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【ゆく年くる年】劇団がVRゲームをリリースするまで

今年、コメディアスでは本公演『KEY LOCK』に連動したVRゲームを作りました! ゲームが形になるまでには紆余曲折あり……。VRゲーム開発の裏側を、スタッフとの対談形式で紹介します!(記事:萩原ぎんいろ)


こんなメンバーで作ってました

対談はVRChat上の居酒屋ワールドで行われました

Aire:お酒も飲みつつ振り返りもしつつ、ゲームワールドのことを振り返っていければいいかなと思います。
あ、そうだ自己紹介を。ディレクターをしてました、鈴木あいれ(Aire)です。

Senritz:謎解きシナリオの監修と、VRゲームワールドのシナリオ として参加させていただきました。Senritzと言います。よろしくお願いします。

Tosiakix: えー今回は美術担当ですね。ワールドの基本的なビジュアルとかを作ってました。

のりたま:今回のゲームワールドでは、ワールドギミック全般お手伝いさせていただきました。のりたまです。よろしくお願いします。

最初はおまけのつもりで走り出した

Aire:このメンバーと、アイテムとかをモデリングしてくださったハチドリ_さんを加えて5人が中心的な開発チーム だったんですけど、ゲーム作るのが初めてだったんで、何人集めたらいいのか、何にもわからないまま船を漕ぎ始めて。
まあ、Tosiakixさんはもうコメディアスと一緒にやっていただいてだいぶ長いので、ワールド作るならTosiakixさんを巻き込んどこうっていう話がまずあって。そのあといくつか個人でゲームワールド出してて、 色々ボードゲームで一緒に遊んだりしたことがあったSenritzさんにもお声がけしたっていうのが、いちばん最初の最初…… 3月とか。だからもう9ヶ月前とかか。

Senritz:ま、ゲームワールドと言っても、アセットとかを使った謎解きだけだったんですけど。逆に大丈夫かなと思いつつ、でもゲームワールド作ってみたいっていつも思ってはいたんで、声かけてくださって本当に嬉しかったですね。

Aire:なんか劇団の会議で私が(VR向けの広報の一環で)ゲームワールドを作るといいと思うみたいなことを言ったんですよね。 ただそん時のみんなのリアクションは「ほぉ……?」みたいな感じで。(笑)
全然イメージが伝わらなくて……だから数字があるといいなと思って。

Aire:で、Senritzさんのワールドが Visit(来場者)が7000とか8000とか行ってるんだよみたいな話をすると、なんか劇団員の食いつき割と良くてですね。ゲームワールドってそんなに人が来るんだ、 すごいねという感じになって。それならやってみてもいいんじゃない?みたいな感じになり、という流れがあったんですよ。

Senritzさんの謎解きワールド。今見たら1万visit目前に。

Aire:最初はどっちかっていうとゲームワールドというよりも、演劇の世界観を楽しめるワールドで、ゲームがおまけでついてますよ、ぐらいの感覚で走り出したんですよ。ただ、原作の『KEY LOCK』がマグネットお絵描きとかテープレコーダーとか色々アイテムが出てくるけど 、VRだとほぼ実現できるやつがあんまないよね、みたいな話になっていって。結果、カメラに話を絞ろうっていう話になったんですよね。で、誰かカメラ作ってた人いたなって調べて、出てきたのがのりたまさんだったんですよね。

団内会議のメモ。どのアイテムならVRChatで実現できるのかを書き出しているが、カメラとマグネットおえかき以外全部「?」と書かれており、あまり意味をなしていない。

のりたま:そう、それ!本当になんの接点もなく、いきなりDMが来て(笑)そっから色々あって、カメラを提供するんじゃなくてもうなんか丸ごとやりますよ、みたいな感じで話が進んでいって。

Aire:VRChatで会ったことない人って、どんな感じの人か全くわかんないじゃないですか。なんだか、めちゃくちゃ緊張してDMを送ったんですよ(笑)断られちゃうかもとかって思ったら、いやいや全然やりますよって感じで、 関わってくださって。

のりたま:そうなんですね(笑)

Senritz:こんなあっさり協力していただけるとは最初は思ってなかったですね。面識とか、話したこともないですし。

Aire:うんうん。

のりたま:いや、タイミングがめちゃくちゃ良かったんですよ。
ちょうどこれの前にVR演劇の『Typeman』*¹を見て、めちゃくちゃ演劇やりたいモードになってたというか、VRでそういう表現やりたいよねって頭になってたんで。チャットで演劇の再現ワールドをやりたいって言ってきて、よしこれ来たこれってすごいやる気になってましたね(笑)

カメラに色々能力が足せると知って、ゲームのイメージが膨らんだ

Aireのりたまさんが入ってくださったっていうのが、もうめちゃくちゃ大きな転換点 だったと思ってて。最初は全部Tosiakixさんに作ってもらうつもりだったんですよ。今考えると何を無茶なことをっていう話ではあるんですけど(笑)
のりたまさんが割と早めのタイミングで「カメラ使って撮った場所にワープするとかできますよ」みたいなことを話してくださって。そこでカメラに色々能力足して、パワーアップしていくみたいなことができると思って、ゲームのイメージがだいぶ膨らんだっていう感じでしたね。

ギミックのアイデア出しの様子。
当初ディメンションカメラはぽいぽいカメラという名称で呼ばれていた。

Senritz: うんうん。その前までは、撮った写真で直接何かをするっていうアイデアはなくて。どっかで写真を撮って、その写真を共有するか、その写真を持って別のところで活用するか、情報の保存手段としてだけの発想だけだったんですけど。のりたまさんに協力してもらって、写真で直接何かできますよってなって。もう一気に変わっちゃって。ほんと、それがいちばん大きいですよ。

Aire: 大きかったですね。

のりたま: 話を受けて、色々カメラでなんかできないかっていいアイデアとかを出してる途中とかで、前の『KEY LOCK』の公演を見たんですよ。

Aire: はいはいはい。あの、初演のね。

のりたま:そうそう。で、まあ、やっぱそん中だと、カメラってあくまで一部の機能だし、 やることは写真撮るだけで、あとはそれに紐づいて周りの人がどうどう面白く動くかっていうだけの話なんですけれども、これ(のりたまさんのギミックとは)だいぶ違うけど、大丈夫? みたいなのがうっすらあって(笑)ただやっぱり、こっちとしてもね、ギミックでなんか面白いことやりたいっていうのはあるから、どんどん出してったんですけど。なんか、その転換って大丈夫だったんですか?

第6回本公演『KEY LOCK』より。
演劇のほうではカメラはあくまで複数あるアイテムのうちの一つ。
そのなかでは圧倒的な強さを誇っている……ので、謎解きが得意でない武長に装備させた。

Aire: いや結局、演劇は見た人がいちばん楽しい状態を作るのが正解なのと同じで、ゲームは体験をしてくれた人が面白かったって言ってくれるのがいちばんだって思ったんですよ。いつだったか、のりたまさんがギミックのプロトタイプを3つ作ってきてくださった日があったじゃないですか。

のりたま:うんうん。

Aire: ワープカメラと、マイクカメラと、ディメンションカメラを持ってきてくださって。それでこのメンバーで集まってのりたまさんの試作ワールドで遊んだ時に、あ、 これは絶対面白いねってなったんですよね。私、それよく覚えてる。

のりたま:へー!

Aire: これはスプラトゥーンの開発者の話*²を借りてくるんですけど、新しいものを生み出す時にプログラマーっていうのが最強だっていう話をされてて、まさにこれがそうなんだって思いました。作ってきましたよ、どうです、面白いでしょ?っていうのが、ポンってあったら、もう頭の中で考えただけのものよりこれやろうよってなっちゃう。

のりたま:(笑)

Aire:絶対これがいいってなった、そん時。

Senritz: うん。

のりたま: いや、よかったですよかったです。まあ、結局プロトタイプとか作って見てもらわないと話進まないみたいなところはよくありますね。

のりたま: 全然今回の『KEY LOCK』とは関係ないんですけど、やっぱりプラットフォームとして面白いんですよね、VRChatって。なんか思いついたでワールドを作って置いてみようとか、 アバターギミックもそうですけど、ワールドでなんか作って置いてみよう、誰かに見てもらおうってやると、面白いっていう反応もする人もいれば、こうやったらもっと面白くなるとか、色々意見もらえたりするんで。それがね、いい方向に転がったのかなって。

Aire: まさにそうだと思います。なんかこう、 アジャイル的に作りやすい環境だなっていうのがあって。のりたまさんがこういうことできますよってポンと持ってきてくれたものに対して、「あ、これだったら落とし穴作ってそっから出てくるっていうのにワープ使ったらいいじゃん」とか、モノがあることで発想が2段、3段先に進めたので。そこが良かったですね。

のりたま:ありがとうございます。まあ、やってて楽しかったですから色々。大変でしたけど(笑)

潜在的なストレスを解消するギミック

「ストレスを気持ちよく解消する」という観点から、ギミックについて話し合った際のメモ。

Aire:……このギミック3つって、確かVRChatにある不便なことをどんどん解消していけるようなギミックにしようっていうコンセプトがあったんですよね。例えばワープカメラだと、広いワールドで長距離移動すんのめっちゃだるいよねっていう発想からですし、マイクカメラだとゲームワールドでどんどんみんな遠く行っちゃうと会話できなくなって、せっかくみんなで来てるのに全然楽しくないよねみたいなところで、マイク遠距離で会話できたらいいよねみたいな話とかがあって。

のりたま:うんうん。

Aire: この2本はゲームワールドで不便なことをこう楽しく解消していこうみたいな、ストレスを楽しく解消しようみたいなところから生まれたアイデアだったなっていう風に思いますね。

のりたま:そうでしたね。 最初は大変だけど、後でカメラ使って能力手に入れていくとどんどん楽になると、なんかカタルシスというか、そういうのあっていいよねって話はしましたね。

Aire: あれなんすよ、『Half-Life: Alyx』*³あるじゃないですか。あれがグラビティグローブっていう能力が最初に手に入るじゃないですか、遠くにあるものを、ぎゅんって引き寄せられる。 あれがもう、まさに発明だっていう風に当時2020年、すごい言われてて。地面の近くにあるものがすごい取るの大変だったりとか、遠くにあるものをしっかり取るの大変だったりするっていうVRゲームの潜在的なストレスをアイテムっていう形で、もうめっちゃ気持ちいい形で解消したっていう。なんかこう、ゲームシステムが根本的な問題を解決しているっていうところがあって。今回のゲームワールドでも不便さを楽しく解消できたのが超良かったなって思いますね。

楽しく遊んでもらうためのビジュアルデザインとは

Aire:ギミックとの組み合わせという面でもTosiakixさんのワールドの作りが今回もすごい良かったなと思って。もうめっちゃ細かい話なんですけど、ディメンションカメラの写真を入れる穴をすり鉢状にされたじゃないですか。写真を入れたくなる作りみたいな。プレイヤーに行動を促す作りになってたのは、さすがだなって思いましたね。

写真を落としてみたくなるすり鉢状の穴。

Tosiakix:よかったです。

Senritz:すり鉢ってAireさんから指示出してなかったところなんですよね?

Aire: すり鉢にしてみたいなことは1回も言ってなくて、最初からすり鉢だった。

Senritz: うん、すごいと思って。あと、ワールドの作りなんですけど、部屋と部屋の間を移動するときに、廊下があるじゃないですか。廊下の中暗いんですけど、向こうの部屋の光が見える感覚がもう絶妙で。

Aire: あれ、すごいですよね。

Senritz:Aireさんにも何回か言ったのは、ホラーが好きじゃなくてもちょっと安心できるようなものがあればいいなと思って。

Aire:怖くしないでくれっていうのを、(Senritzさんは)初期からずっと言ってて(笑)

一同:(笑)

Senritz:そう、私みたいなホラー苦手な人たちは暗い通路が長々続けば、 不安になっていくんですね。でも、ちょっとこれ無理かもってなる直前に、 向こうの光が見える感じだからすごく安心できたし、何部屋か進むと慣れて大丈夫になっていくのがすごい印象的でした。

入り口からは奥が全く見えないが、少し進むと次の部屋の明かりが見える。
この不安感のさじ加減が絶妙だった。

Tosiakix:廊下の距離と暗さは全部Aireさんの指示だったと思います。

Aire:いや、私は別になんとなくでしか指示出してないというか。あんな演出を意図して指示出してなかったから、なんか適当に私が言ったことをちゃんと意味のある形で実装してくれるのがめっちゃすごいって思った。あ、ちゃんとワールドクリエイターなんだなっていう(笑)

Tosiakix:ありがとうございます(笑)

Aire: Tosiakixさんの作るものって、あの、ちゃんと物理法則にかなってるというか、メカニズムが全部あるんですよね。それがすごいって言うと平たい言葉ですけど、美術の人なんだなって思ってて。要は、VRChatだったら、どんなありえないものでも作れちゃうじゃないですか。でもTosiakixさんの場合、例えば扉だったらここの部分が回転して、この部分は上に張り付いて上がっていって、ここにガラスがはまってるから、ここの淵がこう太くて……みたいな、現実でもちゃんとあり得そうな構造になってることが、結構プレイヤーのワールドに対する安心感っていうか、信頼感か。ちゃんと作ってるんだなっていうのをすごく演出できてたなって思いますね。あと、あれもそう。モニターからケーブルを垂らして、そのケーブルを、この壁の下の隙間に合わせて奥にやってたじゃないですか。

ガラスがはめ込まれた扉と、モニターから垂れるケーブル。
ケーブルは壁の溝から奥に配線されていて、その向こうを想像させる作りになっている。

Aire: モニターにケーブルなんか必要ないんですよね、VRChatだから。 垂らしたケーブルを壁に穴開けて突っ込んどけばいいものを、ちゃんと壁の隙間の溝みたいなとこに垂らしてっていう。プレイヤーがワールドを見た時にこれどうなってるんだろうって考える好奇心を裏切らないというか、無駄にしないみたいなところは、すごくいい演出になってたなって思ってます。

Tosiakix:そうですね。意図がわからないけど空間の中では何か意味が用意されてるものっていうのがあって、誰かが何かしら作業して設置したものなんだよなっていうのがあって。結局誰かの財物だったりするので、人がいるというか、手を加えたというか……なんて言ったらいいんでしょうね。人が何かしらそこで何かしてたんだっていうを考えながらやってました。

Aire: なんか、歴史みたいなことですよね。「そのモノの歴史」みたいな。

Tosiakix:そうですそうです、はい。

Aire: そうこれ。この話、ほんとに現実の舞台美術の人と話してほしいって思うぐらい 目線がかなり舞台美術っぽいんで。舞台美術もほんとは木で全部作ってるし、出来立てほやほやだけど、ここに溝があるからここに水が垂れて、ここはカビっぽくなってるんだみたいなことをちゃんと考えて汚しをかけたりとか。なんかこう、どういう歴史でこのものが今ここにあるんだっていうのをすごく大事にする人たちなので、舞台美術の人って。 そこと、多分相性がいいと思う。

Tosiakix:ありがとうございます。

第4回本公演『段差インザダーク』より、汚しを賭けている途中の舞台装置。
溝や角は湿気がたまるのでコケが生えるだろうとか、側面は汚れが少ないだろう、などなど話しながら作業をした。

Tosiakix:最初ワールドの1部屋と廊下1つだけ作ってって言われた時に、確か廊下が真っ直ぐだったと思うんですよね。

Aire:めっちゃ最初っすね。

Tosiakix:最初にビジュアル作って見せて欲しいって言われた時に、確か地下鉄の廊下風だったんですよね。今は話題になってるゲームの『8番出口』と被ってる感じだったんですよ。ポスターも置きたいなとか言ってたんですけど。

Aire: いや、そう!『8番出口』*⁴が出た時に、あ、これTosiakixさんが作ってたじゃんってね。

Tosiakix:黄色いでこぼこしたタイルとか足元にあって、そのイメージでやってましたね、最初は。

Tosiakixさんが最初に作った『KEY LOCK』の部屋。こうしてみると完全に『8番出口』。

ルーズなデザインにしたい

Tosiakix:(ゲーム開始直後に)2チームに分かれるみたいな案もありましたよね。

Aire: そうそう、2チームに分かれるっていう案がね、割とボツになるまでは長かったですよね。いちばんの理由は、みんなに活躍の場を与えたいって思ったのが大きかったんです。ゲームワールドって、割と得意な人がこうスイスイって行っちゃって、後の人はついていくだけみたいなになってしまいがちなところをなんとかできないかと思ってて。
(2チームに分ければ)「そっちから来た人は知らないと思うけど、僕これ知ってますよ」みたいなお互いの情報の差異があって、「どういうことどういうこと」っていう形のコミュニケーションが発生するかなと思ったんですけど。2チームに分けるとか、あとはそれぞれで手に入るギミックを変えようみたいな話をしてたんですけど、多分それはむちゃくちゃ複雑になっちゃうし、みたいなことで結局断念したんですよね。

2チームでの攻略を検討していた際のメモ。
カメラも2台ありそれぞれ別の能力が付与されていく構想があった。

Aire:ただコミュニケーションが発生するゲームっていう点では、ものすごいうまくいきましたよね、最終的に。

のりたま: やっぱ協力式にしたのは色々よかったのかなと。

Tosiakix:謎解きすら苦手な人はどうしたらいいんだろうみたいな話で、ありませんでしたっけ?筋肉で解決できないかっていうの。モニターに答えがあって、手回しで回しまくったらモニターがつくっていう(笑)

Aire: あったあった。筋力で答えが分かるような仕組みにしてもいいんじゃないかみたいなことを言ってましたね。そん時のからあったのは、やっぱり解き方を一通りにしたくないね、みたいな。割とルーズなデザインにしたいねっていうのは思ってましたね。

のりたま: ありましたねそんな話も。

Aire: なんか、こうやって解かなきゃダメなんだって限定されすぎると、開発者の意図を汲み続けなければならないみたいになって、ちょっと楽しくないかなって思ったんですよね。

Senritz: ですよね。あと、Aireさんと一緒に会議しながら思ったんですけど、開発者の意図通りだけに解決できるゲームは、VRChatっていうプラットフォームに載せるゲームではできないねっていうのもあったんですね。例えば、リスポーンとかもそうですし、 あとは、キャラクターに椅子がついてたり、もしくはワープとか、飛べる要素になってるとか、めっちゃ早く移動できるとか、そういうの色々あるんで。あと普通に、 ゲーム外のDiscord使って、一緒にゲームやったりすることも割と頻繁にあるんで、仕方ないことでもあったのかなと。

Aire: そうですね。 Discordは使わないでくださいとか、リスポーンは使わないでくださいとか、椅子のアバター使わないでくださいとか、いっぱい注意書きのあるワールドにしちゃうと、「えーせっかく友達と来てんのにワイワイしたいよー」とか「本気でやりに来てないしー」っていう人たちに優しくないんじゃない、って思ったんですよね。

Senritz: うんうん。

Aire:人数制限も推奨4人ですけど、結局8人まで入れるようにしてあるんですよね。そしたら、遊んでくれた人の写真見たら6人7人ぐらいとかで集合写真撮って。でも簡単すぎてつまんなかったとかじゃなくて、みんなで遊んで楽しかったみたいな感想になってるから、選択としては良かったんだろうなっていう風に思ってますね。

Tosiakix:リスポーンとか、普段からみんなが使ってる機能を禁止したら絶対ウケないだろうなって思ってました。

Aire:うんうん、そうですよね。レストランとか行って、先にこれやってから食べてくださいとか、こうしないとダメですよみたいなこといっぱい言われると、なんかもういいしってなっちゃうみたいな(笑)

のりたま: だから機能も最低限の説明分だけにして、とりあえずみんなでなんか使ってみて、探ってもらおうみたいなの、あれは良かったんじゃないかなっていう気がして。ディメンジョンとかも多分説明だけだと何もわかんないから、とりあえず人を閉じ込めてみようってなるじゃないですか。

フレンド閉じ込めて、持ち歩いて楽しかった

のりたま: それで、あー消えたみたいな流れとか、よかったんじゃないかな。やっぱ、ディメンジョンは色々言われるんですよ。あれ良かったって。

Aire:うんうん

のりたまフレンド閉じ込めて、持ち歩いて楽しかったみたいな

Tosiakix:あれ、すごい面白かった。

ディメンションカメラで撮られると写真の中に閉じ込められる。写真の中からは外の風景が見えるが、会話はできないので口封じにも使えてしまう。
(写真提供:craneさん)

Aire: 面白いっすよね。

Senritz:なんか、ワープとかマイクなんかは別のゲームでも割とよく見られるんですけど、写真にフレンド入れて持ち歩くとか、写真をどっかに送るとか、他のところにはなかったんで、発想だけでもすごく面白かった

Aire:ねえ!

Senritz:いちばん興奮したのはやっぱり実際に実装されたのを見たときで。

Aire:そう、あん時すごかったね!実際に撮られて穴の中に落としたり落とされたりして。もう1回落としただけでこれは絶対面白いって思いましたね。

Senritz: そうそう、仕組みって知ってても、実際見るのとまた違う。

のりたま: うんうんうん、やっぱ違いますよね。こっちも技術的にできるっていうのはわかっていて、もちろん最初に提案するときは何も作ってなくて、VRChatでなんか物を作るときに、こういうの使えばこういうのできるだろうなっていうアイデアベースで全部喋ってて。で、その中にもあったわけなんですけども。やっぱ作ると、あれ楽しいんですよね。

Senritz:うんうん

のりたま:あれ実はAireさんとかに見せる前に、何人身内の人呼んでテストとかしてたんですけど、やっぱあれ面白いんですよ。なんか喋ってるときに誰かがしょうもないこと言ったら、とりあえずその瞬間に閉じ込めるとか(笑)

Aire:そうそう!(笑)

のりたま:そういうコミュニケーションが、実際のワールドプレイでもあったら面白いんだろうなみたいな。誰かがあのギミックの解き方で全然とんちんかんなこと言い出したら、 ウィーンって閉じ込めるみたいな(笑)

一同:(笑) 

VR上でも友達に意地悪したい

Aire: この辺はちょっと近いなって思ったのが、あの、『Bの悲劇』の時に、持ち上げるギミック入れてくれたじゃない ですか。

のりたま:はいはい。

VR演劇『Bの悲劇』より。キャラクターを持ち上げる演出の為に、のりたまさんが作ったギミックが使われた。

Aire:あれに近いんですけど、VRChatって基本人をぺしんって叩いたりとか、できないじゃないですか。現実でできる意地悪が色々できない。でも仲のいい友達には意地悪したい、干渉したいっていう欲求は絶対みんなあって。
そこで持ち上げるギミックやった時に、「あ、これVRChatだけど、すごい干渉できてて面白いな」と思って。カメラも物理的に干渉して友達に意地悪できるっていうのがかなり面白いって思います。

のりたま:うんうん。

Aire:演劇も、意地悪できるようになってくると劇がかなりぐっと面白くなるんです。役者同士が仲良くなって、お互いに劇中に関係ない意地悪をしたりされたりするような関係性になると、コメディってすごい作りやすくなっていくんですけど。それと同じでVRChatでの意地悪ギミック、すごく面白いって思いますね。

のりたま:ねー。

Aire: 本当は写真をパイプに流すところも、便器に流そうって話になってたんですよね。

ワールド内の水が流れるパイプ。これがトイレになる可能性があった。

のりたま:ありましたね(笑)

Tosiakix:どうやって移動させようってなったとき、水に流すっていう発想が来て、 水ってどういう設備なんだろうって考えたら、俺がトイレって言ったんですよね。

Aire: そうそう。

Tosiakix:ホラー映画とかでトイレってよく出てくるじゃないですか。

Aire:うんうん。

Tosiakix:でも「いや、トイレばっちいからやめよう」ってなった(笑)

Aire: 結構ギリギリまで迷って!いや、今でも正しかったかどうかわかんない。トイレの方がウケてた可能性はあるけど。(ゲームの過程で)水が溜まってる部屋に行くじゃないですか。ちょっとトイレの水が溜まってる部屋は嫌かなって(笑)

のりたま:(笑)

6月頃の打ち合わせメモ。「トイレに流す」に下線まで引かれている。
8月21日のやり取り。「トイレに気づかなくてもクリアできる」「トイレ必須」などトイレを中心に議論が進められている。
8月25日のやりとり。急に我に返ってトイレは嫌なのではという話になっている。そりゃそうだ。

「ちょうどいい」より少しだけ難易度を下げた

Senritz:謎解きもそうですけど……ゲームって勝たないと面白くないっていうのあるじゃないですか。

Aire: うん、そうそう。うん。

Senritz: 難易度が低すぎるとダメでしょうけど、基本的にその、脱出とか解決が難しすぎてできないと、 もう面白さがないなと思って。うん。
で、今回の『KEY LOCK』とかは、もっとマニア向けではないんで。 だからAireさんと話す時も「これ難しすぎるんじゃないですか?」とか言っていた。「いや、これでいいんじゃない」ってなったんですけど、結果的に、Aireさんと私が考える「ちょうどいい」よりは若干(難易度を)下げましたね。

Aire:そこはテストプレイをやって、めっちゃ良かったと思いましたね。

Senritz: そう、うん。

Aire: テストプレイで90分超えぐらいの感じになってて。で、ちょっとこれは、思ったよりカロリー高くなっちゃったし、ちょっと途中で飽きてきちゃう感じが見て取れるなっていう風に思ったので。結構部分的にね、 難易度下げたり。
あとこれはハチドリ_さんですけど、パネルのところに刻印を彫ってもらったりして、「どの鍵がどの暗号に対応するか」みたいなところのストレスを減らしたりする工夫をして、だから結果的にクリア時の写真を見てると、短い人だと20分〜30分ぐらい、長い人でもまあ90分行ってる人はほとんどいないかなみたいな、まあ平均1時間ぐらいに収まったんで、それが結構いいワールドになったかなっていう風にはね、思いますね。

色だけではわかりにくいという指摘をうけ、暗号の模様を刻印するなどした。

Senritz: テストプレイやってみたら、(作った側の)想定通りに解決しない方がかなり多くて。

Aire: うん。全然意図に従ってくれない(笑)

Senritz: Aireさんは多分意図したかもしれないんですけど、私は最初リスポーンのことを一切考えてなくて。
で、テストプレイ見たら、 みんな普通にリスポーン使って早く戻るみたいな。あ、こういう手があったかって。
いろんな解決のやり方がある仕掛けのうち、半分くらいは意図してない部分もあったと思いますね。

Aire: あの同時押しのやつ、マイク使わなきゃいけないころでずっと連打で、写真を連打することでタイミング合わせようとする人とか……。

のりたま: それこそパワープレイでね(笑)


Aire: いや、それはね、いいんすよね。結局楽しかったら(笑)

今後やりたいこと

Aire: 最後になんですけど、やりたかったけどできなかったこととか、次作るならやってみたいこととかがあれば。

Senritz: これは、やりたかったけどできなかっただだけのあれなんですけど……、最初のワープカメラって撮った写真の位置に移動する仕組みだったんですね。 撮ったカメラの位置じゃなくて、写真に写ってる場所だったんで、撮ってる場所より前方で何メートル移動するみたいな。それを活用して上に……

Aire: 垂直方向の移動ね。

Senritz: そう。 ジャンプして上方向撮ったりりして、それを繰り返して、高いところまで行ったりとか、そういうのをちょっと考えてたんで。でも仕様が変わって、もうできないっていうことになって。いや、もちろん納得はしましたけど、もうちょっと垂直でできる何かがあったらやりたかったなって。

ワープを繰り返して高いところに登る、という発想が当初あった。

のりたま: 最初そうでしたよね、ワープカメラの仕様って。それをうまく使って、普通のジャンプではいけないところに人を飛ばしたりとか、そういうのやろうっていうのが確か最初だったと思うんですけど、結局なくなっちゃいましたもんね。

Aire: 多分、壁抜けとかを発生させやすくなってしまうとか、なんか色々大変になっちゃうっていうとこで。やめましたね、それは。

Senritz: 機会があるとしたら、そういった感じでやりたいなっていう考えはありますね。

Aire:やっぱり縦移動ってワクワクすると思うんですよ、人間って縦移動に興奮を覚える生き物だと思ってて。次回作は縦移動したいなってずっと思ってて。穴にもどんどん潜っていく話なのか、1回落ちちゃって脱出する話なのかわかんないですけど、縦移動は結構鍵だなって思ってます。

Tosiakix: 移動だったら上の方がいいですね。下だと3点トラッキングの時に足が邪魔。

Aire: あー、なるほどそうか。

Tosiakix: あと、上だったら足踏み外して下に落ちるっていうリスクとかありますよね。

Aire: そうそう、で、上に上にっていうとこでいうと、ワープカメラはワープのギミックがより生きてくるみたいな場面もあったりとか。私はディメンションカメラはもっと色々遊べるなって思います。1回しか登場してないですが、パイプの水流に流すギミックとか。例えばパイプを組み替えて人を別の場所に流すとか、パズル要素も全然足せる余地があるし、あれだけでだいぶ遊べる感じありますよね。

Tosiakix:フレンドをモンスターボールに入れて投げたいですね。

Senritz: 似たような感じかもですね、あれ。

のりたま: モンスターボールがやっぱり発想のポイントとしてあって、てかVRChatにあったんですよ、元々モンスターボールを模したワールドっていうのがあって。それできるなと思って今回(ディメンションカメラ制作)やったような感じなんですよね。

Aire:あ、そうなんですね。

のりたま: あれは発想はモンスターボールなんですよ。しょうもないこと言ったフレンドを閉じ込めておくモンスターボール(笑)

一同:(笑)

Aire: それで例えば写真が燃えるとかね。火の場所があって、フレンドが閉じ込められた写真が燃えちゃうとかはめっちゃ怖いし、そういう要素があったら面白いだろうなとかね。

Tosiakix:面白いっすね。

Senritz: 人が入ってると、キーになるとか。入った人の人数によって、なんか重さが、変わるとかね。

Aire:遊びがいがある。

Tosiakix:写真の中で棒を並べて、バーコード作ったら機械が読み込んでくれるとか。

Aire: 中と外で、中の人が答えを作るみたいな。うん、本当に色々できる。 なのでね、次はKEY LOCKⅡを作るのか、それともまた別のゲームを作るのかみたいなのは……Ⅱはやっぱ作りたいなっていう思いはありますね。なんか感想にもあったじゃないですか。同じギミック使って、もうちょっと難しいのやってみたいとか、もうちょっと長いのやってみたいとかあったんで、多分やったら割と期待には応えられるんだろうなとは思ってますね。

Aire: ……そんな感じですかね。前からゲーム作りたい作りたいって結構思ってて、でもどうやって作るんだろうとかわかんないながら、なりゆきでキックオフしたんですけど、結果的に1発目としてすごくいいスタートを切らせてもらえたので、これからもゲームディレクターの名に恥じない、ゲームを作っていきたいと思います。ぜひ今後ともよろしくお願いします。

のりたま: よろしくお願いします。

Tosiakix:こちらこそ。

Senritz:よろしくお願いします。

Aire: これ読んでる人はですね、コメディアスは今後もゲームを作っていくと思いますので、ぜひお楽しみに。

ということで、無事ゲームを作ることができたコメディアスでした。
なにやら来年もVRの企画を練っているとか……。
皆さんも是非続報をお楽しみに!

注釈

*¹ Typeman
WOWOWとCinemaLeapとが共同で製作したVR演劇。第79回ヴェネチア国際映画祭でPremio bisato d'oro 2022の最優秀短編賞を受賞している。遠い世界の話のように感じるが、制作スタッフのクレジットを見るとVRChatで見知った名前もちらほら。我々も頑張ろう。

*² スプラトゥーンの開発者の話
任天堂がWEB上で展開していたインタビュー企画『社長が訊く』の中のスプラトゥーン回のこと。Aireはスプラトゥーンで遊んだことがないくせに、たびたびその精神性を引用している。こちらから見られます。

*³ Half-Life: Alyx
Valveが開発、2020年に発売されたVRFPSゲーム。
普段FPSをしないAireもその完成度高さにドハマりして遊び倒した。
Senritzさんは途中で怖くなってクリアできなかったと聞いている。

*⁴ 8番出口
KOTAKE CREATEが開発、2023年11月29日にSteamにて配信が開始されたホラーゲーム。現在バズっている。
プレイ時間の短さ(15~60分)やリミナルな雰囲気など『KEY LOCK』と似ているといえば似ている部分もあり、Tosiakixさんの当初のアイデア通り、地下鉄っぽい雰囲気にしておけば我々もバズることができたのでは、とAireは少しだけ思っている。

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