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【感想】『冬霞(ふゆがすみ)の巴里』

Fantasmagorie
『冬霞(ふゆがすみ)の巴里』
作・演出/指田 珠子


わたしは、永久輝せあさんのファンです。容姿端麗で華やかでありながらも憂いを秘め儚げでもある多面性に魅力を感じます。
また、彼女の唯一無二な少年と青年の狭間にしか聴けないような独特な声質に堪らなく惹かれるのです。

今回、東京建物 Brillia HALLで2回観劇させて頂きました。初見を大切にしたいので配信は見送りました。
実は、自力でチケットを入手することができず朽ち果てておりましたところ最早比喩ではなく救いの女神様からお声をかけて頂いたのです。感謝しかありません。

これまで、宝塚歌劇を観劇し享受した範囲内でのみ感想を綴るタイプの人間だったのですが作風なのか余計な説明がないこと、余白がいい意味で観客に委ねられており自分なりに考察したり様々なことに思いを馳せることができました。

以下にネタバレありの感想とわたしなりに考察した事を綴りたいと思います。
長くなりそうです。お付き合い頂ければ幸甚でございます。








ストーリーの感想

「冬霞の巴里」は、古代ギリシャの悲劇作家アイスキュロスによる「オレスティア三部作」をモチーフに19世紀末の巴里を舞台にしています。
「オレスティア」は、王女エレクトラが、母の愛人に父を殺された王女が復讐する物語で、「冬霞」は弟の視点から見た復讐劇ということになります。
ハムレットのようにも感じました。

復讐劇なのでストーリーは終始陰鬱でしたが、宝塚らしい美しさは耽美的なビジュアルやゴシック調の衣装で補完されていたように思います。
セットや、舞台半面にカーテンを引き過去を想起させる演出も好みでした。
エリーニュスが、復讐の女神として主演者の心に呼応し具現化した亡者であったり時には給仕やダンサーとして不自然なのだけど自然に存在している活用の上手さに唸りました。

アンブルに対する違和感

姉(アンブル)は、弟(オクターヴ)と一緒に復讐を誓うのだけれども実際はオクターヴだけが決行していて姉は手を汚していません。
劇中にも、何度となく姉さんは復讐する気概があるのかと確認するセリフもあり
復讐を遂行するためだけに生きてきた筈なのに、観客としても、不思議と姉と弟の間には復讐に対する温度差がどこかあるような印象が拭えませんでした。
オクターヴは実際に他人を屠り心を擦り減らし、仇討ちに対して完全に正当化できない心の揺らぎが痛ましかったです。
2幕ラストで「共犯者」「私が一緒にいる」とアンブルは言うけれど最後までアンブルの手は綺麗なままだった。だからこそ『もう、やめよう』という言葉が出てきたのかもしれない。
何となく、アンブルは操作性が高い人物なのかもしれない闇を想像してしまったり…穿ち過ぎでしょうか。

舞台としては「終わり」なんだろうけれども、物語は終わってない。これから先の二人が幸せに暮らしていくのか、破滅なのかどう転じるのか予想も付かない。余韻のある終わり方がきっと賛否分かれるだろうなと思いつつわたし的には非常に好みでした。

そもそも復讐とは

そういえば、梅田からブリリアで「お母さまは私のことも好きじゃないわ」というセリフが追加になったとどこかで読んだのだけど
このセリフがキーポイントになるのでしょうか。
この復讐劇は、それぞれが罪の意識を持ちながらもそれぞれの正義に従って行動しています。

そのなかで、幼少期のオクターヴの記憶は、そもそも全てが真実なのか?アンブルによって操作された部分があるのかも?
父と叔父それぞれと秘密を共有するオクターヴが『秘密って嬉しい』
秘密を共有することが特別な関係であるという思考が、復讐は2人だけの秘密=特別な関係に繋がるのかしら。

二幕開けに、バースデーケーキの蝋燭を吹き消す際にお願い事が決められないオクターヴに対してアンブルの上の姉(イネス)が「自分の意志で決めるのよ」というセリフが、ラスト復讐相手が分からなくなって混乱したオクターヴが「誰か指示してくれ」と悲痛な叫びの伏線だったのかと思いました。


イネスの自殺の原因は、結婚を強いられての結果と劇中に語られる。これは、下敷きの設定通りだったかな。
私の脳内はもっと残酷な真実を想像しており(ばっちりすみれコードに抵触)無駄に疲弊した。
そもそもクロエとギョームの話も全部真実である保証は無いというは、人は都合がいいように記憶や真実を改竄する可能性があるしなとも
また、人によって真実は形を変える
何が正しいのか、正確がないことが主題なのかとも感じました。


クロエは、イネスを自殺という形でオーギュストに奪われた
ギョームは、オーギュストから強請られていた
2人は犠牲者という立場から共謀を図る。
その前から2人は不倫関係にあったようだけれども…

オクターヴは血の繋がりがない(当時は知らなかった)クロエから疎まれて育った
アンブルもまたクロエから愛されていないと感じながら育ち、義父に懐き血の繋がりがない弟を庇護していた
ネグレクトの果てに愛する父を理不尽に奪われた、そもそも母と叔父の事情なんて知る由もない。そう考えると2人は犠牲者…

どちらも犠牲者であり加害者という構造なのですね。

クロエは、共犯者であるギョームとは強い絆で結ばれていたように感じたけど、最後までオクターヴは他人の子で家族ではなかった。
オクターヴの孤独が伝わってきて只管辛かったです。

「親の復讐がそんなに偉いのか」的なことを言っていたヴァランタンが、実は親の復讐で動いていたという最大のブーメランに面くらいました笑
伏線回収に暇が無いですね。

最後に、オクターヴがあれだけの美男子で確実にモテそうなのに実際は誰ともお付き合いした事がない奥手な男性でエルミーヌとのお散歩に初々しさを感じたのですよね。
復讐がければ、恋人と2人で幸せに暮らす未来もあったのでしょう。彼自身も羨望していたと告白する場面がありました。

実は、あの美貌をフル活用して、女性を籠絡して復讐するのかと妄想していたので実際は、ガチンコフルバトルだったのが残念と感じたのはここだけの話です笑

色々と書きましたが、永久輝さんの秘めたる凶暴性を見たいと述べる指田先生はわたしと同じものを見て育ったのではないかと思うくらい趣向が好みです笑
いつか大劇場でロングランする日を楽しみにしています。



キャストの感想

  • オクターヴ(永久輝 せあ)
    ビジュアルも完璧。前髪が長くて動きがあるのが、美しい絵画を彩る額縁かの如くでした。有村先生のお衣装も似合っていて脚がより長く美しかった。感情のふり幅が大きく、周囲の感情に反応しやすく、狂気に振り回されていながらも、崖っぷちで踏みとどまる強さも表現されていて素晴らしかった。ただの狂人に落とし込まない深く繊細な役作りでした。セリフにも、歌にも心情が乗り熱演に観客として、心が震えるのでした。
    また、言葉はなくても、明るいエルミーヌに心惹かれている切なさ、アンブルへの複雑な思いなど表情での表現力も抜群でした。2回観て、涙を流している日といない日があって日毎に演技が変わる面白さを感じさせてくれました。泣いてる永久輝さんは庇護欲を掻き立てられた…
    もっとたくさん永久輝さんが真ん中に立つ舞台を観たいです。
    フィナーレでは、ひとりでタンゴを踊る姿が孤高の美しさでした。男役同士で絡み合いながら踊る様も倒錯的でした。

  • アンブル【オクターヴの姉】(星空 美咲)
    中央に立つ星空さんを観たのは、実ははじめて。存在感があり、これが所謂“押し出しの強さ”かと感じるくらい目を惹きます。
    驚く程に、芝居も歌も達者。話し声も綺麗で聞き取りやすい。何より声が可愛らしい。
    実年齢は姉にならないが、不思議と姉に見える包容力でオクターヴを抱き寄せて慰める姿はピエタ像のようでした。
    何を考えているのか知れない心地の悪い印象も含めて演技であれば巧いなと思います。
    何より、永久輝さんとの声質が合っており二人のハーモニーが非常に気持ちがよかった。耳が喜んでおりました。

  • ジャコブ爺(一樹 千尋)
    オクターヴに対して、実は父と使用人の子であること、母は実母ではないこと、姉たちとは血がつながらないことを伝えるというキーパーソン
    世捨て人の風情で、黙って座っている時の耄碌した感じとの切り替えはさすが専科だなあと思うのでした。男性にしか見えない。下宿先で皆のどんちゃん騒ぎにマイペースで半寝する様は愛らしかった。

  • クロエ【オクターヴの母】(紫門 ゆりや)
    ロイヤルな風貌が非常にハマってた。無機質な美しさで体温も低そうなところが青色基調の衣装も相俟って極まっていた。怒りで手を振わせたり、威嚇する犬のように頬をひくつかせる細やかな芝居にさすがと思った。

  • 女将 サラ・ルナール(美風 舞良)
    一人だけとてつもなく声量がある。下宿の経営者なので端を締める役なのでしょうけれどインパクトが大きい。

  • オーギュスト【オクターヴの父】(和海 しょう)
    白に血痕の模様が、ディオールのブックトートトワル ドゥ ジュイ エンブロイダリーみたいな柄だなあといつも思ってしまう。様付けでお呼びしたい和海さんの見事なロイヤル感。セリフを口にせず、ただ歩いているだけなのに存在感が際立っていた。
    冷徹な無表情から、オクターヴの記憶に存在する優しい父としての笑顔や、ギョームに向けた威嚇した表情など同一人物とは思えない多様な表情がいずれも美しかった。
    持ち前の美しい歌唱は、一幕に少しだけだったのが残念ではあったけど死者の役だから仕方ないか。
    何より永久輝さんとの父子であるビジュアルの説得力があった。最高。

  • ギョーム【オクターヴの叔父】(飛龍 つかさ)
    快活な役から、このような常に眉間にしわを寄せて背中に哀愁を漂わせるような悪人役まで本当に演技巧者。貫禄があった。実は悪い人というよりか弱い人であった事が浮き彫りとなり体格まで縮んだ演技に唸ってしまった。
    また、フィナーレで聖乃さんとペアで踊る際に見せた色気や迫力に圧倒された。
    彼女もまたカメレオン役者ですね。

  • カジミール・ブノワ(峰果 とわ)
    1回目見たときは、ギョームと見間違えて頭が混乱した笑
    オーギュストより兄弟みたいなビジュアルだった。
    気持ちがいいくらいの悪人で、斃された後も目を開いたままこと切れている演技がうますぎて怖かった。

  • ヴァランタン(聖乃 あすか)
    従来あるイメージは美しく上品でお育ちがいい人だったので、ビジュアルから振り切った怪演が見事だった。眉毛をそり落としていても爬虫類みたいな見た目でも美形ではある。仕方ない。
    歩き方や、相手の煽り方、狂気に満ち蔑んだ醜悪な表情もすごくよかった。私が見た回で読んでいた新聞紙をたたむさいに落としてしまったのだけど、苛立ったように無骨に拾い上げる姿も役のままで、実は憑依型役者なのかもと思った。
    そう、実は2回目が2列目のドセンターだったのだけど最後の晩餐で聖乃さんがほぼテーブルに隠れてしまって時々ひょっこり顔を見せる以外はどうなってるのか全く分からず。複数回観れてよかった…と思いました。

  • エリーニュス ティーシポネー(咲乃 深音)
    冒頭の歌、1幕ラストの歌に心を揺さぶられた。素晴らしい歌姫。
    そしてマイムもダンスも丁寧で感心した。

  • エリーニュス アレークトー(芹尚 英)
    顔が小さい、ウエストの細さ驚異的なスタイルの良さ。そしてあのメイクでばっちり客席をみてくれるので軽率に好きになった笑

  • 学生 シルヴァン(侑輝 大弥)
    大きな瞳で白目がきれい。あの大きな目で視線を感じると思って目をやると目が合う。恐ろしい。好きになった(二回目)焦燥感を漂わせたアナーキー役がハマってた。

  • ミッシェル【オクターヴの義理の弟】(希波 らいと)
    スタイルが驚異的。何等身なんだろう。笑顔が赤ちゃんというか天使のようで善人の役に嫌みがない。あの両親に溺愛されたのだろうなと複雑な気持ちにさせられるくらいいい子だった。
    ラストの歌は、声は芹香斗亜さんに似ている感じ。

  • エルミーヌ・グランジュ【ミッシェルの婚約者】(愛蘭 みこ)
    可愛かった・・・・!!!まさにお人形のよう。当て馬でもなく気持ちがいいくらい心優しい人の役が上手だった。育ちがいいのがにじみ出てた。歌もよかったな。可愛かった!!(2回目)

  • 少年 オクターヴ(初音 夢)
    子どもらしい仕草に聞き取りやすい声、絶叫も上手だった。“いかにも子役”じゃなくて“子供”の役が上手いと思った。

余談ですが、春妃うららちゃんが劇中「こまどりさん♡」ってセリフがあるんですが、びっくりしました笑
天然男爵夫人可愛らしかったな。


長くなりましたが最後までお読み下さった方ありがとうございました。

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