ほぼ漫画業界コラム180【編集部はネーム代(企画代)を払うべきか】


はい、頂いたお題です。お題ありがとうございます。助かります。編集部は企画代、ネーム代を払うべきか?

この場合のネームとは、作画の工程にあるネームという意味ではなく、企画会議に出したネーム、すなわち企画そのものという意味だとお考えください。

担当編集者と作者が打ち合わせを重ねて練り上げたネーム。作者も担当編集も自信がある。しかしながら編集会議で落ちてしまった場合の話です。

私は編集者、編集長、作家と3つの立場でこれを全て経験しているので、それぞれの立場で答えられます。私も編集者を始めたての頃、これが何度もありました。

作家さんと時間をかけて作った企画が、会議でボロクソに言われて通らなくて泣いたこともあります。上司たちを恨みましたね〜。

まあ、私は社員としてお給料を貰っているので良いのですが、そうではない漫画家さんはもっと大変です。当時は大変申し訳ないと思いました。ただ、基本的に自分がネームを見ているのは、自分が担当している連載漫画家さんのアシスタントさんだったので、その人たちが食うに困るという状況にはありませんでした。当時は徒弟制度が機能していたのですね。

その後、編集者としてのキャリアがついてくると、そもそも編集会議で落ちることはゼロになりました。自分が出来ていると思ったネームは確実に通ります。実際に編集者としてのスキルも上がっているし、編集部からの信頼も上がっているからです。そして、自分が編集長になった頃には、はっきり分かりました。編集会議に通らないような企画は出してほしくないと。

つまり全ては会議に通らないようなネームにOKを出した担当編集が悪いのです。しかし、編集者だって最初は皆素人です。このようなたくさんのボツネームを編集会議に出して磨かれていくという側面もあります。これが古い出版社の編集者教育システムなんですよね。

ただし、漫画家さんの立場からすると、たまったものではありません。自分たちが編集者教育用の練習素材にされているようなものです。でも、当時は誰もそれがおかしいとは思っていませんでした。だって、それが当たり前だから。期待の作家さんに専属契約料や連載準備金で生活を保証することはあっても、ネーム代という形で企画を買い取る発想はゼロでした。

時は流れ、私も作家の立場で編集部にネームを出したことがあります。昨年も某編集部に某漫画の企画を出しました。担当編集は絶賛してくれましたが、編集長が反対でした。はい、ボツです。悔しかったですね。

でも、その作品は現在他の媒体でしっかりと連載しており、売れています。その編集長が見る目がなかっただけです。で、思ったんですが、今のままでいいんじゃないでしょうか。

作家側の立場で考えれば、出版社の編集者という高い人的リソースを使って一緒に企画を考えてもらえる。中には原作を書いてくれる編集者もいます。にもかかわらず、出来た作品の著作権は全部自分のものになるんです。その編集部がいらないというなら他の編集部に持っていけばいい。これが作家の権利であり、得なところです。日本は恵まれていると思いますけどね。ネーム代を払ってもらったりしたら、その企画をホールドされます。それは嫌ですね、私は。

もちろん最初からゲームや小説のコミカライズの企画でネーム依頼してきたのに、いざネームができたら、ダメだと言って払わない悪徳業者もいますが、それとは別の話です。今回はオリジナル作品限定の話なので誤解なきよう。

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