifehack的なものはないですね.当然のようにやってらっしゃる方も多いことと思います.
とはいえ,何をどうやって勉強するかを試行錯誤している時間がもったいないと思ったので,このようなまとめを作成しました.勉強したいトピックや勉強方針の参考になれば,幸いです.

私が勉強したこと・考えたことのまとめは,前回の記事と今回の記事の2つで終了です.お読みいただいた方,大変ありがとうございました.

大変な受験勉強をこれから始める(すでに始めている方もいらっしゃるそうですね)方を,心から応援したいと思います.




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