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簡単な仕事

「はぁ、はぁ」

俺は、走りながら数時間前のことを、思い返していた。

〇 〇 〇

ネットの掲示板で見つけた、“簡単なお仕事”。
リストラされて、路頭に迷っていた俺は、日給を見てすぐさま飛びついた。

300万円。

この依頼を引き受ければ、300万円が手に入るらしい。

怪しい仕事だろうというのは、覚悟していた。
だから雇い主からのメールで「この双子の男児を、誘拐しろ」と指示されたときは、むしろ安堵したほどだ。

レンタカーを用意し、小学校から下校中の双子に声を掛ける。
メールで指示された言葉を使うと、なんの迷いもなく2人は車へ乗り込んだ。

指定された廃工場まで車を走らせ、指示された場所で雇い主を待つ。
双子は泣き喚くかと思ったが、人形のようにおとなしい。

…妙だ。
約束の時間になっても、雇い主が現れない。

イラつく俺に、双子の1人が「家に、帰りたい」と言い出した。
最初は無視していたが、あまりに騒ぐので、俺は思わず殴りつけてしまった。

これまでどれだけムカついても、誰かを殴ったことなどないのに?
俺は自分自身の行動に、ひたすら戸惑う。
そこへ…畳み掛けるように、もう1人が俺を非難する言葉を浴びせた。

それが腹立たしくて、腹立たしくて…相手が小学生だということも忘れ、俺は2人を殴りつけた。

「はぁ、はぁ」

息が切れて、手の拳の感覚も無くなった頃。
ただ殴られるがままになっていた双子が、ゆらりと立ち上がった。

「もういいかな?」

「もういいよね?」

「これだけ殴られたもんね」

「血もいっぱい出ちゃったしね」

「正当防衛が成り立つね」

「僕たちは、カワイソウな被害者だ」

双子は、床に転がっていた鉄パイプをそれぞれ手にすると、子どもとは思えない笑みを浮かべる。
そして綺麗なユニゾンで、こう言った。

「逃がさないよ」

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