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GOが ごー




私の娘は一人っ子だ。

私には兄と妹がいる。

運良く兄妹がいる家庭と一人っ子の家庭を味わっている最中である。

一人っ子というと、自己中だったりマイペースだったり、親から甘やかされてわがままのようなイメージがある。

親や親戚から注がれる愛情は他に分散されることなく、一直線に向かってくるので、兄弟がいる人からはそんなイメージをもたれがちなのもわかる。

一直線に愛を受ける娘をみていて、羨ましく思うときもある。


だけど私が関わってきた一人っ子の友達はみんな、頭が良くて優しくて、世の中から植え付けられるイメージからかけ離れる子ばかりで、驚かされることが多かった。


そんな中、ユーモアセンス抜群だった一人っ子の友達がいた。


私が19歳か20歳頃に働いてたバイト先のミミちゃんである。


ミミちゃんは私よりも勤務歴は上だったけれど年齢が同じこともあり、最初はお互い敬語で話をしていたが、こむちゃん、ミミちゃんと呼ぶような仲に自然となっていった。


仲良くなれば込み入った話もするようになり

「うち、私のためか知らんけど冷蔵庫に水かお茶か牛乳しかない家でさぁ、ジュース買ってもらったこととか旅行中くらい!友達の家に行った時に飲むファンタとかめっちゃ美味しかった。」


なんていうエピソードも聞いた。



ミミちゃんの親御さんは、ミミちゃんの虫歯や健康に気を配るタイプだったらしい。




バイト先は人の出入りが多い駅構内にある飲食店だった。

キッチンの人、ドリンクを作る人、配膳する人、お会計をする人と役割が分担される。


店の敷地が広いので、それぞれとのコンタクトは全て無線インカムを使っていた。


胸元あたりにつけたマイク横にあるボタンを押して、話す。


「A卓のドリンクまだですか?催促きてます」
「あと少しで作り終わりまーす」
「了解」

「お冷グラスなくなりまーす」
「了解。今ハンバーグ温め中なんで提供まで時間かかるよ」

「喫煙席で3名様おまちです」
「喫煙席、満席でーす」


時々「ザザッ」というノイズ音が混ざりながらも、
シフトメンバーが最高の日は、円滑にそれぞれの情報や要望が飛び交うのだった。



その日のメンバーも、インカムで冗談を言い合っても社員に怒られない最高のシフトで
私とミミちゃんが配膳や食器を下げたりするホール担当だった。



お店の入り口にあるレジで会計をする人からこんな情報がはいった。


「今、喫煙席いった人まじかっこよかったです」



するとドリンク担当、キッチン担当から


「どんな人?あ、傘持ってる?」
「キッチンから喫煙席みえない」
「今座った身長高い人」


なんて言葉が飛び交った。



出会いを常に求める大学生のミミちゃんが店内奥にあるテーブルのお皿を片付けながら、私の方に顔を向けて




「私が注文ききにいく!」


という声がイヤホンから聞こえる。



私はドリンクを運ぶためにトレーに飲み物を乗せていたので、


「おっけい、ミミちゃんGO!」


と返事をして応援した。


すると私の声援にならって


「 GO!」
「 GO!」
「 GO!」 


とキッチン、ドリンク、お会計の人からもミミちゃんへの声援のGOがやってきた。




ミミちゃん、テンションが上がる。


「 レッツGO〜!
さぁ、今で何回GOを言ったでしょうか?」


と楽しそうな声で喫煙席にいるかっこいい人へ向かうミミちゃんから、わたしたちへ謎のクイズが発信された。


みんな手元の仕事をこなしながら少し考える。




すると、キッチンの子が「ごー!」と言った。




それぞれの場所で大笑いをなんとかかみ殺し、仕事に戻った。


しょーもなすぎる。
でも最高におもしろかった。




私はミミちゃんの頭の回転はやすぎん?!なんて思いながら「お待たせしました〜」と席へドリンクを運んだ。


ミミちゃんのような瞬発力のあるユーモアな会話ができるようになりたいなと憧れる。



今でもGOという単語を聞くと、この時の情景を思い出す。





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