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ほぼ漫画業界コラム55【漫画家はどこと仕事をするべきか?】

電子コミックの市場拡大と併せて、漫画家の取引先がずいぶん増えました。大まかに4つに分けます。

1. 出版社系編集部
2. 電子書店系編集部
3. 編集プロダクション(フリー編集者、エージェント会社含む)
4. 漫画(WEBTOON)制作会社

他にも漫画家を募集している所は多く、漫画家の皆様はどこで仕事していいか分からなくなりますよね。とりあえずそれぞれの特徴と、そこで取引するメリットデメリットを書いてみましょう。

1. 出版社系メディア

漫画雑誌やアプリを含む出版社の編集部です。漫画家の王道コース。こちらで仕事をするメリットを書いてみましょう。まずは紙の雑誌や単行本が出ること。歴史がありブランドがあるので、作家として箔が付くこと。古い出版社は他メディアとの連携が強いため、アニメ化や映像化の可能性が高いことなどでしょうか。作品が大ヒットした場合、知名度などは爆発的に広がるでしょう。その反面、作家の競争率が高いこと。また印税料率、二次使用料などがガッチリと固められていて交渉の余地がないこと。あのアニメ化作品の漫画家が思ったほど稼げていないことは珍しくありません。

2. 電子書店系メディア

最近増えてきた電子書店系メディア。ここで仕事をするメリットもあります。まず、こちらは原稿料、料率や各種権利については完全に決まっておらず交渉の余地があること。また出版社や取次などが間に入らないため、作品がヒットした場合の収入が出版社系編集部より多くなる可能性が高いことです。反面、紙の本が出ない。メディアミックスの可能性が低い。メディアミックスしても広がりにくいというデメリットもあります。また読者数が少ない小さな電子書店は売上も知名度も上がらない可能性が高いです。

3. 編集プロダクション、フリー編集者、エージェント

自前でメディアを持たず、出版社や電子ストアの間に編集者が入って作品を作る所。フリー編集者と組む場合もこれになります。まずメリットは1、2に比べて競争率が低い所です。また自社メディアがないため、作る作品に制限がなくジャンル等関係なく受け入れてくれる可能性が高い。反面、自社メディアがないということは結局は1、2の下請けになるため、よほどの交渉力がない場合は中間マージンが発生して売上が下がります。ただし出版社も電子書店も自社のリソースを使う必要がなく作品ができるため、好条件で契約しているところもあります。その場合、1、2と変わらない条件で仕事できることもあります。

4. 漫画制作会社

弊社もこれになります。いわゆる分業体制で漫画やWEBTOONを作る時代になって生まれた新しい会社ですね。これらの会社は漫画家さんと同じ創作者として作品を作るパートナーということにもなります。こちらに関してのデメリットは、まず権利関係がまだ議論し尽くされていないこと。契約書をしっかり見て自身の権利がどれぐらい保護されるのか確認しておきましょう。また制作能力に差があるため、その会社が過去にどのような作品を作ってきたのか、それが売れているのかをしっかり確認する必要があります。強い作品を量産している所は電子書店と有利な契約を交わしていることが多く、それはパートナー漫画家の売上にも貢献します。

とりあえずこのコラムを読んでいる皆様のほとんどは1、2のどれかを目指していると思われます。3、4も今後の可能性は大きいのですが、属人性が高くピンキリなので今回のコラムでは触れません。次回以降に。(コラム2回分のネタも確保できるw)

では“出版社系メディア”と“電子書店系メディア”と、どちらと仕事をすればいいのでしょうか。僕は、作品内容と契約内容と担当編集との相性の3つから総合的に決めればいいと思っています。弊社は漫画制作会社=漫画家でもあるので、作品によってあちこちに卸しています。

ただ、“出版社系メディア”と“電子書店系メディア”、これらの二つは既に競合関係にあるという事を前提に仕事をすることがこれからは大切だということです。以前から出版社の編集者様達が言う【出版社系アプリ】【雑誌系アプリ】という表現が気になっていました。皆様それらをコミックシーモア、LINEマンガ、ピッコマを筆頭とする【電子書店系メディア】と切り分けて考えているようです。なぜか【雑誌系メディア】と【書店系メディア】は別物で競合関係にない、対立関係にないと言っている人もいます。本当にそうでしょうか?

確かに数年前はそうだったでしょう。電子書店から生まれたアプリには、基本全ての版元の作品が載り、出版社から生まれたアプリにはその版元の作品が載る。そうやって棲み分けが出来ていました。ですが、もうその座組みはとっくに変わっています。各種電子書籍ストアは自前で編集部を持ち始め、その書店でしか読めない作品が激増しています。そのオリジナル本数の数は、いわゆる出版社系アプリよりも多くなってきています。

さらに各電子ストアの売上差が徐々に開き出しました。それらの売上差をもたらしているのは広告費も含めたマーケティング力。そして各電子ストアのオリジナル作品、もしくは先行販売作品の差になってくると思います。昔、ジャンプなんかでやっていた「〇〇先生の作品が読めるのはジャンプだけ」を各電子ストアがやるようになったのです。つまり既に雑誌系アプリとか書店系アプリとか関係なく、全てが横一列の電子コミックメディアだということになります。つまり、とっくに両者は競合関係です。

となれば漫画家さんも、横並びで各種メディアを見るべき時代になったと思います。原稿料、印税、原作使用料、ユーザ数やマーケティング手法まで、しっかり見るべきです。担当編集の質から何やら全部比較して見ていきましょう。僕は出版社最大のメリットは紙の単行本だと思っています。それらも含め、総合的に見ていくべきです。漫画家さんも自分の作品が明らかに紙の単行本が出ない、もしくは出しても売れないと思うのならば、出版社と取引する必要性は大きく減ると考えていいでしょう。

ちなみに横並びである以上、読者数が多いメディアが有利です。先日、LINEマンガの『入学傭兵』がLINEマンガ単体で月間2億の売上を達成という記事が出ていました。月間2億。アニメが超ヒットした作品が、日本中の全ストアで達成する月間売り上げにも匹敵します。しかも作者(制作会社)には出版社や取次の介在なしでインセンティブが発生するでしょうから、作者に入る金額は…まあ、とんでもない額です。10年前は考えられない数字です。他にもコミックシーモア、ピッコマ、アムタスさんもほぼ変わらない規模ですので、その中のオリジナル作品TOP層の漫画家はそれだけの収入を得ている可能性が高いでしょう。

ただ今後電子書店系メディアが成長するためには、やはり紙の単行本の問題を考えるべきです。小さくとも出版機能を持つことをお勧めします。お金だけじゃないんです。憧れも満たしてあげればより創作者は集まるでしょう。

それに対して出版社側も変わるべきです。70年近く出版社と漫画家はほとんど変わらない契約でやってきました。原稿料も印税率もその他条件も何十年もほとんど変わっていません。それが許されたのは出版社側がプラットフォームを抑え、自由に価格設定できてきたからです。電子書店の台頭と、海外資本の漫画市場参戦により、漫画業界は以前とは変わりました。過去の条件のまま漫画家との関係を続けることはもう出来ないと思います。各種条件を柔軟に見直し、フェアな条件提示をする事が必要でしょう。逆に漫画家側も譲歩する必要も出てきてもいいかもしれません。昔議論された、出版社の著作隣接権の問題も再議論してもよさそうです。


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